INTERVIEW

志村洋子さんがいま
考えていること、
試みていること、
問うていること。

「ほぼ日」で追いかけてきた
染織作家の志村ふくみさん、洋子さん、
昌司さん、宏さん、そしてatelier shimura
(アトリエシムラ)の工房のみなさんの仕事と、
芸術学校アルスシムラの活動。
昔むかしから継承されてきた
植物から糸を染めるといういとなみ、
経糸と緯糸で織りなす世界を、
作品と活動をつうじて「いま」にどう伝えるのか──。
そのひとつの節目のような本が、この春うまれました。
志村洋子さんによる著作
『色という奇跡 ―母・ふくみから受け継いだもの―』です。
オリジナルの裂作品「色の扉」つきで16,200円という
高価な本である、ということ、
またこの本で描かれているものごとの「深さ」について
興味をもった私たちは、
あらためて洋子さんのお話を聞いてみたくなりました。

縁あって、
志村ふくみさん、洋子さんたちを追いかけた
ドキュメンタリー番組を手がけてきた
NHKエデュケーショナルディレクターであり、
アルスシムラの卒業生でもある、長井倫子さんも同行。
東京にできたばかりのちいさなアトリエシムラShop&Galley
「しむらのはなれ」を訪ねました。
インタビューは、その長井さんを中心に、
ときどき「ほぼ日」も質問をするという
かたちで行なっています。

このコンテンツは、ある意味、むずかしいお話です。
むずかしいのですけれど、ふしぎなことに、
すぅっと染み込んでくるものがあります。
そんなふうに、読んでいただけたらと思っています。

インタビュー 長井倫子
編集協力 武田景 新潮社

第2回

藍とニガヨモギ

志村
日本人は昔から藍が好きですね。
幕末や明治の初期に日本に来た外国人たちは、
日本人が身につけていた藍の美しさを
たくさん書き残しているんです。
やはり日本の藍の美しさは、天下一品、なんですね。
──
その藍のいちばんいいところを、
洋子先生はおばあさまの豊(とよ)さんから、
奥深く、染み透るように受け継がれた。
志村
私が祖母と一緒に暮らしたのは、
小学校5年生からなんです。
そういう、感性が豊かな年頃。
記憶といっしょに、祖母の着物の匂いがあるんですよ。
──
藍の香りですか。
志村
そうですね。それとね、豊さんは
加美乃素(かみのもと)をつけてたんですよ、頭に。
髪を整えるための髪油みたいなもの。
そのにおいがミックスして、
おばあちゃんの匂いっていうのがあって。

母が養女に出ていたので、
母の生みの親の豊さんとは
小学校5年からなので、
向こうもちょっと警戒しているわけ。
おませで、生意気な孫が来た、と。
こちらも構えて、
あんまり甘えもできなくて。
そんな感じだったので、お互い、
意識的だったのかもしれないんですけど。

だから、柳宗悦先生の教えとか、
床の間のお軸のこととかっていうのは、
ちゃんと教えてくれました。
普通のおばあちゃんっぽくなかったので、
よく覚えてるのかもしれません。
藍を染める藍屋さん、
紺屋さんにはよく連れていってもらいました。
で、やっぱり藍の匂いと一緒に
覚えているんでしょうね。

藍は、母もとりこでした。
だから「藍狂い三代」って言うのかしら。
伝染するのですね。
もちろんそれぞれの向かい方、
やり方があると思いますけどね。

祖母はほんとうに藍が好きだったと思うんです。
自分じゃ哲学とは考えていないんでしょうけれど、
何となくそう思っていたと思います。
「日本人の精神を表すのは藍やね」と。
──
このご本では、ニガヨモギ(苦よもぎ)の
お話も印象的です。
3・11のことや、黙示録のことにまで広がって。
志村
ニガヨモギは、
『新約聖書』のなかの「ヨハネの黙示録」で、
地球最後の時に、天から降ってくる星の名前で、
水を苦くし、多くの人が命を失う、というんですね。

植物としては、アブサンというお酒の原料。
「緑の魔酒」といわれて、
アルコール度数が高くて幻覚作用があるので、
中毒になって身を滅ぼした人もいたとか。
ヴェルレーヌとかロートレックがそうらしいですね。
ひいては不吉な、呪われた植物、とも考えられた。

気になるでしょう、そんな植物。
それでいろいろ調べているうちに、
興味がつきなくなってしまって。

そしてニガヨモギを手に入れ、育てて、
糸を染めたんです。
そうしたら、そこにあらわれたのは、
まことに美しい緑色だったんですね。
これは逆説ですよね。
本来、内に持ってるものの美しさっていうものに気が付く。
その気が付いたことを表現しましょう、
ということで、着物にして母に
米寿のお祝いのときに着てもらいました。
不吉ないわれのある植物の立場を逆転させて、
祝いの席で、しかも振袖にして
母に着てもらったのです。
▲ふくみさん(右)が着ていらっしゃるのが、ニガヨモギで染めた振袖。
京都賞の時に母が言ってましたけど、
繭のなかでも規格外の、それこそクズと言われている、
繭から取ったのが紬糸なんですね。
その紬糸を、
芸術的に高めていくことが母の仕事だったんです。

世の中で虐げられ、
価値がないといわれるものこそが
本当はいちばん崇高であるし、
価値が高いっていう、価値の転換。
転換こそが美につながるのではという、
そういう提案をしたいのです。

(つづきます)
2017-06-07-WED

色という奇跡
―母・ふくみから
受け継いだもの―

新潮社 16,200円
(税込・配送手数料別)

[販売時期・販売方法]
2017年6月6日(火)
午前11時より数量限定販売
※なくなり次第、販売を終了いたします。
[出荷時期]
1~3営業日以内

染織作家である志村洋子さんが、
2013年から2016年にかけて
季刊誌『考える人』に連載した文章を
1冊にまとめた本です。
毎号のテーマに沿って撮影された写真と、
洋子さんの文章とが織りなす世界は、
まさしく「作品」と呼ぶにふさわしいもの。
1点ずつ、洋子さんたちの手作業でつくられた
オリジナル裂作品「色の扉」がついています。

使われている小裂は、志村ふくみさんの代からの
かなり古いものも混じっているそうです。
色の組み合わせが1点1点異なり、
色というものを「自然からのいただきもの」と考える
思想そのままに、
どんな色のものが届くのかも「いただきもの」。
新潮社や「ほぼ日ストア」での販売は、その方式で、
それをご縁として受け取っていただけたらと思います。

ただ、今回、
6月6日から6月11日までの
東京・南青山TOBICHIでの展示販売においては、
シュリンク(パッケージ)を外して、
「色の扉」のいろいろを展示します。
そこから、「ご縁を感じた」ものを「出逢い」として、
書籍と組み合わせてお求めいただくことができます。
どうぞ、足をお運びくださいね。

撮影、編集:広瀬達郎(新潮社写真部)

「しむらのはなれ」は、ゆったり時間が流れる場所です。
もともと人が住むために建てられたこの家は、
明るい光に包まれて、窓を開けると風が吹き抜け、
様々な種類の鳥の鳴き声が聞こえてきます。
ここの2階で、ほぼ毎週末、
染色か機織りのワークショップを行なっています。

染めのワークショップでは、
その時々の手に入った植物で、
絹のショールを染めます。
晴れた日は広いテラスに出て、
絹のショールを風にそよがせ
太陽の光に透かしてみましょう。
たった一度しか出会えない草木の色に出会ってください。

機織りのワークショップでは、
糸を染めて機織りをします。
ご自身が染めた糸を織り入れることができます。
静かな「しむらのはなれ」で、織り機の音と、
色が奏でる音色をお楽しみください。
織り上げた裂は一旦お預かりし、
手製本で文庫サイズのノートの表紙に仕上げ、
後日お送りいたします。
きっと、世界で一冊だけの
宝物のノートになることでしょう。

1階ではアトリエシムラの裂小物や志村ふくみ、
志村洋子の本を販売しています。
こちらもどうぞご覧くださいね。
心よりお待ちしております。