『MOTHER』の音楽は鬼だった。 鈴木慶一×田中宏和×糸井重里、いまさら語る。 |
いまなお、多くの人の心をとらえて離さない 『MOTHER』シリーズの音楽。 その音を紡いだのが鈴木慶一さんと田中宏和さん。 開発者の糸井重里を交えて たっぷりとひもといてもらいましょう。 その経緯を。とっておきの秘密を。込めた情熱を。 一見のほほんとした「おじさん」たちは、あのとき、 あきらかにムキになって戦っていた!鬼だった! なお、ときたま登場する「ムケてない」ということばは 「大人になりきれていない」という意味で使います。 あまり余計なことなど想像せぬように。 |
全12回にわたってお届けしてきた 「『MOTHER』の音楽は鬼だった。」、 いかがでしたでしょうか。 当時「子どものもの」としか認識されてなかったゲームに 3人の「おとなたち」がいかに本気で取り組んでいたか、 少しでも伝わったならうれしく思います。 さて、充実した連載のおしまいに、 3人の「おとなたち」からみなさまに ちょっとしたおくりものを。 直接『MOTHER』の音楽を手がけた 鈴木慶一さんと田中宏和さんからは 「『MOTHER』ファンにささげる5枚」 と題して、おすすめのCDを挙げてもらいました。 もしも『MOTHER』の音楽が大好きな人なら、 これらの音楽のうちの何かが 胸に響くのではないでしょうか。 おふたりが寄せたコメントも必見です。 音楽に限らず 『MOTHER』のすべてに関わった糸井重里さんからは、 ユーザーに対してのメッセージをいただきました。 それは、あるメールに対する返事という形をとっています。 けれど、大きなものを含むメッセージですので ぜひみなさんに読んでほしいと思います。 『MOTHER1+2』の発売まであと数日となりました。 わくわくしているみなさんに、 『MOTHER』の音楽チームから 連載のおしまいに素敵なデザートを贈ります。
糸井さんが『MOTHER』というゲームを 作ると聞いた時に、実に短絡的に、 このアルバムの事を思った。 このアルバムの、そぎ落とした無駄のないサウンドは、 ゲーム音楽を作る上で、 そう、音数を少なくしなければならないという状況で、 励みになった。
本来は完成されなかったアルバム 『スマイル』をあげようと思ったが、 伝説のアルバムより、一応は正式に発売された、 このアルバムの持っている、 断片を強引に作品化したところを買おう。 で、アメリカの明るさと暗さが詰め込まれている、 ほとんどドラムレスの不思議なアルバムです。 パーカッションの使い方が、ゲームに影響大。
『スマイル』をブライアンと共同で作ろうとし、 失敗に終わった、ヴァン・ダイク・パークスの ファーストアルバム。 またしても大失敗作と言われる。 アメリカのユーモアと、霧の中のようなサウンド、 レイ・ブラッドベリ的とでもいうかな、 そんな音が『MOTHER』の音楽を作る時に重要だった。 当時60年代末の西海岸、 ワーナー、バーバンク系サウンドは、 アメリカを代表する音楽を作っていたと思うが。 ランディ・ニューマンも含めて。
XTCのアンディ・パートリッジ、 1980年の初ソロ・アルバム。 その後22年もソロは、なしだからなあ。 このアルバムのダブ的音の処理や、実験性は、 ひろかっちゃんのダブ趣味と、からんで、 かなり意識した。
10CCを抜けた半分、実験工房派の ロル・クレームとケビン・ゴドレイのファーストアルバム。 アナログで3枚組(CDは2枚組)。ギズモという、 ギターの弦をこすって持続音を出すエフェクターを使って 作られたという、大作。 『ロスト・ウィークエンド』と言う曲では、 サラ・ヴォーンがジャージーに歌ってる。 この感じ出したかったんです、ゲームで。 エレキ・ギターの弦をこする音で、 ストリングスの音を出すって発想がすごいけど、 当時のゲーム内音源に実は近い音だったりして。 ロスト・ウィークエンドと言えば、 ジョン・レノンが、ヨーコと一時別れていた時を、 そう呼ぶんだな。 ロスト・ウィークエンド時代。 西海岸でハリー・ニルソンと酒ばっか飲んでた。 ニルソンといえば、 『ニルソン・シングス・ニューマン』。 ランディ・ニューマンの曲だけを ニルソンが歌ったアルバム。これもいい。 映画『失われた週末』のレイ・ミランドの アルコール中毒の演技もいいし、 ミクロス・ローザの音楽も怖い。 と、どんどん話は脱線していくので、 このへんで、チャオ。 鈴木慶一
“大きな意味でマザーの音楽に通じる アーティスト&バンド。 5枚に絞りきれずにスミマセン!” 当然『MOTHER2』(94年)以前に 録音されたものをあげました。 外資系のCDショップの店頭においてある 試聴機の「推薦版」のような意味あいは、 ぜんぜんないです。 あと、読者として、こういう人達に向かって書いてる‥‥ みたいな事も、ぜんぜんなく書いています。 (そのわりにはこっちの方が聞きやすいか‥‥ とか考えたり、たまに、してます(笑)) ほんとーに「独り言」に近い 個人的な見解だと考えてください。 音楽を作る、ゲームを演出する側からは、 「プロです」(?)と言えるかもしれませんが‥‥ いざ作られた物を語る側に立つと僕は 「ど・し・ろ・う・と」です。痛感しました。 (現在入手できるものはジャケット画像から 販売ページにリンクしました。 クリックしてみてくださいね) 【MOTHER以前】
開発スタート当時、糸井さんとの『MOTHER』の 打ち合わせの後。アメリカ、ETの街並‥‥などなど いろんなキーワードから思い浮かんだのが、まず 「ランデイ・ニューマン」。 アメリカのシンガーソングライターです。 最近では映画「トイ・ストーリー」 「モンスターズ・インク」の音楽やってましたね。 『リトル・クリミナルズ』の『short peaple』、 『ランド・オブ・ドリームス』の 『I want you to hurt like I do』といい (英語、あまりできないのですが‥‥笑) んー、外人になって聞くとどんな印象なのだろう。 とにかく歌詞がユニーク。 コード進行、アレンジが特に好き。 んー深いです。大きいなあ。あこがれです。 当初『MOTHER』の中心には こんな音世界を置きたい‥‥という気持ちが 強くありました。
ビーチボーイズは、 いままでの対談で何度もでてきてますが ブライアン・ウィルソンのソロアルバムです。 このCD、『MOTHER』の開発で 世田谷の慶一さんのお宅におじゃまする道中 いつも聞いてました。 ちょっと早く着きすぎた時は これ聞きながら近所をブラブラと‥‥。 田中、個人的には、これを聞くと 『MOTHER』を思い出します。 特に 1)love and mercy 3)melt away 4)baby let your hair grow long 7)there's so many 彼のソングライティングは、一見、 普通に見えるんだけどね、 なんでしょうね‥‥言葉にならないですね‥‥。 詩もわかると、もっとキ!ます。 んーー客観的に書けないや‥‥‥‥。 (新しくDelux Edition がでてて、 デモが入ってて、それがまたねぇ、 ‥‥くぅーー‥‥)
ビートルズの匂いをただよわすバンドは多いですが 彼らもその一つです。イギリスのバンドです。 知名度は低いかもしれません。 たまたまラストアルバムあげましたけども 1、2、3枚目と、どれも好き。 3枚目が代表作にあげられる事が多く あのジョージ・マーティンがプロデュースしてます。 (ジョージ・マーティンは ビートルズのプロデューサーやってた人。) 表にはでてないかもしれませんが このバンドの持ってたセンスは 『MOTHER』の音楽に通じる部分、 多いのではないでしょうか。 彼らの初期の頃は、イギリスのトラッド色でてます。 イギリスのフォークソング、アイルランドのケルト音楽は 自分の中で特別な位置にあります。 そういう音楽のちょっともの悲しく、 切ない匂いは『MOTHER』的。 ブリテッシュトラッド、ケルト音楽を知りたい場合は 入門に「チーフタンズ」がいいかも。
いきなり音楽のジャンルが変わります。
でましたレゲエ男! 最初レゲエのどこを好きになったか?というと 同じ曲なのに歌詞違いがたくさんあったり ある曲が流行るとその曲の替え歌が3日後に売り出される! 「ああずるい、それ俺の曲!」とかない。 演奏が一緒でメロが一緒でも キミが歌えばキミ!オマエが歌えばオマエ! というようなタフさ!ラフさ!を感じたから。 レコードの真ん中の穴はずれてるし、 レコード版の溝にはゴミが埋まってるとか。 それをいいかげんじゃなく それを許容する側もふくめ そういう状況から生まれた音楽が好きだった。 ポジティブ!に感じた。力強い。 そんな中からダブと呼ばれるミックスの手法も生まれた。 DUBとは簡単に言うと歌入りのレゲエの曲から歌を抜き (これはカラオケね、その事をVersionっていってます) 各楽器パートを入れたり出したり、 またエコー、リバーブの音響処理してます。 『キング・タビーズ・プロフェシー・オブ・ダブ』は 正調ジャマイカのダブ。ミックスはキング・タビー。 音楽のミックスにルールなどない。 ちゃんと人間が機械を支配し、 人の感情、感覚をダイレクトに反映させた音は 原曲を超えて!聴く人を激しく揺さぶります。 プリミティブ! ベース好き、低音好きはこのレゲエから。 『The Secret Dub Life of The Flying Lizards』は デビッド・カンニンガムのダブ。 彼はアイルランド生まれ。79につくった フライングリザーズは既成の音楽にとわられない 自由な発想の音楽で非常に好きでした。 またCD『MOTHER』のエイトメロディーズの 編曲者でもあるマイケル・ナイマンの プロデューサーもやってます。 彼の参加したアルバムはいつも買ってます。 そうとう影響受けてます。 『MOTHER2』の中ではいろんな場所で。 【『MOTHER2』直前】
んー、今でこそ陰薄くなってしまいましたが、
サルサのCDもたくさんありますが、 あえてプエルト・リコ出身のラロ・ロドリゲス!! 標準的な選択ではないかも(笑)。 とにかく歌がいい、いい、いい!ほれぼれします。 演奏もすばらしい。 サルサはキューバの音楽が元になり ニューヨークで生まれました。 ミニマルでエレクトロニックな音楽が好きな反面 こういう人の汗、生活を感じる大衆的な音楽も 非常に好きです。 (この2つのジャンル、一般的には距離があるように おもわれるでしょうけども) とにかくダイナミックです。生で見ると腰砕けます。 リズムがうねり、このまま永遠につづいてほしい、 と感じます。 サルサはエンターテイメント! バンドマスターがその場(時間)を仕切ってる。 で、いつもバンマスはお客さんを見てる。 見てる‥‥といっても目じゃなく、体で。 お客さんが反応しだすとうれしそう。 「じゃあ、つぎはギアートップにいれますよ」 「ついてこれますか?」とか 「その調子 その調子!」 「この辺でちょっとクールダウンね‥‥」とか。 何も言わずやってくれる。 で絶対ロックのような自虐的な破綻はない。 破綻しそうに見せかけて、すぐ戻ってきてくれる。 ほんと楽しい時間をつくってくれる。 独りよがりは存在しない。 しかしそういう音楽が生み出された原因は レゲエの場合もそうだけども やっぱその音楽が生みだされた当時の社会環境、 歴史的な背景が大きく影響してる。 貧困、差別。だからこそエネルギーに満ちあふれてる。 今はカルチャーセンターの ダンススクールのような所でしか耳にしない。 (いやサルサファンがたくさんいるの知ってますけど) 自分はいいタイミングで出会ったなと痛感。 音楽も出会いはタイミング。音楽も生き物! 『MOTHER2』の中でもフォーサイド、 写真屋さんなど、小サルサな感じ。
ヒップホップです。探求という名の部族!?です(笑) とにかく かっこいいです。 ブレイクビーツのループの選び方、音使い、ラップ、 どれをとってもかっこいい! 他のヒップホップの人達とはひと味違いました。 実はこのCD中の曲と『MOTHER2』の中の曲に ちっちゃぁーい秘密があります。でも内緒です。 わかります?? はずかしながら私も当時は クラブへ夜な夜な出かけてました。 ああいう場所で鳴ってた音楽、 主に音の質感は、戦闘、ダンジョン系に影響与えてます。 あと当時だとJungle Brothers! De La Soul!
通称「マイブラ」!ノイズ混じりの不安定に鳴り続ける 騒音のようなギター、消えそうな歌、打ち込みのリズム。 もう好き好き好き。未だにこのフォロアー的音を出す バンドを探し聞き続けてます。 『MOTHER2』の音楽の持ってる「揺れ」は このバンドからの影響大。 あと「糸井さんの深夜のキーボード」。 ギーグにも。 このマイブラとあとニルヴァーナの出会いは その後に大きく影響しました。 別に歪んだラウドなロックを聴く切っ掛けになったとか そんなんじゃぜんぜんなく。 自分に音楽史があるとすると ニルヴァーナ以前・以降がある、と言っていいくらい。 それぐらいカートコバーンは象徴的。 「よーぉーいーー、ドン!」の自分にとって 「ドン!」でした。 ポーキーとの戦闘で、 8小節、小ニルバーナ炸裂!!
うーん、フランク・ザッパ。 うかつに語れない‥‥です、なので、最後まで 名前出そうかどうか迷ってました。 これはライブの演奏だけを集めた2枚組。超強烈。 タイトルにあるようにジャズぽいアレンジのものが多い。 『MOTHER2』のどこに‥‥と言われると困る。 イタメシ好きな寿司屋の職人が中華料理を食べながら アラスカのエスキモーの家族の前で インド料理について語っている‥‥と思ってもらえると。 音楽のジャンルの壁などどこにもなく 予定調和もなく‥‥まるで打ち上げ花火のよう。 どんどんわき出て流れてゆく音の洪水!! タイトルデモとか エンディングのキャストロールのような 原曲のメロがありそれをモチーフにどんどん曲調が変化し いろんな曲がつながって行くというような曲を もしライブで演奏してもらうなら もしザッパが生きていたなら この2曲はぜったい彼のバンドにアレンジと演奏を お願いしたい。 当然、私、リハーサルは舞台そでにて見学、 本番はもちろん真ん中の2、3列目で しっかり楽しみたい‥‥。
これはDJ的な視点で (といっても踊るというイメージでなく) 集められたオムニバスです。 一曲一曲が、という事でなく 一見バラバラに見える人選ですが、つながってる。 で、『MOTHER』『MOTHER2』で さまざまな素材、音楽を束ねて行った時のセンスの視点と このアルバムの曲といい人選といい 相当近いものを感じました。 まさに『MOTHER』的!こんなメンバー!! Esquivel/Sun Ra/Steve Reich/ Can/Todd Rundgren/ Braian Eno/Devo / Tangerine Dream/Laurie Anderson/ Thomas Dolby/Godley & Creme / Sonic Youth/Beck/ DJ Spooky/Ben Neill (慶一さんも多分納得してくれるはず‥‥) 最後の曲はBen Neill、ニール・ヤングのカバーで 『After The Gold Rush』!! しかもアンビエント!! あとハル・ウィルナーのお仕事。 彼はミュージシャンじゃなくプロデューサー。 ここにあげたものはそれぞれ「クルト・ワイル」 「ウォルト・ディズニー」のトリビュート版。 他にもいろいろコンピュレーションアルバム作ってます。 とにかく人選がいい。とびきりです。 これも「MOTHER的」と呼びたい。 いや‥‥呼ばしていただきたい。 いや‥‥そう呼ぶことを 一度だけでもいいから許してほしい。 で、主な人を掲げると、 『ロスト・イン・ザ・スターズ ──クルト・ワイルの世界』は スティング&ドミニク・マルドウニー、 ザ・フォウラー・ブラザース、 マリアンヌ・フェイスフル&クリス・スペディング、 ヴァン・ダイク・パークス、ジョン・ゾーン、 ルー・リード、カーラ・ブレイ&フィル・ウッズ、 トム・ウェイツ、エリオット・シャープ、 ダグマー・クラウゼ、 トッド・ラングレン&ゲイリー・ウインド、 チャーリー・ヘイデン&シャロン・フリーマン等。 『ステイ・アウェイク』は ビル・フリゼール&ウェイン・ホロヴィッツ、 マイケル・スタンプ、ロス・ロボス、ボニー・レイット、 トム・ウェイツ、スザンヌ・ヴェガ、シド・ストロウ、 アーロン・ネヴィル、ベティ・カーター、 シンニード・オコーナー、サン・ラ、 ハリー・ニルソン、ジェームス・テイラー、 リンゴ・スター等。 くぅーーー、これには参りました。 他にもありますがこの2枚が楽しい。 『ステイ・アウェイク』は『MOTHER2』の開発時 こんな風に‥‥という憧れがありました。 最後の最後に これは はずせません。
僕がはじめて鈴木慶一さんと出会った作品です。 中学3年生でした。 いつも夜更かししながら明け方になると いつもこれ聞いてました。 とにかくいい曲ばかり! 歌詞がサウンドとともに体に染み込んで行きます。 トータルに流れできくとなおいい! 聞き終わったあとも何故か後ろ髪をひかれるような 魅力あるメロディー。 そんなメロディーは『MOTHER』 『MOTHER2』にも受け継がれています。 あと『MOTHER』のサルダンジョンとか 『MOTHER2』のどせいさんの曲とかの メロデイーのなんとも言えない妙な奇天烈さも 慶一さんならでは(笑)。 あと『MOTHER』のサウンドトラックも凄い。 私はルイ・フィリップと歌ってる フライングマンの曲の軽やかさが好き。 いやーやれやれ‥‥ふー。 田中宏和
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2003-06-16-MON
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