── |
こうやって取材でうかがう話と、
読者の人たちから届くメールを
照らし合わせてみて気づくんですけど、
ゲームのなかに込められたものを
みんな驚くほど繊細に感じ取っているんですよね。
とくに、子ども時代に遊ばれた人の
感覚の的確さというか、「正しさ」に驚きます。 |
糸井 |
そうだねえ。 |
田中 |
子どもはほら、体の一部ということじゃなく、
いつも全身で遊んで、
全身で感じ取っていくじゃないですか。
で、ウチの子どもはちょうど
『MOTHER』のときに生まれて
リアルタイムじゃないけど、
小学生のときに『MOTHER2』
をプレイしたんですよ。
で、そのころ、ごはん食べながら、
しみじみ言うんですよ。
「……あんなぁ、おとうさん、
どせいさんってなぁ……
……ほんま、ええ人やんなあ」って。 |
糸井 |
わはははは!! |
鈴木 |
いい話だねえ(笑)! |
田中 |
ほんと一瞬「えっ!?」って、感じですよ。
本人はいたってふつうで、本気なんですよ。
で、それも、一度だけじゃなく
「……んー……ほんまに、ええ人やんなあ……」
って何度も何度も。しかもなぜか必ずメシどきに。 |
糸井 |
泣けるね、それ(笑)! |
田中 |
で、奥さんは
「えっ?! 誰さん?
どこのおともだち?」って(笑)。 |
糸井 |
あの、どせいさんが、
「イノセント」の象徴だってことは
まえの取材で言ったことなんだけど
さらにね、背景があるんだよ。
あれは、ドストエフスキーなんだよ。 |
── |
ドストエフスキー? |
糸井 |
うん(笑)。
ドストエフスキーの『白痴』っていう小説の、
ムイシュキン公爵なんだ。
ぼくはあれを読んで、
「ムイシュキン公爵って、
ほんっとにいい人だな!」って思ったんだよ。
黒澤明もあれを映画にしたりしたけど、
ぼくは、どせいさんに入れようとしたんだ。
ところが、「ほんっとにいい人」っていうのを
描くのってたいへんなことなんだよね。
ふつう、描けないんだよ。
だから「ほんっとにいい人」を表現するために、
ぼくは背景にもうひとつ入れ込んだんです。
それが、『情熱のペンギンごはん』
(※原作・糸井重里、作画・湯村輝彦による漫画)
のペンギンなんだよ。
そのくらいしないとね、
たぶん、ひろかっちゃんちの息子に、
「ほんとにいい人だ」って言われないんだよ。
ただの「楽しい、おもしろい人」になっちゃう。 |
鈴木 |
裏に隠れてるステイトメントっていうのかな、
そういうものが大量にあるね。 |
糸井 |
うん。大量にある。
それは、音楽でもあるよねえ。 |
鈴木 |
うん、音楽でもそう。
これはジョン・レノンの、とか
細かく説明していったら、いろいろあるよね。 |
── |
ぜひ、細かく説明していただけませんか。 |
鈴木 |
ええっとね……。
(1作目の『MOTHER』の
サントラCDを見ながら)
『Pollyanna (I Believe in You)』は
バグルズっぽいね、イントロが。80年代ポップ。
『Bein' Friends』はレッドボックス。
ユーロな感じ。今のt.A.T.uに通じるって強引か。
『The Paradise Line』は
80年代のスティーヴ・ミラー・バンド。
パブ・ロックの匂いもするね。
このヴォーカリスト、ギャラ高かったなあ。
『Magicant』はシンセの音色に、
ジャパニーズ・テクノの感じがあるね。
当時のジャパニーズ・テクノって
世界に誇るモノだったような。
『Wisdom of the World』は……、
よくこんな、ありそでなさそな、
ウッフンな曲作れたなあ(笑)。
アレンジはプログレ・カンタベリー派の重鎮、
デヴィッド・ベッドフォード。
この人のやりかたが特殊でね、
朝から、まずストリングスを録る。
そして管楽器、パーカッション、
最後にドラムっていう、普通と逆の録り方。
信じられなかった。
『Flying Man』のヴォーカルはルイ・フィリップ、
コーラスは私とエンジニアのグレン・トミー。
ビーチ・ボーイズなエンディングにXTC的リズム。
『Snow Man』はホントいい曲だねえ。
リアル・フィッシュを感じるよ、ひろかっちゃん。
『All That I Needed (Was You)』は
ポップスをボーイソプラノに歌わすという、
まあなんということでしょう。
譜面先に送ったりして、
練習してきてもらったなあ。
普段は賛美歌歌ってる子だものねえ。
『Fallin' Love』はモンド色強いね、いま思うと。
『Eight Melodies』はまえにも言ったけど、
8番目がジョン的なるメロディーだな。
サビはひろかっちゃん、とても賛美歌っぽい。
てな感じかな。なんか、そそぎ込んだなあ。 |
田中 |
うんうん、そういうのって
たくさんありますね……。
慶一さんもさっきおっしゃったけど、
ジョン・レノン。
わかりやすいところでいうと、
エンディングの
『スマイル・アンド・ティアーズ』は
なんとなく『マインド・ゲームス』入ってるし、
ウインターズでタッシーに乗ったときの音楽は
ビートルズの中期。
そのエンディング、音の消えかかった部分には
こっそりピンクフロイド。
あとスカイウォーカーに乗ったときの音楽、
あれのイントロは、THE WHOの
『Who's next』のシンセ意識したり。
なぜかウインターズは
イギリスのバンド意識して、とか……。
ああ……あと、
スカラビのピラミッドのBGMのベースは
レゲエのスライ&ロビーの
ロビーのベース入ってます。
あと、サルサとかのラテン系の音楽に対しても
相当、思い入れ強いし、
戦闘とかダンジョンも入れると、
もう、キリないですね(笑)。 |
── |
はぁ〜、ありがとうございます。
アンダーステイトメントが、たっぷりと。
しかもそれがパロディになってない。 |
鈴木 |
うん、そうだね。 |
糸井 |
サマーズの町のテーマとかがそうだよね。
あれはバカラックのパロディじゃないんだよな。
オマージュなんだよね、やっぱりね。 |
鈴木 |
「パロディで終わらないように」っていうのは、
非常に気を遣ったところなんだよ。
どっかで聴いたことがあるな、
っていうぐらいでとどめておかないと。
たとえば、「テックス・メックスを入れよう」
というときでも、それと同時に、
「テックス・メックスのままだとつまらないな」
って考えていたもんね。いつも。いまもだけど。 |
糸井 |
つまり、
「オレンジジュースをもとにした
カクテルをつくって、
最後にオレンジを抜く」
みたいなことだよね。 |
鈴木 |
そうそうそう。 |
糸井 |
それはもう、ぼくがふだんやってること
ぜんぶに通じますよね。
やっぱり、なんか刺激になるような、
「すばらしいな」と思ったものが昔からあって、
そのときに味わった気持ちを、
まずいったん借りてきたところで、
そいつといっしょにつくるんです。
「ジョン・レノンといっしょにつくって、
ジョン・レノンに別れを告げるとオレが残る」
みたいなことなんだ。
最終的にできあがったものに
ジョン・レノンはいないんだよ。
でも、ジョン・レノンがいないと──。 |
鈴木 |
できないんだよ! |
糸井 |
だから、ドストエフスキーもそうさ!
ドストエフスキーのドの字も感じないですよ、
誰も。最終的には。どせいさんには。
だけど、どっかのところで
ドストエフスキーファンは、
何か思ってくれる可能性もあるかもしれない。
同じ意味で、何も知らない子どもにも
ドストエフスキー的な何かが伝わるかもしれない。 |
── |
あぁあああ……はい。はい。うん。そうか。 |
鈴木 |
だからさ、おとな的人間が
つくったものなんだよ(笑)。 |
── |
『MOTHER』というゲームは。
はい。痛感します。ほんとに。 |
糸井 |
ゲームって基本的に、若者がつくるからね。
『MOTHER』は、
年長者、おとながつくったゲームなのさ(笑)。 |
鈴木 |
ムケてないおとな、ね(笑)。
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