糸井 |
可士和くんが
ものを考えているのは原宿ですよね。
そこと離れた幼稚園で
プロジェクトが動くわけですよね。
それはいずれ
「遠いなぁ」ということには
ならないんですか? |
佐藤 |
打ちあわせが
物理的にはちょっとたいへんですけど、
それ以外は関係ないですね。 |
糸井 |
距離っていつも考えるんです。
たとえば、ぼくの知っている大工さんは、
ものすごい山奥の安い土地に
材木置場や製材所を持っているんですね。
だから木材を運んで製材して
現場に持っていって家を建てる時には、
地価の安い場所どうしを
道でつないだようになるんですが、彼は
「距離は気にならないです。
クルマがありますから」というんですね。
たしかに、
都会にいたら
クルマで一時間かかるなんていう場所は
いくらでもありますし、
山奥であっても、
維持できていい材料を置けて
みんなで一緒に
作業をしていられる現場があることを
重視しているそうなんです。
だから、
場所のことをききたかったんですけど。 |
佐藤 |
建築のプロジェクトとしての
ゆっくりした時間の流れかただから、
打ちあわせができているんだと思うんです。
コマーシャルベースで
週二で打ちあわせをしよう、
ということはありません。
権利や申請や図面の引きなおしや……
作業に物理的に時間が要るんです。 |
糸井 |
建築って、単純に
「乾かす時間」とか、
確実に時間がかかりますからね。
そこは、ためになるでしょうね。 |
佐藤 |
はい。
もちろん、
近いにこしたことは
ないんですけど。 |
糸井 |
距離のことは、なんでも
メールでやりとりができて
忘れてしまいがちだから、
逆に意識したほうが
いいような気がしているんです。
距離についての感覚が
明らかに変わったのに
昔の頭のまま考えがちだから、
距離のことは
整理しなおしているんです。
ネットワークの発達は
道の発達と重なるから、
メールを使ったり
インターネットを使ったりしているうちに、
リアルな道についても
もう一回ちゃんと
考えなおしたほうがいいと思いまして。 |
佐藤 |
なるほどなぁ。
前に大阪に転勤になっちゃった時に
つきあっていた彼女とも別れちゃったし。 |
糸井 |
それはもう、距離ですよね。 |
佐藤 |
明らかに距離なんです。
そういうことで
精神的にも距離があいちゃったり。
会おうと思えば三〜四時間で会えるんだし、
近くにいても
毎日は会わなかったりするんだけど、
そういうことではないんですよね。 |
糸井 |
うん、だからもしかして
「すごい山奥の幼稚園に
マイクロバスでこの距離をいくんです」
ということも、将来的には
あるかもしれないなぁと思いまして。 |
佐藤 |
インターネットと
メールがあるからできているんですね。
これがなかったらキツイですよね。
写真もラフも送れるし……
いざというときにだけ会える。
ぜんぶ会ってやっていたら
へばっちゃいます。
|
糸井 |
下ごしらえは
ぜんぶメールでできるもんね。
つまり情報の道を
もうひとつ持っているということですよね。
「距離」は
すごく気になっていることなんです。
これから月のうちの四分の一を
京都に住もうと思っていますから。 |
佐藤 |
あ、そうなんですか! |
糸井 |
居る場所を変えないと、
同じ袋小路に入りこむな、
と思ってそうするんです。
「メールがありますからね」
っていうことで仕事はできますし、
自分の発想が変わるだろうな、
ということに期待しているんですけど、
それも新幹線がなかったら
ありえないですからね。
新幹線があって、
二時間半とか三時間で移動できるなら、
ふだん、ちょっとグズグズしているのと
おんなじですから。 |
佐藤 |
(笑)「グズグズしてる」!
ぼくも、自分の住むところについては、
まだ整理できてないです。 |
糸井 |
そこはなかなかねぇ、
できないでしょう。 |
佐藤 |
できないです。
事務所は原宿でいいや、便利だし、
と思うんです。
でも、原宿に
家を建てようと思ったって高いし。 |
糸井 |
その狭さではイヤですよね。 |
佐藤 |
イヤです。
しょうがないから
マンションに賃貸で住んでますけど、
本当は家の建築をやりたいんです。 |
糸井 |
なるほど。
たとえば
自家用のヘリコプターがあったら
住む場所も変わりますよね? |
佐藤 |
はい。
そういうことが、
やりたくてたまんないですよ。
|
糸井 |
そのへんは、
まじめに考えといたら、
のちのち、人の役に立つと思いますよ。 |
佐藤 |
すごくやりたいのに、
どうしていいかわかんないんです。 |
糸井 |
これからですよ。 |
佐藤 |
自分のことを考えると
ほんとうにリアルで、
ずっと答えの出ないままですから。 |
糸井 |
原宿のなかでも
発展しない場所ってありますよね。
そういうことまで含めて考えると、
動線だとか風水だとかも
つっこみたくなるようなことですもんね。
青山は家賃が高くなったから、
見ていると早い話が美容院と洋服屋で、
付加価値の高い商売が
固まっているわけですよ。
他の商売をやるお店がなくなるほど
家賃が高くなっている……
そこにぼくは住んでいるわけだから、
そこで考えるべきことは何だとか。
町って、おもしろいですよ。
|
佐藤 |
距離について考えると、
おもしろいですね。 |
糸井 |
じゃあ、また、会いましょうか。
事務所にもぜひ行かせてください。 |
佐藤 |
はい。
糸井さんとは
一度ちゃんとお話をしたかったので、
うれしかったです。 |
糸井 |
やっぱり時代は
変わっていると思いました。
古い人と話しても
おもしろくないんですよ。
「あいつは今どうしてる?」
みたいになるからね。
でもほんとうは、なにかをしていれば、
作品が手紙ですからね。 |
佐藤 |
はい。 |