1954年京都市生まれ。
服飾専門学校を卒業後、
毛糸メーカーで手芸糸のデザイン、
繊維商社でアパレル向け原糸の企画を経て、
1992年に(株)アヴリルを設立。
 
前編 できるやん!
── アヴリルさんのシュシュキット、
とても好評だったんですよ。
きれいにつくっていただき
ありがとうございました。
福井 こちらこそありがとうございます。
シュシュを始めて何年も経つんですけど、
ずっと好評をいただいているんですよ。
女性の方にはちょっとしたアクセントになりますし、
頭にすればヘアバンドなんだけども、
ちょっとネックレスのようにもなりますし、
腕にはめたり、何かにちょっと付けても、
アクセサリーやコサージュみたいにも見える。
‥‥って、わたしがつけてもだめですね(笑)。
── こんなにかわいいものをつくっている会社を
福井さんのようなダンディな男性が
なさっているというのに驚きました。
福井 スタッフがいろいろ思いついてくれるんですよ。
どんな業界でもそうなんですけど、
たとえば織物でも、糸作る人は糸、
織る人は織るだけ、柄組む人は柄組むだけ。
それをまた洋服にするデザイナーもいれば、
パタンナーもいれば、コーディネーターもいて。
それがあまりにもちょっと分業がされてしまったんやな。
自分が今何をしてんのかが
あんまり見えてない状態で一所懸命突っ走ってる。
自分の技術がどう生かされてるのか、
どう広げられるのかっていうことが分からないまま
きてしまってるような気がするんでね。
── はい。
福井 うちは逆。少ない人数で
何でもこなしながらいろいろやってきました。
お客さんのご要望を聞きながら。
ここにきてやっとちょっと
分業してこうかなというところやね。
ある程度、企業ってのは生き物やと思うんで、
各セクションのレベルが上がって、
より完成度の高いものができるようになった。
そこから、やっぱりだめになっていくのか、
いい方向に広げられていくのかっていうのは、
大きな分かれ道になるんやと思うんやけどね。
うちはまだ、やっとちょっと分業ができるように
なってきたかなっていうとこや。
── スタッフのみなさんも、
お客さんも楽しそうなのが、
とてもいいですよね。
福井 「作る楽しさ」を、うちは糸で表現していて。
そんなたいそうなものじゃないけども、実用的。
おもちゃみたいなものでは、
おもちゃに終わってしまうから、
実際に使えるものを考えているんです。
しかも、既製品じゃないんだけれども、
といって、あんまり「手作り手作り」
しすぎていないものをと。
たとえばセーターでも、
重たくて着れないのはあまり意味がない。
毛糸のちいさな製品でも、
ちゃんと自分の今の
既製品のファッションにも
コーディネートできるであるとか、
生活の中で毎日使えるものとか。
何でも手づくりするというのは
大変かもしれないけど、
ちょっとしたものだったらつくれるでしょう。
既製品の鞄にポケット部分だけ手織り物を付けるとか。
そういう提案もしたいなと思っているんです。
── かわいいでしょうね、きっと。
織物の教室をなさったりも
しているんですよね。
福井 ビックリされるのは、
「え、こんなに簡単にできてしまうんですか?」と。
しかも、普通は織るだけのところを、
うちは糸を選ぶとこからやる。
その糸選びに時間をかけるんです、みなさん。
── 分かります。それが楽しいんだと思います。
どんなものができあがるんですか。
福井 身に付けるもん、作ってもらうんですよ。
スカーフとか、簡単なものを。
タペストリーなんか作っても仕方がないからね。
みなさん、できあがると、うれしそうに、
つけて帰ってくださる。
そして不思議とね、似合うんです。
着てる服にもばっちり決まって、
自分のデザインセンスに目覚める人が多いですよ。
「できるやん、私も」って。
── 「できるやん」!
福井 ふらっと織りの講習にいらして、
1年後には作家みたいな感じでやってはる人とか、
え、個展しはんのや! みたいなかたもいます。
そうして面白い作品を作ったら、
もう服装まで変わってくる。
── たのしいことですねえ。
原毛も扱っていらっしゃるんですよね。
糸車で糸をつくるところからなさるかたも
いらっしゃるんでしょうか。
福井 いらっしゃいますよ。
糸車がなくても、棒針があれば、
こんなふうに引っぱりながら空回りさせると、
撚りが入ってくるんです。
色を変えることもできますよ。
── うわ、すごい!
あんがい、ちぎれないものなんですね。
福井 手で引っぱるだけだったら、
あまり長いのはできませんけれど。
シュシュとか、
ちょっとしたアクセサリーぐらいなら、できます。
子どもに紡がして、シュシュにしてあげたら
すごく喜んだね。
── 喜びますよー。
手品かサーカスを見ているみたいです。
福井 大手のメーカーさんだったら、
特徴のある色の組み合わせの糸をひとつつくって、
大量に流通させますよね。
けれども特徴のある糸って飽きるんですよ。
飽きられたら、そのシーズンでその糸は
もう終わってしまう。
かわいそうに‥‥。
うちだったら、糸と糸のかけ合わせだけでも、
200種類ぐらい作れるかな。
飽きないです。
1人で100種類作った人もいましたよ。
あの人にはこれとこれかなぁ、
これとこれじゃ寂しいから、
これも入れようかなとかね。
どんどん広がってくんですよ。
── こちらのお店にも、
すごくたくさんの毛糸が。
福井 極端な方は、ここは何屋さん? と言われる。
売ってはるんですか、って言います。
ギャラリーですかと言われることも多いですね。
じっさい、糸を
自由に組み合わせられますって言っても、
わからないかたも多いので、
ここに置いてあるものを参考にして、
「ここにラメ入れたいんだけど」
とか、そういうふうにおっしゃるかたも。
── では、お店に来れば、
すきな糸の組み合わせで
シュシュをつくることも‥‥
福井 もちろんできます。
店内から3、4種類選んでくださいって言って、
完全にオリジナルで。
でもみなさん、迷われますよ(笑)。
それでもいろいろ迷って相談いただくうちに、
こうやって選ぶのかっていうのが分かってきます。
シュシュですと、常連の方は、
私たちにお題を出してきはるんです。
「ちょっと夜景な感じで」とか!
── 夜景!
福井 あるいは初めてデートに行く女の子が
付けていくシュシュを作ってくださいと。
スタッフといっしょに
どんなんだろう、ピンクですか、
白ですか、みたいな。
もうちょっとリボン入れますかみたいな。
そうそう、東京の新国立美術館のセザンヌ展では、
依頼で、セザンヌをイメージした
シュシュをつくったんですよ。
絵画と手芸糸が結び付くなんていうのは、
私たちも意外でした。
  <後編につづきます>
アヴリルのシュシュキット
 
次へ


ツイートする
感想をおくる
ほぼ日ホームへ