2017 新春対談 家庭料理のおおきな世界2017 新春対談 家庭料理のおおきな世界

糸井重里

土井善(料理研究家)

2017年の「ほぼ日刊イトイ新聞」は、
こんなコンテンツからはじまります。
きょうの料理』『おかずのクッキング』ほか、
テレビや雑誌などで大活躍されている
料理研究家の土井善晴さんと、
糸井重里が対談をしました。
お正月の黒豆の煮方にはじまり、
料理にまつわるさまざまな話をしながら、
話はどんどん深いほうへ、濃いほうへ。
たのしくて、筋の通ったお話の数々に、
糸井重里も、同席のほぼ日乗組員たちも、
あらためて土井さんの大ファンになりました。
11回でおとどけします。

11

人のためになることを。

土井
わたしね、けっこうあちこちで
お店をオープンさせているんです。
それはとにかく
「しろうとを集めて、新しいお店を作る」
ということをやってるんですね。
糸井
しろうとばっかりですか。
土井
はい。下手に技術があると
自分がしたいことしかしませんけど、
しろうとって真面目だからキチッとするんです。
余計なことをしませんし。
そうすると、たとえばとんかつ屋だとして、
おいしい揚げ方は1週間もせずできる。
そして同時に‥‥というか
それ以上に大事なのが掃除など管理のことで、
しろうとはそこもちゃんとやります。
そうすると気持ちのいい店になるんですね。
糸井
つまり、お店をつまらなくするのは
扱いに困る「自称料理人」というか。
土井
料理人がいるとリーダーになってしまって、
その人以上のものができないんです。
パートのおばちゃんの中にも
ほんとは漬物名人みたいな人がいるんです。
だけど料理人がいたら遠慮して、
自分で漬けなくなる。
糸井
ええ、ええ。
土井
だからわたしが関わっているある店では、
あえて料理長のいない料理場にして、
月1回、コーチという立場で
わたしが料理を教えにいくように
しているんですね。
もう、20年以上になりますけれども。
糸井
いまは映画作りでも、撮影する人を
「カメラディレクター」と呼んで、
人数をものすごく増やしてますよね。
つまり、カメラマンと言うと
そのそれぞれが個性をいかしたくなるけど、
カメラディレクターなら
「映画をどういうトーンで撮るか」の話になる。
そういう考え方ですよね。
土井
そうなんです。考えるべきは、
「わたしがどう料理するか」じゃなくて
「この店の料理はどうあるべきか」。
誰の料理でもなく
「この店の料理なんだ」ということですね。
糸井
その視点は全国の村おこし、町おこしにも
役立ちそうですね。
土井
そこはわたしら
「お天道さん見て仕事せなあかんで」って
よく言うんです。
東京のものとか、流行りの雑誌の真似をしても
「あなたにぜんぜん似合わないよね」と。
その土地、その土地にふさわしいことをするのが、
実はいちばん美しくて、おいしいですから。
糸井
その理屈に近いこと、ぼくもずっと考えてて。
そうやって考えていけば
「おにぎり村」だってできると思ってるんです。
土井
もうなんだってできますよ。
自分たちらしいことを、日々たのしみつつやれば。
糸井
そうなんだよなあ。
土井
あと日本人は、工夫をしないですから。
ほんとはお店のスタイルも、出すメニューも、
工夫次第でいくらでもできるんです。
なのにあまり考えないから、
みんな似たり寄ったりになる。
いま、全国同じでしょう?
どこに行っても、魚卵ののった
どんぶりばっかりで。
糸井
(笑)いや、そのとおりだわ。
結局いまって「卵かけごはん」の
ブームなんですよね。
土井
もっといいものがあるのに、
ほんとうの地元のものが食べられないんですよ。
糸井
そのあたりって、
「自分で考えたくない」という発想が、
後ろにあるんじゃないかと思うんです。
土井
そう、いくらでもおもしろいことができるのに、
たのしめてないんですよね。
そして、何も変えたくない。
みんながそういう発想ばかりになると、
料理の世界はどうなっていくのかと
思っちゃいますけど。
あと、みんながなにか
「人のためになることを」と考えていったら、
それだけでずいぶんよくなると思うんですけど。
糸井
土井さん、仕事はいつまで現役で
続けられますか?
土井
わたしですか? 
いや、そのあたりはぜんぜん考えてないです。
まだまだのつもりですけどもね。
糸井
そうですよね。
土井
まぁ、なにをしても、どこにいても
いいようになりたいとは思ってますけど、
それもなかなか‥‥。
まだまだ仕事に追われてますから(笑)。
糸井
いまいちばん時間をとろうとしているのは、
どんな時間ですか?
土井
やっぱり移動してたり、旅をしてたり。
わたしはそういうひとりの時間が好きですね。
いちばん頭が自由になりますから。
糸井
そういう時間を、
とるようにとるようにしてますか?
土井
してますけれども、まぁ、
家にもいないとダメだとか(笑)。
やるべきことがたくさんありますんで。
来年で60ですから、そのタイミングで
「どこでも自由に住んでもいいよ」くらいに
なれたらと思いますけど、まぁ、
わからないですよね。
糸井
60歳は若いですよね。
土井
まだまだ若いんでしょうね。
わたし、年がいけばいくほど楽になって、
毎日がおもしろくなっているんです。
だから、
いまがいちばんたのしいかもしれない(笑)。
糸井
今日はだいぶ長く付き合っていただいて、
ありがとうございました。
お正月特集というよりも、
なんだか真剣な部活のようでした。
土井
調子にのってたくさんしゃべりました。
わたし、ほんとはあんまりしゃべらない‥‥
ま、そうでもないか(笑)。
でも今日は、いつになくしゃべりましたね。
糸井
染み込みました。おもしろかったー。
機会がありましたら、
またぜひ続きをおねがいします。
土井
こちらこそぜひ。
今日はたのしませてもらいました。
ありがとうございました。

(対談はこちらでおしまいです。
ご愛読、ありがとうございました)

2017-01-11-WED