第2回 イノベーターの資質とは。

糸井
ライフネット生命さんって
つまりは「ベンチャー企業」なんですよね。
出口
ええ、東日本大震災が起きたときあたりで
「社員60人」くらいの状態でした。

いまは「90人」くらいおりますが。
糸井
その規模って‥‥。
出口
いわゆる「フル免許」の保険会社でいうと
世界でも
かなり小さいほうじゃないかと思います。
糸井
日本どころじゃなく、世界でも小さいと。
すごいですね。
出口
保険会社という業態は「労働集約的」なので、
かなり、少ないほうだと思います。

若いスタッフが
2倍や3倍、はたらいてくれているので
「保ってる」のかもしれない(笑)。
糸井
そんなにはたらくんですか、若い人?
出口
はたらきますねえ。
でも一方で、有給休暇取得率は70数%です。
糸井
ふつうは‥‥。
出口
日本の平均が40%とか50%くらい。

もちろん
大企業には100%のところもありますけど、
ライフネット生命は「ベンチャー」なので(笑)。
糸井
やっぱり忙しい‥‥と。なるほど。
出口
先日、ちょっと片付けものがあったので
日曜日にふらっと会社へ行ったら、
こうこうと灯りがついて
社員が20人くらい、出社してるんです。
糸井
90人のうちの?
出口
いやあ、えらいがんばってるなあと思ったら、
忘年会の出し物を練習してたんです。
糸井
なるほど(笑)。
出口
聞いた話では、以前は
会社の近くのホテルに3泊した社員もいると。
糸井
そこまでいくと、普通じゃないですね(笑)。
出口
いやあ、おかしいでしょう?

うちの社員たちは
そのへんの要領が悪いのかもしれないけど。
糸井
うちの場合は、仕事なんだか遊びなんだか、
どっちなのかわからない感じで
スタートしてるので
そのあたりは、ちょっと達者かもしれない(笑)。
出口
でも、お仕事の「ほぼ日」のほうでも
17年も休まず続けてるって
本当に、ものすごいことだと思います。
糸井
社員の数は、いま60人くらいなんですけど
まったくの手探りの素人からはじめて
常識を知らなかったせいで
ここまで、やってこれたところがあります。
出口
今おっしゃった「素人だから」については、
世界を変える人はみんなそうだって
ジョージ・バーナード・ショーという
毒舌家のおじさんが
たしか、そんなことを言ってましたよ。

「器用な人は世界のことがよく見えるので
 そっちに自分を合わせちゃう」と。

合理的な人間は、自分を世界に適応させる。
非合理的な人間は、
自分に世界を適応させようと、粘る。
あらゆる進歩は
この「非合理的な人間」に頼っているのだ。

糸井
へえ‥‥世界のほうに。
出口
器用な人というのは
どんな会社なのかがすぐわかっちゃうから、
自分を合わせちゃう。

すると、会社は何も変わらない。
糸井
なるほど。
出口
でも、不器用な人は
どうしていいか、わからないんですよね。
すると、自分がいいと思うこと、
自分が腑に落ちることしかできなくって、
結果的に
そういう人が世界を変えていくんだ、と。

だから、さっきおっしゃってた‥‥。
糸井
素人であること。
出口
‥‥は「正解」だという気がします。
糸井
これは、ぼく個人の欠点でもあるんですけど、
素人だったってことと、
あとひとつ、「勉強ぎらい」なんです。

だから、
まわりに合わせるための学びがはしょられて、
何とか、自分の思うようにしようとして‥‥。
出口
それって、イノベーターの基本ですよね。

イノベーションって
サボリ心がないところには起こりませんし、
勉強して合わせちゃったら、
ある種の神通力はなくなっちゃうでしょう。
糸井
そうなんでしょうね。
出口
これは、よくまわりに言うんですけど、
午後4時に
上司から5時間かかる仕事を振られたら、
かしこい人は
9時までやって褒めてもらおうと思って
仕事をはじめるんです。

ところが、サボリな人、仕事が嫌いな人、
ぼくも、その典型だったんですが、
そういう人って、だいたい
「デートの約束」をしてたりするんです。
糸井
むかしで言う「アフター5」に(笑)。
出口
そうすると、
「どうしたらデートに間に合うか」
を必死に考えて、
仕事にイノベーションが起こる。
糸井
ぼくの場合、
そういう「法則」を知らずにやってたのも、
よかったのかもしれないです。

つまり、法則を知ってたら、
もっと「いい気に」なってたかもしれないので。
出口
なるほど。
糸井
「ほら、バーナード・ショーも、言ってるし」
とかって言って
利口なフリをしちゃってたら、きっと。
出口
知らないってことは、
「不器用である」ということですよね。
自分の好きなようにしか、できない。

でも、そのことが
新しいものを、生むような気がします。
<つづきます>
2015-02-24-TUE

出口治明さんの新しい本
『「働き方」の教科書』、発売中です。

この連載のタイトルにも
「何でもできる50歳」とありますが、
本書の副題には
「『無敵の50代』になるための仕事と人生の基本」
とつけられています。
目次からいくつか拾ってみると
「50代ほど起業に向いた年齢はない」
「40代になったら得意分野を捨てる」
「仕事は楽しさで決まる」
‥‥などなど、
今回の対談で話されていることが
いっそう深く、詳しく語られています。
いま40代の人も、これから40代になる人も
「50歳は人生の真ん中」という
出口さんの言葉に希望を感じ、
同時に、やる気を掻き立てられるはず。
本連載を「副音声」のようにして読んだら
いっそう、おもしろいと思います。

Amazonでのお求めはこちら。