糸井 |
長いペナントレースの中で、
逆風が吹いた時というのは、
それまでがトントン拍子だと、余計に
「あの方針は、間違っているのかなぁ?」
だとか、迷いが出るものですよね‥‥。
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藤田 |
ええ、出ます。
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糸井 |
そういう迷いが出た場合、
藤田さんは、「迷い」は「迷い」として、
どっちつかずのままで、行くほうですか?
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藤田 |
‥‥まあ、打開策は
いろいろ研究しますけど。
野球チームなら、
そのためにコーチもいるし、
そういうときの頼りになるのが
コーチの手足ですから。
やっぱり学ぶというのは
マネるところからはじまりますから、
だから、まずイイものを見て、
マネをすることですね。
いいものを見て、マネをして、
それを取り入れていっているうちに
自分のものになりますから。
だから、「俺が最高だ!」なんて
いっているのでは進歩ないと思うんすね。
何だっていいから、マネるんです。
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糸井 |
へぇー‥‥。
藤田さんも、そうしてきたのですか?
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藤田 |
ええ、ぼくはよくマネしました。
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糸井 |
それは選手時代からですか。
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藤田 |
ええ、もう若いときからそうです。
だからね、
よくある話ですけど、
ひとつのチームに、エースがいるでしょう?
そのチームには、似たようなピッチャーが
どんどん同じような格好で、育ってくるんです。
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糸井 |
あぁ‥‥。
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藤田 |
だから、一緒に並んでやっていると、
かっこうや、カタチまで似てくるんですよ。
だから、ぼくはエースの背中のほうに、
これからの若い選手をつけてピッチングさせた。
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糸井 |
そこから、学ぶんですね。
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藤田 |
そう。
前の人のタイミングだとか、
腕の上げ方だとか、
足の上げ方だとか‥‥似てくるんです。
口で方法を教えていくよりは、
エースが投げているのを見て、
一緒になって投げているほうが、
早く育つんですね。
あれもマネで、育てる一つの方法なんです。
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糸井 |
犬を飼うときに、
先に飼っている犬と、あとから来た犬がいて、
おしっこのトレーニングを
前の犬が教えるというのがありますよね。
‥‥あれですね!
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藤田 |
あれなんです。
不思議ですよ。
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糸井 |
ということは、
「マネされるばっかりのほう」にまで
至らない限りは、エースじゃないんですね。
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藤田 |
そうです。
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糸井 |
今、巨人でいうと
エースは、誰なんですか?
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藤田 |
今のエースですか。
今は、成績からいえば上原ですよね。
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糸井 |
マネされるところまで‥‥?
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藤田 |
精神的なものだとか
全体的なものからいくと、桑田だと思うんです。
フォームからいっても、
組み立てからいっても、
物の考え方や、野球に取り組む姿勢、
そういうものまでを見ると、桑田です。
あれは立派なエースだと思います。
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糸井 |
じゃあ、今のジャイアンツには、
精神的なエースと稼ぐエースと、
2人いると、藤田さんは思うわけですね。
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藤田 |
そうです。
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糸井 |
一時期、桑田をかばったのは、
あの時代、けっこう、
監督としては考えられたでしょう?
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藤田 |
桑田のふだんの野球に対する取り組みかたや、
生活を見ていますと、
ほんとうに大事にしてやりたい‥‥。
あれだけの素質を持って、
あれだけの生活をしている人間って
野球界には、いないですから。
一時期、桑田に対して、
首脳陣から、ああしろこうしろと
言おうとした時があったんですよ。
練習方法だとか、コーチと多少ありまして。
その時、桑田がぼくのところに
「ちょっと話を聞いてくれますか」
と来たとき、抱えてきたノートが‥‥
(腕をひろげて)こんなに、あるんです‥‥。
桑田は、高校時代からずっと、ずっと、
自分の1日の過ごしかた、
練習方法、何を食べて何時に起きて、
何時に寝て、きょうは何をした‥‥
それをぜんぶ控えていました。
ノートを、ぼくのところに、抱えてきたんです。
それを見たとき、ぼくは、
「こいつにはもう、一言も言うまい」
と思いました。
それぐらい自分を律する力というのがスゴいですね。
不幸にも、マスコミが善玉と悪玉とを
2つ作りあげてしまった時に
一時、悪玉の方に入れられちゃったものですから、
あんなにいい子をね‥‥それはかわいそうでした。
あれは、ぼくは尊敬します。
みごとな人間です。
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糸井 |
桑田が、悪玉の報道の渦中に
入れられた時って、まわりとしては
「どうカバーするか」
みたいなことがあったと思うんですけど。
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藤田 |
カバーのしようがないんです。
ああいうように大騒ぎになってしまうと。
「そうじゃない!」とこちらが何度言っても、
新聞に出てしまうんですから。
かわいそうでした。
ああなってしまうと、
何かの機会があったときに、
「桑田はそんな人間じゃないよ」
と個人的に話をするしか、手がない。
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糸井 |
しかし、桑田は
よく何回も乗りこえましたよね‥‥スゴい。
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藤田 |
あれは、強いですね。
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糸井 |
強いです。
あんな人は、やっぱりいないんですか。
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藤田 |
あそこまで徹底して
やり遂げているのはいないね。
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糸井 |
それを監督に
わかってもらえているというだけで、
桑田のほうも、きっと、うれしいんですよね。
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