江戸が知りたい。
東京ってなんだ?!

なぜ応挙は見えないものが描けたのか。その2
生きた虎を見たことがなかった応挙は。

ほぼ日 そして虎ですけれど、
当時は日本人では見たことのある人が
いなかったといいますが、
でも応挙の虎は虎ですよね、ちゃんとね。

『猛虎図』(部分)円山応挙 個人蔵
江里口 虎ですよね。
ほぼ日 ただ、応挙のは背中にこぶがありますよね。
ちょっとおかしい。
江里口 というのは、応挙の場合には、
虎の毛皮の敷物を使って
虎の毛並みを写生したらしいんです。
ほぼ日 敷物は入ってきてたんですね。
江里口 ええ。敷物は輸入されていました。
ほぼ日 そうか、大の字にうつぶせになった虎の毛皮は
どうしても肩が盛り上がっちゃうから!
敷物を見て想像する出来上がり図、
みたいなことなんですね。
江里口 そうなんですよね。
で、実際応挙が敷物を
スケッチしたものも残ってるんですよ。
でもそれだと、敷物だから
目はくり抜かれちゃってるんですね。
だから応挙の虎は、目が大きいんですよね。
ほぼ日 そうか、そうか。それで今見ると
ちょっとコミカルに見えちゃうんですね。
江里口 顎も敷物だからないですよね。
平たくなってペタッてしてるから。
それを想像でおぎなうから、
やっぱり顎も何となく丸っぽくなって。
ほぼ日 ちょっと猫がギャーッて言ったみたいな
表情になっていますね。

『猛虎図』(部分)円山応挙 個人蔵
江里口 立体の形とか動きとかは猫を見て、
動きをスケッチしたということですよ。
だから猫っぽい部分と、
平たい部分が混在しています。
ほぼ日 応挙の中で写生と情報を、想像で合成して
描いた絵なんですね。
江里口 本人にとっては本当に写実に基づいたという
気持ちだったんでしょうね。
ほぼ日 ただ、ヒョウ柄がいるのは間違いでは?

『猛虎図』(部分)円山応挙 個人蔵
江里口 これは、当時は「正解」なんですよ。
当時の情報では、虎のメスがヒョウ、
というふうに思われていましたから。
だから、これはメスの虎なんです。
ほぼ日 あ、博物学的にそう思い込まれていたから、
間違いじゃないんですね。
江里口 ええ、間違いじゃないです。
ほぼ日 しかし、さすが写生に基づいただけあって、
色とかもきれいですよね。
江里口 毛の表現は細かいですよね。
ほぼ日 すごい。よく見たらほんとにすごいです。

『虎嘯生風図』(部分)円山応挙 東京国立博物館蔵(植松家旧蔵)
江里口 すごいですね、これは。
ほわほわほわって細かく描いてます。
柔らかそうですよね。ごついというより。
そして、応挙の虎のなかで、
敷物的な平たい印象を与えないものが
こちらですね。大英博物館が持っている
『猛虎図』。
細長いところから、
ちょうど覗いてるような形です。

『猛虎図』円山応挙 大英博物館蔵 (c)copyright The British Museum
ほぼ日 向こうから覗いてるみたいに見えるんですね。
これは、やはり初めから
こう描かれたものですか?
江里口 ええ、そういう狙いがあったんですよ。
ほぼ日 この構図っていうのは、
左右を切っちゃう構図っていうのは
ふつうにあったんですか?
それとも応挙の発明ですか?
江里口 浮世絵版画で柱絵という
細長のものがありますけど
これだけの長さと、
カットのバランスは
応挙の工夫でしょうね。
ほぼ日 すごい切り取り方ですね。
普通だったら全部描きますものね。
江里口 描きますよねえ。

『猛虎図』円山応挙 大英博物館蔵 (c)copyright The British Museum
江里口 ちなみに、今回展示している屏風には、
修理した時に間違って作られちゃった
ものがあるんです。
この2点なんですが。
どこがまちがってるか、わかりますか?


『猛虎図』円山応挙 個人蔵
ほぼ日 ‥‥えっ、わかりません。
江里口 ほんとうは、こうなんですよ。


『猛虎図』戦前の目録に掲載されているものを再現(合成)
ほぼ日 あっ! このほうが、
バランスがいいですね。
江里口 そうなんです。ほんとうは、
これが正解らしいんですよ。
ほぼ日 これは、間違ったままに?
そういうのは直さないんですか?
江里口 そのままになっていますね。
ほぼ日 いつ間違いに気付いたんですか?
江里口 これは、戦前の京都の、今の京博
(京都国立博物館、当時は恩賜京都博物館)
での展覧会に出たのを
最後に行方不明になってたらしいんです。
昭和3年の入札目録に、
正しい写真がありました。
最近発見されて、70年振りの公開なんですよ。
ほぼ日 今回の展覧会は、そういう珍しい
作品が多いんですね。
どこから探してきたんですか?
江里口 これはやっぱり今回の監修をしていらっしゃる
佐々木先生ご夫妻の
40年間の研究の成果なんですよ。
ほぼ日 佐々木先生というのは
ご夫妻で応挙の研究者で
いらっしゃるんですか?
江里口 そうです。佐々木丞平先生は
京都大学大学院の文学研究科の教授でらして、
美術史、歴史からの研究をなさっています。
奥様の佐々木正子先生は
日本画家でいらっしゃって、
描法とか技術の面から追ってらっしゃいます。
だからこれ以上強いものはないですよね。
理論部分と技術部分と両方であわせた
研究の成果が、今回の展覧会に結実しました。
ほぼ日 すばらしいですね。
江里口 作品が多いことと、作品保護のために
東京展には出品されないものもありますし、
会期中に何度か展示替えをしています。

今日はここまでです。
応挙が「自然」というものと
どう向き合ったのか? というおはなしです。
また、すごくなっていきますよ! お楽しみに!


2004-03-15-MON

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