2017年の「ほぼ日刊イトイ新聞」は、
こんなコンテンツからはじまります。
『きょうの料理』『おかずのクッキング』ほか、
テレビや雑誌などで大活躍されている
料理研究家の土井善晴さんと、
糸井重里が対談をしました。
お正月の黒豆の煮方にはじまり、
料理にまつわるさまざまな話をしながら、
話はどんどん深いほうへ、濃いほうへ。
たのしくて、筋の通ったお話の数々に、
糸井重里も、同席のほぼ日乗組員たちも、
あらためて土井さんの大ファンになりました。
全11回でおとどけします。
目次contentkeyboard_arrow_down
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第1回
黒豆の煮方、米の炊き方。
2017-01-01-SUN
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第2回
和食の2つの方向。
2017-01-02-MON
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第3回
料理屋の料理と、家庭の料理と。
2017-01-03-TUE
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第4回
いのちの価値は「鮮度」
2017-01-04-WED
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第5回
ええ料理ってなんやねん。
2017-01-05-THU
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第6回
家庭料理は民藝や。
2017-01-06-FRI
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第7回
生きることはばらつき。
2017-01-07-SAT
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第8回
きれいかどうか。
2017-01-08-SUN
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第9回
一汁一菜でよいという提案。
2017-01-09-MON
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第10回
こんな食堂があればいい。
2017-01-10-TUE
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第11回
人のためになることを。
2017-01-11-WED
第11回
人のためになることを。
- 土井
- わたしね、けっこうあちこちで
お店をオープンさせているんです。
それはとにかく
「しろうとを集めて、新しいお店を作る」
ということをやってるんですね。 - 糸井
- しろうとばっかりですか。
- 土井
- はい。下手に技術があると
自分がしたいことしかしませんけど、
しろうとって真面目だからキチッとするんです。
余計なことをしませんし。
そうすると、たとえばとんかつ屋だとして、
おいしい揚げ方は1週間もせずできる。
そして同時に‥‥というか
それ以上に大事なのが掃除など管理のことで、
しろうとはそこもちゃんとやります。
そうすると気持ちのいい店になるんですね。 - 糸井
- つまり、お店をつまらなくするのは
扱いに困る「自称料理人」というか。 - 土井
- 料理人がいるとリーダーになってしまって、
その人以上のものができないんです。
パートのおばちゃんの中にも
ほんとは漬物名人みたいな人がいるんです。
だけど料理人がいたら遠慮して、
自分で漬けなくなる。 - 糸井
- ええ、ええ。
- 土井
- だからわたしが関わっているある店では、
あえて料理長のいない料理場にして、
月1回、コーチという立場で
わたしが料理を教えにいくように
しているんですね。
もう、20年以上になりますけれども。 - 糸井
- いまは映画作りでも、撮影する人を
「カメラディレクター」と呼んで、
人数をものすごく増やしてますよね。
つまり、カメラマンと言うと
そのそれぞれが個性をいかしたくなるけど、
カメラディレクターなら
「映画をどういうトーンで撮るか」の話になる。
そういう考え方ですよね。 - 土井
- そうなんです。考えるべきは、
「わたしがどう料理するか」じゃなくて
「この店の料理はどうあるべきか」。
誰の料理でもなく
「この店の料理なんだ」ということですね。 - 糸井
- その視点は全国の村おこし、町おこしにも
役立ちそうですね。 - 土井
- そこはわたしら
「お天道さん見て仕事せなあかんで」って
よく言うんです。
東京のものとか、流行りの雑誌の真似をしても
「あなたにぜんぜん似合わないよね」と。
その土地、その土地にふさわしいことをするのが、
実はいちばん美しくて、おいしいですから。 - 糸井
- その理屈に近いこと、ぼくもずっと考えてて。
そうやって考えていけば
「おにぎり村」だってできると思ってるんです。 - 土井
- もうなんだってできますよ。
自分たちらしいことを、日々たのしみつつやれば。 - 糸井
- そうなんだよなあ。
- 土井
- あと日本人は、工夫をしないですから。
ほんとはお店のスタイルも、出すメニューも、
工夫次第でいくらでもできるんです。
なのにあまり考えないから、
みんな似たり寄ったりになる。
いま、全国同じでしょう?
どこに行っても、魚卵ののった
どんぶりばっかりで。 - 糸井
- (笑)いや、そのとおりだわ。
結局いまって「卵かけごはん」の
ブームなんですよね。 - 土井
- もっといいものがあるのに、
ほんとうの地元のものが食べられないんですよ。 - 糸井
- そのあたりって、
「自分で考えたくない」という発想が、
後ろにあるんじゃないかと思うんです。 - 土井
- そう、いくらでもおもしろいことができるのに、
たのしめてないんですよね。
そして、何も変えたくない。
みんながそういう発想ばかりになると、
料理の世界はどうなっていくのかと
思っちゃいますけど。
あと、みんながなにか
「人のためになることを」と考えていったら、
それだけでずいぶんよくなると思うんですけど。 - 糸井
- 土井さん、仕事はいつまで現役で
続けられますか? - 土井
- わたしですか?
いや、そのあたりはぜんぜん考えてないです。
まだまだのつもりですけどもね。 - 糸井
- そうですよね。
- 土井
- まぁ、なにをしても、どこにいても
いいようになりたいとは思ってますけど、
それもなかなか‥‥。
まだまだ仕事に追われてますから(笑)。 - 糸井
- いまいちばん時間をとろうとしているのは、
どんな時間ですか? - 土井
- やっぱり移動してたり、旅をしてたり。
わたしはそういうひとりの時間が好きですね。
いちばん頭が自由になりますから。 - 糸井
- そういう時間を、
とるようにとるようにしてますか? - 土井
- してますけれども、まぁ、
家にもいないとダメだとか(笑)。
やるべきことがたくさんありますんで。
来年で60ですから、そのタイミングで
「どこでも自由に住んでもいいよ」くらいに
なれたらと思いますけど、まぁ、
わからないですよね。 - 糸井
- 60歳は若いですよね。
- 土井
- まだまだ若いんでしょうね。
わたし、年がいけばいくほど楽になって、
毎日がおもしろくなっているんです。
だから、
いまがいちばんたのしいかもしれない(笑)。 - 糸井
- 今日はだいぶ長く付き合っていただいて、
ありがとうございました。
お正月特集というよりも、
なんだか真剣な部活のようでした。 - 土井
- 調子にのってたくさんしゃべりました。
わたし、ほんとはあんまりしゃべらない‥‥
ま、そうでもないか(笑)。
でも今日は、いつになくしゃべりましたね。 - 糸井
- 染み込みました。おもしろかったー。
機会がありましたら、
またぜひ続きをおねがいします。 - 土井
- こちらこそぜひ。
今日はたのしませてもらいました。
ありがとうございました。
(対談はこちらでおしまいです。
ご愛読、ありがとうございました)
2017-01-11-WED