ほぼ日 |
今回の「東京流行生活展」を見ていると、
戦争のあたりって
やっぱり、落とし穴みたいに、
そこだけ影がありますよね。
でも、戦争が本格する直前までの、
爆発的な華やかさがあった時代と、
戦後の「もう、頑張るしかないぞ」
というような、
ものすごく元気な時代の間の、
あの時代の展示は
欠くことができないものだと感じました。 |
新田 |
そうなんです。
戦時中の代用品を、
3段にもわたって紹介しています。 |
ほぼ日 |
すごく力が入っていますよね。
まるで、ひな壇みたいでした(笑)。 |
新田 |
はい。
戦時中は、“足りない”どころか、
むしろ、“賑やか”だったんじゃないか!
っていうような印象すら持ちましたね。
前回の小林孝子さんの回で紹介したように、
戦争がはじまる前から、
一般市民は、
文化的な生活を送ろうとしていたんです。 |
ほぼ日 |
そうですよね。
女の人たちは銘仙を着て
艶やかですし、
人々は、文化住宅で暮らし、
東京が生活に密着した街だったんだな、
と思いました。
‥‥と思っていたら、戦争なんですよ。 |
新田 |
はい。 |
ほぼ日 |
戦争の写真って、意図して暗いんです。
まあ、ニコニコしてる場合じゃないぞ
っていう気運が、
プロパガンダとしてあるわけだから、
工場で訓練してる写真だったり、
学徒出陣の写真だったり、
どうしても暗い写真ばかりに
なってしまうんでしょう。
でも、庶民は、毎日、
それぞれに、生き生きと
暮らしているわけですよね。
そして、そのことを象徴するように、
代用品のひとつひとつを見ていると、
実に、凝っているんですよね。 |
新田 |
戦争が本格化する直前ぐらいから、
もうすでに、
日本は消費生活に入っていて、
日用品がどんどん便利に
なってきていましたから、
戦争に入って、
金属や道具が使えなくなったと言っても、
華やかであったり便利なグッズが欲しい!
っていうような、
人々の気持ちは止められなくて、
そういうことの裏返しとして、
代用品を凝ったものにしたのかな、
と思いました。 |
ほぼ日 |
たとえば、鉄が使えないので、
その代用品として
陶器が多かったようですが、
この土瓶なんかでも、
わざわざ、鉄製のものに
似せて作ってますよね。 |

*陶製の土瓶 |
新田 |
そうですね。
陶器なんですけれども、
見た目は、ほんとうに、
鉄瓶そのものです。
表面には、
ツブツブとした
点々の加工が施されていますが、
これって、南部鉄瓶に見られる、
「あられ」という技法なんです。
それをすることによって
表面積が増えるので、
熱伝導が良くなるという
技法なんですが‥‥ |
ほぼ日 |
鉄でなきゃ意味がない! |
新田 |
そうです(笑)。
南部鉄瓶は鋳物ですから、
鋳型に型押しをして
「あられ」の加工をするのですが、
いかんせん、陶器なので、
わざわざ、手をかけて、
表面をツブツブの模様に
彫っていったんじゃないんですかね。 |
ほぼ日 |
わざわざやってるんですか!?
実用的には、全く意味がないのに! |
新田 |
はい。
しかも、細工が凝っていて、
人手もかかっています。
「贅沢は敵だ」なんて言いながらも、
贅沢というか、
物に対する欲求というものは、
人びとの心の中にはあったのでしょう。
人の気持ちって、一度、欲しいものが
手に入るようになってきたら、
逆戻りはできないっていうところが
あったのかなぁ、
というふうに思っちゃいますね。 |
ほぼ日 |
そうですよね。
その他にも、
陶器のものは、けっこうあって、
手榴弾まで陶製だし。 |

*陶製の手榴弾 |
新田 |
そうですね。 |
ほぼ日 |
これ、実際に、使われたんですか? |
新田 |
実際には使われなかったって話ですけど、
軍の発注で、瀬戸や有田で生産され、
かなりの数、出回ったそうです。
|
ほぼ日 |
ガス台とかコンセントなんていうのは、
陶製でも、いいですよね。 |

*陶製のガス台

*陶製のコンセント |
新田 |
まあ、ありはありですけど、
コンセントも、ほんとうだったら、
白だったら白でよいのに、
わざわざブルーにして、
すごく、きれいに作っているんですよね。 |
ほぼ日 |
これ、今あったら、
おしゃれな気がしますね。
必要ないのに、
ちょっとした楽しみのように
おしゃれにしたりして。
こういうことって、
国から怒られたりはしなかったんですかね。 |
新田 |
いや、むしろ、国の方が、
「代用品を作りなさい!」
と奨励していて、
“優良ブランドマーク”なんてものまで、
作ってるんです。 |
ほぼ日 |
ブランドマーク!? |
新田 |
「優良代用品選定委員会」という
公的な機関が設置されて
品質保障のシールみたいなものまで作って、
国の政策で、
どんどん代用品を
作っていきましょうっていう、
国が作り出した、
ある種のブームみたいに
なっていたようですよ。 |
ほぼ日 |
たしかに、
いろんな代用品を見ていると、
ブームのように
盛り上がっていたのを感じますね。
だって、意味ないものとかも含めて、
ものすごいたくさんの
代用品がありますもん。
紙や竹で作られたヘルメットとか。 |

*紙で作られたヘルメット

*竹で作られたヘルメット |
新田 |
防火訓練といって、
空襲に備える訓練のときに、
防空頭巾やヘルメットを
かぶらないといけなかったんですよね。
とにかく、コスチュームを、
防災用にしなくちゃいけなかった。
使用者の記録がないので
詳しくはわからないのですが、
紙や竹のヘルメットは、
こうした機会で
使われたのかもしれません。
鉄と違い、軽くて、かぶってても
楽だったでしょうし。 |
ほぼ日 |
軽いから、練習しやすいって‥‥
紙じゃ、防火としての
本来の機能は果たせないじゃないですか! |
新田 |
そうなんですよね。
空襲から頭を守るためなら、
防空頭巾の方が機能的だし、
実際に使われてもいました。
本来、鉄や草で作られるものを
違う素材で作って、
「みんなで戦争に協力して
がんばりましょう」
という風に、
精神を昂揚させる意味が、
代用品には強く込められているように思います。
だから作られた割には、使われなかった。
鉄がないから仕方なく紙で作ったとか、
ただ、そういう解釈だけじゃ
捉えきれないのが、
代用品の世界なんです。
|