糸井重里

・長い間、爪切りについては考えてきた。
 どんな爪切りがいいのか、国産、舶来、いくつも買った。
 切って試して、使い続けて、人にも薦めたり、
 なんなら進呈もしたり、同じのをいくつも買ったりもして、
 「これが世界でいちばんいい爪切りだ」と決めてきた。
 さらに、さらにもっといいのがあるかもしれないと、
 探し続けることも、やめはしなかった。
 そのせいで、新チャンピオン誕生みたいに
 「いちばんいい爪切り」も何代か変わってきたし、
 いつでも探しているよ山崎まさよしのように桜木町も。

 いい爪切りは、よく切れる鋭い刃を持ってるわけで、
 その鋭い刃と鋭い刃の間に爪を挟んで断つのだから、
 刃と刃が衝突して、鋭さを潰し合っちゃうじゃないか? 
 なんてことも考えたけど、そうじゃないんだぜ。
 刃と刃は正面からぶつかり合うのではなく、
 微妙にずれて擦り合う設計になっているので、
 やっぱり爪は「切っている」ということなのだ。
 とかね、爪切りという道具のことばかり追いかけていた。

 ところがここにきて、いまさら、爪の「切り方」について、
 「おれはまちがってる?」と考えさせられることになった。
 もともと、じぶんは深爪なのであります。
 手のひら側、指の先端から爪が見えていることはない。
 そして、その指の先端のカーブに合わせて
 「( 」こういうかたちを描くように爪を切っていた。
 しかし、それがちがっているという説を知ったのだ。
 「( 」はダメだ、あえていうなら「 [ 」だ、と。
 サイドに食い込ませるな、もっと真っ直ぐに切れと。
 えーっ?! ぼかぁ、もう四分の三世紀も、
 深爪の「( 」でやってきてるんだぞ、自慢じゃないけど。
 そう言いたい意地もあるが、おれは爪切りの求道者なのだ。
 そそくさと、直線に切れる爪切りを買うことにした。
 やってみた、ぜんぜんうまくいかない、日常に差し支える。
 爪の角が不自然に世界にひっかかるのだ。
 慣れてないせいかとも思うが、もう2週間ほど不自由だ。
 「 [ 」やめようかなぁと思いつつ、さらに探求したくて、
 新しく「 [ 」に切れるニッパー式の爪切りも買ってみた。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
さすがに、もう少し試したら、もとのまるい深爪に戻します。

ほぼ日ホームに戻る