糸井 | ‥‥お集まりのかたで、 被災地に行ったことあるというかた‥‥。 |
---|---|
西條 | あ、けっこう多いですね。 |
糸井 | 夏の前に行ったかたは? ‥‥あぁ、なるほど。 じゃあ、 夏が終わってからいらっしゃったかた。 |
西條 | ‥‥半々くらいですかね。 |
糸井 | たぶん「ちがう風景」を見てますよね。 |
西條 | そうですね。 被災地も、刻一刻と変わりますから。 |
糸井 | たとえば、震災直後の 「ガレキの山で、水びたし」という 暴力的な風景が 夏になったら 「夏草や兵どもが夢の跡」みたいな、 一面の草原になってたり。 |
西條 | ええ。 |
---|---|
糸井 | どこか、のどかな住宅予定地みたいに 見えるんだけど、 実際は、ガレキが片付けられて 雑草が伸びちゃっただけなんですよね。 |
西條 | はい。 |
糸井 | だから‥‥どういったらいいんだろう、 そういう光景の前に立つと 「被災地で 笑える場所があるんだろうか?」 とか思うんだけど、 向こうにいると、被災された人たちが 「先に笑ってくれる」んです。 |
西條 | うん、うん。 |
糸井 | そうしてはじめて 「あ、笑っていいんだよな、ここでも」 と思えたりするんですよ。 |
西條 | そうですね。 |
糸井 | はんぶん泣きながら 支援活動をしている人もいれば、 冗談なんか言いながら どんどん片づけていく人もいる。 そこは、人それぞれの個性ですけど、 全員が全員、 悲しみにくれて支援していく‥‥ みたいなムードになっちゃった場合には やれることって ものすごく少なくなりそうですよね。 |
西條 | それ、本当にそう思います。 ぼく、はじめて被災地に入ったとき、 なんていうんでしょう、 「被災地やられ」みたいになってしまって。 東京に戻ってからも、わけもなく 「涙だけがぽろぽろ流れてくる」ことが あったんです。 |
---|---|
糸井 | うん。 |
西條 | 現地では、津波にさらわれた話だとか、 身内がいまだに行方不明で‥‥ とか、そういうをたくさん聞くわけで。 |
糸井 | うん。 |
西條 | 僕が知っているなかでも 断トツの臨床能力を持つかたがいて 現地に行ったときは、 一日に10人ぐらいの人の話を 朝から晩まで聞いているんですけど‥‥。 |
糸井 | ええ。 |
西條 | あるとき、 どんな風に話を聞かれているんですか、と 訊いたんですね。 そしたら 「愛」の話にフォーカスしています、と。 |
糸井 | ほう。 |
西條 | つまり「悲しみ」の話にフォーカスすると プロの臨床家でも 「持って行かれちゃう」らしいんです。 |
糸井 | そうでしょうね。 一般的に語られる話ではありますけど コップの中に水が半分ある‥‥というとき、 「ああ、まだ水が半分ある」 と思う場合と 「もう、半分しかないんだ」 と思う場合とでは マクロで見たら「復興する力」がちがってくると 思うんですよ。 |
西條 | 「同情するのではなく、 共感的に理解することが大事」だとも、 おっしゃっていました。 同情してしまうと いっしょに落ちていってしまうから。 |
糸井 | ええ。 |
西條 | 「共感的に理解する」という言葉って、 よく考えると、すごい言葉だなあと思います。 「共感的に」「理解する」ですよ。 つねに「薄い膜」が一枚かませながらも、 相手の気持ちを理解する‥‥というか。 |
---|---|
糸井 | そうですね、うん。 今日、雨の中こんなにもたくさんの人が 集まってくださいましたが、 いま、西條さんに聞きたいことって みなさん それぞれに、おありだと思うんです。 |
西條 | ええ。 |
糸井 | でも、ひとつには 「自分に、何が手伝えるんだろう?」 「私は、何をしたらいいんだろう?」 ということが、あると思うんです。 ぼく自身もそうだったから。 |
西條 | なるほど。 |
糸井 | 西條さんの場合、実家が仙台で 実のおじさんが亡くなられた‥‥という 強い動機があった。 でも、知人や親類もいなければ 東北に行ったこともない‥‥という人が 何ができるだろうと考えたとき、 正直言って 何からはじめたらいいかも、わからない。 |
西條 | 手がかりがない。 |
糸井 | そうです。 ぼくのことでいうと、震災の3日後くらいかな、 相当な被害になるはずだから まずは「お金が集まらないと」と思った。 |
西條 | 大きな規模のお金が必要‥‥と。 |
糸井 | つまり「心の問題」はいったん置いといて、 「貧者の一灯」ではない、 「具体的な規模感のあるお金」が必要だと。 そんなことを 勇気を出して、ツイートしたりしてました。 |
西條 | 「自分を3日間、雇えるだけの金額を」 というツイートですね。 |
糸井 | 仮に、友だちが被災者だったとしたら、 東京の街頭の募金箱に 100円、チャリーンと入れただけで 「いいことをした」 と自分の気持ちを満足させるようなことは 絶対しないだろうな、と。 「彼らが直面してるものは オレの100円じゃない」 という気持ちになるだろうなと思ったから。 |
西條 | ええ‥‥。 |
---|---|
糸井 | もちろん、気持ちだって大事なんだけれど、 溺れてる人がいて 手を伸ばさなきゃならないときに 敢えて言えば、 「気持ち」なんて、どうだっていいんです。 |
西條 | 「あったかストーブプロジェクト」を やられていた平島武文さんが 初期のころに言っていて すごく印象的だったのが 「行動の伴わない サイレントな善意というのは、 被災者にとって 実質的には何もないのといっしょだ」 というものでした。 |
糸井 | あぁ‥‥。 |
西條 | おそらく、 あえて強く表現したのだと思いますが、 たしかに、 被災されて今困っているかたがたからすると、 そうかもなあと、思いました。 どういった動機であれ、 不器用だったり やりかたが多少まずかったりとかしても‥‥ 「現地のために 動いてくださるかたがたのことが ありがたかった」 という声は、やはりよく聞きますね。 |
糸井 | いまの「あったかストーブプロジェクト」 というのは、 個人のかたが一生懸命ストーブを集めて、 被災地に届けているんですよね。 |
西條 | はい。 ぼくらの冬物家電プロジェクトともまた別に、 行政や赤十字社の支援が届かない個人避難宅に 一軒一軒届けているんです。 もう、1600世帯以上には 配っているんじゃないでしょうか。 |
糸井 | つまり、冬になって寒さが襲ってきたとき、 「あなたのことを心配してます」 という言葉より、 「あったまれるストーブ」こそが必要だと。 |
西條 | はい。 平島さんは、ストーブといっしょに 「全国のみなさんも あなたのことを忘れていませんよ」 という「励まし」を届けているんだと 言っていますが、 ひとりひとりが行動することが大事なんだ ということを示したい、 というのも、 もしかしたらあるのかもしれません。 |
糸井 | なるほど。 もちろん、そういう「励まし」とか 「被災地を思う気持ち」に すごく、勇気づけられたりするってことは 当然なんですが 一方でぼくは「サイレントな味方」がいる、 ということの大きさもあると思っていて。 |
西條 | はい。 |
糸井 | ベトナム戦争で、なぜ大国アメリカが 小国のベトナムに「勝てなかった」か。 理由は色いろあるんでしょうけれど、 ひとつには 農民の間にベトナムの兵士が紛れ込めた というのが大きいと思うんです。 ベトナム戦争というのは、 ベトナムの国のなかで戦われていたから。 |
西條 | なるほど。 |
糸井 | 農民たちは、 積極的に協力するわけじゃないんだけど、 心情的に応援している。 つまり、周囲に「サイレントな仲間」が たくさんいるという状況が アメリカを追いつめたんじゃないかと 思っているんです。 |
西條 | それは、ほんと、そう思います。 ですから、ツイッターなどで 「ちょっと今、資金的に苦しいので 寄付はできないんですが、応援してます」 みたいに言っていただくと、 ぼくら支援する側は、 すっごくパワーをもらえますし。 積極的に支援ができずとも、 ぼくのつぶやきを リツイートしてくれる人たちがいたおかげで 「ふんばろう」は これだけ機能したんだと思います。 |
糸井 | なるほど。 |
西條 | リツイートって 「可能性を生む、つなぐ、ひろげる」。 この発明って大きいなぁと思います。 |
糸井 | ‥‥「ふんばろう」の「今後」については どういうふうに考えてるんですか? |
西條 | やはり、震災から半年を過ぎたあたりで 僕をふくめ、 プロジェクト全体に「疲労」が出てきました。 「短期決戦から 長距離走に変わりつつあるので、 上手に休みながらやっていきましょう」 と言ったのも、 ちょうど、その時期だったと思います。 |
糸井 | うん、うん。 |
---|---|
西條 | いま、アマゾン経由で送られる物資の量も、 ピーク時の「10分の1」なんです。 予想どおりと言えば予想どおりなんですが、 ステージも変わってきているので、 「雇用創出」に力を入れて行こうと。 |
糸井 | 雇用、ですか。 |
西條 | さらには「学習支援」と「教育」です。 教育環境が整わないと、 小さいお子さんをお持ちの若い世代は どんどん、 地域から出て行ってしまいますので。 |
糸井 | なるほど。 |
西條 | これまでの「物資」中心の支援から 「仕事」や「教育」「心」の3本柱のほうへ 方向性をシフトしていこうと‥‥。 |
糸井 | いまはもう、その局面に入ってる? |
西條 | 入ってます、完全に。 |