── |
はじめまして、こんにちは! |
敦澤 |
はじめまして、敦澤といいます。 |
── |
あのぅ、いきなりでたいへん恐縮ですが
キャプテンとお呼びしても‥‥? |
 |
敦澤 |
ええ、かまいませんよ(笑)。 |
── |
ありがとうございます!
さっそくですがキャプテン、パイロットって
今もむかしも
あこがれの職業のひとつだと
思うんです。
とくに、ぼくたち男子にとっては。 |
敦澤 |
そうかもしれません。 |
── |
だから今日は、
ものすごく楽しみにしてきました! |
敦澤 |
ご期待に応えられるかどうか‥‥
がんばります(笑)。 |
── |
それでは、キャプテンが
はじめて雲の上にズボっと出たときって‥‥。 |
敦澤 |
感動の一語でしたね。 |
 |
── |
やっぱり! それはいったい、
どのような体験だったのでしょうか。 |
敦澤 |
はじめてコクピットに座ったのは
パイロット訓練生だったとき。
その日は天候が悪く、小雨がぱらついていて‥‥。 |
── |
ええ、ええ。 |
敦澤 |
雲が、低く垂れ込めていました。 |
── |
‥‥はい(なぜかドキドキしている)。 |
敦澤 |
厚い雲の中って、昼間でも光が入ってこない。
で、そんな薄暗いところから
とつぜん、雲の上の世界へ出たんですが‥‥。 |
── |
いかがでした‥‥か? |
敦澤 |
ここは天国かと。 |
── |
ははーっ! |
敦澤 |
あのときの雲は‥‥そうですね、
おそらく
高度3000メートルくらいだったかと
思うんですけれども。 |
── |
ええ、ええ。 |
敦澤 |
私の乗務するボーイング767の場合は
4万3千1百フィート、
つまり1万3137メートルが最大高度。 |
── |
はい。 |

こちらが敦澤キャプテンの乗務機・ボーイング767。 |
敦澤 |
ですので、その最大高度の
4分の1くらいの高さで、ズボッと。 |
── |
天国に。 |
敦澤 |
ピッカピカの良い天気で‥‥。 |
── |
遮るものが、何にもないわけですもんね。 |
敦澤 |
真っ白な絨毯のうえを
スーッと滑っていくような感じです。 |
── |
‥‥気持ちいいでしょうねぇ。 |
渡辺 |
気持ちいいです(キッパリ)。 |
 |
── |
誰もいない、何もない世界‥‥。 |
敦澤 |
そうですね。
高度3000メートルくらいまでは
鳥が飛んでたりしますけど。 |
── |
へぇ、鳥って、そんなに高いところまで。 |
敦澤 |
あとは、蜘蛛がおしりから垂らした糸を
時速200kmを超えるような
ジェット気流に乗せて
太平洋を横断するなんて話も
あるようですが‥‥。 |
── |
バルーン・スパイダーというやつですね。 |
敦澤 |
さすがに見えないので。 |
── |
‥‥小さいですしねぇ。 |
敦澤 |
でも、ミッキーマウスさんには
たまに会うかなぁ。 |
── |
ミッキーマウスさん? |
敦澤 |
ええ。 |
── |
すみません、ミッキーマウスさんと言うと、
あの世界的に有名な
「ミッキーマウス」さんですか!? |
敦澤 |
はい。 |
── |
ええーーーっと‥‥。 |
敦澤 |
あはははは、すみません(笑)。
いえね、ほら、ディズニーランドなんかで
お子さんが手を離してしまった‥‥。 |
 |
── |
ああ、風船ですか! |
敦澤 |
そうそう(笑)。
高度が高くなると、割れてしまいますけど
ある程度の高度くらいでしたら、
そういう物体に、出会ったりするんですよ。 |
── |
風船って、そんなに高くまで飛んでくんだ‥‥。 |
敦澤 |
なぁんにもない空の上で
急に見覚えのあるかたがヒュッと出てくると
ちょっとびっくりしますが(笑)。 |
── |
ちなみに、コクピットって
実際、どういうところなんでしょうか?
かっこいいですよねぇ‥‥(うっとり)。 |
敦澤 |
良いところですよ(笑)。 |
 |
── |
良いところ!
でも、まさしく「聖域」と言いますか‥‥
誰も入れないじゃないですか。 |
敦澤 |
そうですね、今は保安上入れませんね。 |
── |
‥‥「今は」? |
敦澤 |
2001年のナインイレブン(9.11)以前は
巡航中のコクピットに
お客さまをご案内してたりしたんです。 |
── |
え! |
敦澤 |
たとえば、ロス行きなど長距離路線なんかでは
コクピット見学があったりしたんですよ。 |
── |
そんな魅惑のプログラムがあったんですか!
う、うらやましい‥‥。 |
敦澤 |
そうですね、いま思えば。 |
── |
写真などで見るかぎり、
レバーやらボタンやらツマミやら計器やらが
ずらずら並んでいる、
たいへんメカメカしい印象なんですけれど‥‥。 |

こちら(憧れの)コクピット。イメージとちがって、ずいぶんスッキリしてる。
※画像をクリックすると、大きな写真が見られます。 |
敦澤 |
ぼくも、はじめてパイロットになりたいなと
思ったとき、
「あのレバーやらスイッチやら計器やらを
ぜんぶ覚えるのは無理だな」
と思って、
あきらめかけたことがあります(笑)。 |
── |
あんなにもたくさんの計器がある必要は‥‥
あるんですよね、もちろん? |
敦澤 |
そうですね、すべて必要なものです。
ちなみに、古い飛行機ほど
ちいさな計器がたくさんついています。 |
── |
それは、気温とか‥‥? |
敦澤 |
姿勢指示器、水平・定針儀、
速度計、高度計、昇降計、
外気温、エンジン内の温度、客室の温度‥‥。
古い飛行機の場合には
航空機関士、フライトエンジニア
という人が
監視、操作していたんですね。
われわれ機長と副操縦士だけでは
チェックしきれなかったので。 |
 |
── |
そんなにたくさんあったんですか! |
敦澤 |
でも、ボーイング767くらいから
コンピューター制御に切り替わりまして、
いまは、
だいぶシンプルになっています。 |
── |
あの‥‥飛行機をつくってる会社には
ボーイングとかエアバスとか、ありますよね? |
敦澤 |
大型機に関していうと
現在では、ほぼその2社ですね。 |
── |
キャプテン的に、
「このメーカーの、この機体がいい」
みたいな「好み」はあるんでしょうか? |
敦澤 |
わたし自身はボーイングの2機種しか
乗っていないのですが、
エアバスのA320に乗っていた同期に聞くと、
ボーイングとエアバスでは
「設計思想」がまったく違ってますね。 |
── |
‥‥設計思想。 |
敦澤 |
一見、同じ「飛行機」に見えますけれど
安全についてのコンセプトが、ぜんぜん違う。 |
── |
それは、どのように‥‥? |
敦澤 |
とうぜん「安全を守る」という点は
同じなのですが、
端的に言って、ボーイングのコンセプトは
最後の砦は人間であるということ。
他方でエアバスは、人間には頼らずに
最後の最後まで
コンピューターで安全を守る
という考えかたで、設計されているんです。 |
 |
── |
ははー‥‥。 |
敦澤 |
これは、どちらがいいという問題では
ありませんけれどね。 |
── |
双方とも「安全に空を飛ぶ」ということを
目指しているわけで、
それを人間に任せる設計にするか
コンピュータに任せる設計にするかという、
その考えかたの違いであると。 |
敦澤 |
あとは、デザイン面の違いがあります。 |
── |
と、おっしゃいますと。 |
敦澤 |
たとえば、
飛行機は「多重化」という手法によって
安全性を高めているんですが‥‥。 |
── |
多重化。 |
敦澤 |
たとえば、電気系統でも油圧関係でも、
安全にとって重要な部分には
故障しても
必ずバックアップが用意されているんです。 |
── |
ええ、ええ。 |
敦澤 |
その、ひとつひとつのバックアップを
ボーイングでは
「レフト・センター・ライト」
と呼んでたりしますが、
エアバスの場合には、それが
「グリーン、ブルー、イエロー」
だったりして。 |
 |
── |
ははぁ。 |
敦澤 |
着陸装置を動かすレバーやスイッチ類も
ボーイングは
ガッチリしていてデカいのに、
エアバスのほうは
ちっちゃくて可愛かったりします。 |
── |
スイッチ類のネーミングにしても、
レバーの形状にしても、
アメリカのボーイングが「実用的」なのに対し
ヨーロッパのエアバスは、
どこか「おしゃれな感じ」なんですね。 |
敦澤 |
ええ、ええ、そうなんですよ。
ボーイングのコクピットは
ブラウン系やグレー系なんですけれど、
エアバスはブルー系統。
ヨーロッパの車かな、と思うくらい。 |
── |
なるほど。 |
敦澤 |
ご質問の「好み」でいうなら、
ボーイングの
ガッシリとした重たい操縦感覚は
好きですけれどね。 |
── |
なるほど、なるほど。
現在では、その2社がツートップである、
とのことですが
でも、以前はもっとあったんですよね。 |
敦澤 |
はい。
たとえば
MD-11という大型旅客機を製造していた
マクドネル・ダグラスという会社が
かつてありましたが
現在はボーイング社に合併されています。
MD-11じたいは、
まだ世界の空を飛んでいますけれど。 |

ⒸAntti Havukainen 2006
ボーイングに吸収されたマグドネル・ダグラス社のMDー11。 |
── |
あの、垂直尾翼にエンジンがついている、
ちょっと個性的で
かっこいい旅客機ですよね、MD-11って‥‥。 |
敦澤 |
ええ、そうですね。
もちろん、小さな会社はたくさんありますが、
規模や知名度、機体の大きさなどの点から
考えますと、
今のところボーイングとエアバスの
ツートップの時代と、言っていいと思います。
<つづきます> |