2011年、震災のあとの夏。 なにができるかわからないまま 福島県の夏の甲子園の予選を追いかけ、 『福島の特別な夏。』という記事を書きました。 あれから2年が経ったある日、 懐かしい人からメールが届きました。 「あのドラマに続きが!」と 冗談のようにつづられていたメールには うれしい知らせが書かれていました。 2年後の「福島の夏」をお伝えします。 担当は、ほぼ日の永田泰大です。



2011年の夏に
『福島の特別な夏。』という記事を書きました。
震災から半年も経ってないころ、
なにができるかわからないまま、
福島県の甲子園の予選を追いかけた不思議な連載でした。

自分でつくった記事に言うのも変ですが、
ずいぶん達成感のある仕事でした。
自分以外のいろんなものに動かされてできたような、
大きなうねりのある取り組みだったように思います。

その後、何人もの方からぜひ続きをと言われましたし、
自分でもそうしたい気持ちはあったのですが、
あの特別な達成感は、なんというか、
つぎへの取りかかりを鈍らせる力も持っていました。
なにを生意気な、と自分で自分に思いますが、
くっきりと浮かび上がるような動機がないと
簡単に続けてはいけないような気がしてしまったのです。

あと、まぁ、ぼくは高校野球が大好きなので、
夏が来るたびに恒例のように
「予選があるので取材してきます!」
と言って飛び出してしまうと、
自分に歯止めがきかなくなってしまう、
というようなこともあって。

実際、あれから何度も福島を訪れてはいましたが、
それぞれをぜんぶ記事にはできずにいました。
そして、記事にするという目的ではなく、
福島でボランティアをしたり、
福島でのイベントに足を運んで
お客さんとして参加したりすることは、
それはそれで大切なことだと思っていました。

そして、今年の7月。
つまり、あの「特別な夏」から2年後の夏に、
懐かしい方からメールをいただきました。

「覚えてますか?」と書かれたそのメールは、
福島県立南会津高等学校の
猪股俊伸先生からのものでした。

覚えていますとも!
部員8人の南会津高校。


野球部の正式な部員が
3年生3人、1年生5人しかいなくて、
残りはスキー部が掛け持ちして
ようやく3年振りに福島大会に参加できた、
南会津高校。



取材中、数回しかお会いしていないにもかかわらず、
たいへん打ち解けたやり取りをしてくださった
南会津高校の猪股先生は当時33歳。
本業はスキー部の監督で、
臨時で野球部の監督を務めてらっしゃいました。

地方球場の交通事情をまったく理解せずに
電車と徒歩で駆けつけたぼくが、
帰りの手段がなくて困っていたとき、
助手席に乗せてもらったこともあったなぁ。

猪股さんからのメールはつぎのようなものでした。


「ほぼ日刊イトイ新聞 永田泰大 様

 福島県立南会津高等学校
 元野球部監督 猪股俊伸と申します。
 覚えてますか??

 突然申し訳ありません…
 あのドラマに続きが!
 取材していただいた時に1年生で
 センターを守っていた齋藤怜摩。
 現在主将をやっているのですが、
 7月11日、福島県大会の開会式で
 選手宣誓をします!!

 当時の1年生5人が3年生に
 昨年入部した2年生が5人
 今年入部した1年生が4人
 全部で14人で活動しています。

 あの記事が少なからず影響しての
 今の野球部です。
 本当にありがとうございました。
 だいぶ遅れましたが…
 お礼と報告でした。」

選手宣誓! なんてことだ!
当時1年生だった選手が
南会津高校のキャプテンとして、
開会式で選手宣誓を!

高校野球の選手宣誓は、
くじびきによって決まります。
選手宣誓を希望する高校が立候補し、
複数ある場合はくじをひくのですが、
今回の福島大会では
全88校中52の高校が立候補したとか。
つまり、52分の1の抽選を引き当てたことになる。
いやぁ、やるなぁ。

高校で野球部に入り、
かたい硬球をつかって3年間野球に励み、
最後の夏の最後のチームのキャプテンになって、
甲子園の予選に臨み、その開会式で
全88校を代表して選手宣誓をする。
素直に、かっこいいなぁと思う。

取材、というよりも、
とにかく観に行きたいと思った。
見届ける義務がある、というと言い過ぎだけど、
その選手宣誓はその場で
観たい、聞きたいと強く感じた。

あの「特別な夏」の取材を終えて、
かえって気軽に行きづらくなっていた
福島の高校野球の予選に
選手宣誓の取材を言い訳にして、向かうことにした。
そう決めたら、俄然、わくわくしてきた。

以前ほど長くはなりませんが、
数回のレポートに、どうぞおつき合いください。

(つづく)
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