がんばれ、加藤麻理子。
障害は、馬と跳ぶ。アテネ五輪への道。

第1回  馬術って、どんな競技ですか?




糸井 「ニュースステーション」で、
加藤さんのドキュメンタリーを見て、
いつかお会いしたいと思っていたんです。
加藤 ありがとうございます。
シドニーの選考予選で、落馬した時の、
ドキュメンタリーですよね(笑)。
糸井 そうです(笑)。
ふだんは、日本にいらっしゃらないんですか。
加藤 はい、ドイツにいるんです。
でも、金銭的な活動をするために
3ヶ月にいっぺんは日本に戻ってます。
糸井 金銭的な活動?
ということは、自分のプロデュースみたいなことを
しなきゃいけないわけですね。
加藤 そうなんです。
糸井 そのあたりも、色々と伺いたいんですが、
まず、競技としての乗馬というものを、
ほんとうに知らないので、
最初から色々と伺いますね。
加藤 はい。
糸井 馬っていうと、みんな、ふだん接触がないから、
ひとつは、馬肉なんですね(笑)。
食べる馬なんです。
きっと飲み屋に行ってる人は、
馬っていえば桜肉。
で、あとは、なんといっても競馬ですよね。
つまり、賭けの対象になる馬。
で、たぶん、日本人の何パーセントかぐらいしか、
競技としての乗馬とか、
趣味としての乗馬っていうことを知らない。

友だちにやってるやつがいるよ、
っていう程度のことはあるかもしれないけど、
オリンピックの競技で、乗馬ってあったっけ?
みたいな。
‥‥ごめんなさいね。
加藤 いえいえ、ほんと、そうですよね。
糸井 最初からずっと競技として、
あるものなんですか?
加藤 もう最初からあって、
ロスアンジェルス・オリンピックで、
戦前に西中尉という方が金メダルを取られてるんですが、
その後から低迷して、
戦後、騎馬隊がなくなったということです。
糸井 西中尉の話は、聞いたことあります。
騎馬隊が、あった時代があるんですね、日本に。
加藤 はい。皇室の護衛として、ですね。
そういうことで力を入れていたときは、
強かったというのは聞いています。
糸井 今は強いんですか?
日本の乗馬は。
加藤 いや、強くないです(笑)。
糸井 どのくらい強くないですか(笑)。
加藤 まず、国際試合に出てる人が、
今、日本には10人もいないです。
女性は、3人。
あとは男性で、全部で7人ぐらいです。
糸井 日本中で7人。
加藤 そうです。
世界のレベルで言うとどのくらいの位置か、
というのは、
サッカーと同じくらいと思っていただければ。
それくらい力の差があります。
糸井 そうかー。

日本の、乗馬用の馬っていうのは、
競馬用の馬とは、
まったく関係のないところにいるんですか?
加藤 そんなことはないんです。
どうしても、日本では、
競馬馬の生産がすごく多くて、
乗馬用の馬を生産することがないので、
競馬馬が、乗馬用にまわってくるんです。
糸井 競馬馬の力が弱くなってから
乗馬用の馬になる?
加藤 そうですね、あとは、
競馬馬になれなかった馬が、
乗馬用になるというケースが多いと思います。
糸井 じゃあ、最初から乗馬用の馬は、
品質というか、実力は弱いんですか?
加藤 はい。
乗馬用は、走るためではなく、
跳ぶための馬なので。
糸井 そうか。
「乗馬」では、
早く走るっていう競技はないんですね?
加藤 はい。馬術の場合は、3種目あるんです。
馬場馬術と、障害馬術と、総合馬術というのがあります。
で、馬場馬術の場合は、
こういう四角い枠の中で、横行ったり左行ったり・・・。
糸井 フィギアースケートみたいですね。
加藤 そうですね。芸術点を競うんです。
で、障害馬術は、その馬場の中で
決められたコースにある障害物を跳ぶ競技です。
総合馬術というのは、
森の中を走って、障害を跳ぶ競技なんです。

糸井 森の中に障害物を置いておくんだ。
じゃあ、時間は問われないんですか?
加藤 時間も問われます。
制限時間というのが、一応あって。
タイムは、障害馬術の中では、
ファーストラウンドで失点ゼロ、
制限タイム内で、タイム減点ゼロ、
障害減点ゼロの者が、2人以上になったら、
ジャンプオフというのがありまして‥‥。
糸井 つまり、2人以上になりにくいってことだね、
とても。
加藤 オリンピックレベルでは、そうですね。
なっても1人、2人、3人。
でも普通の国際競技は、
だいたい、いいコースで12人くらいです。
だいたいそういうかたちで
ジャンプオフになると、
今度は、障害数を減らされてタイムを競うんです。
障害減点ゼロ、タイムの速い者が優勝。
糸井 だとしたら、やっぱり、
走るだけの速い馬というのは、
自分がもし乗れたら、有利なんですね?
加藤 いえ、それは有利じゃないんです。
糸井 あ、ぜんぜん違うんですか!
競馬でいちばん頑張ってる、
強いっていわれる馬に乗ったら、もっと勝つのにな、
ってことは、ないんですか。
加藤 ないですね。
なんていうか、走りの種類が違うんです。
糸井 種類が違うんだ。
加藤 ヨーロッパの馬は、ウォーム・ブラッド(温かい血)
っていうんですけど、馬力のある馬なんですね。
で、サラブレッドの場合は、馬力がないんです。
短距離というか、瞬発性にはすぐれているんですが。
糸井 じゃあ、馬術競技の馬っていうのは、
基本的に、サラブレッドはいないんですか?
加藤 サラブレッドが母親で、
父親がウォーム・ブラッドという、
掛け合わせた馬はもちろんいますけども、
やっぱり馬力の点で、
ぜんぜん違ってくるんですよね。
糸井 はぁー、そうかー。しつこいですけど(笑)、
たとえば競馬馬が、勝てないようになってから
障害馬術に来るんですっていった場合には、
サラブレッドがお下がりで来ますよね。
加藤 はい。
糸井 それはそれで、いいんですか?
加藤 それは競技で使うというより、
趣味のほうの乗馬用ですね。
糸井 そっか、競技では使えないの?
加藤 使えるんですけども弱いです。
オリンピックでは使えません。
100万頭に1頭は使える馬が
いるかもしれないですけど、
持ってる資質が違うんだと思うんです。
糸井 はぁーっ。なんにも知らなかった。

僕、去年、初めて牧場で、
サラブレッドが練習してるのを見たんですけど、
ほんっとに繊細な動物ですよね。
加藤 ええ。
糸井 脚なんかはちっとも太くないし。
それから、
今むこうから走ってきますから、
静かにして下さい、とか牧場の人に言われて。
ちょっとでも、何か音がしたりすると、
気が散って、変なふうになるんでとか、
いろいろ注意された。
ほんとかよ? と思って見てたら、
ほんとにそれが伝わってくるほど、
心が華奢でしたね。
加藤 確かに、そうですね。
糸井 あれとはぜんぜん違うんですね。
加藤 競馬馬の場合は、
馬が並んで、1回の勝負で競い合って速く走る、
という風に、もう生まれたときから
それ用に育ってるんです。
糸井 なるほどなあ。

(つづきます)

2003-09-10-WED

HOME
戻る