第5回 衣食「楽」足りて礼節を知る。

出口
一口に「放し飼い」と言ったら
ちょっと、いいかげんに聞こえますけど、
どんな仕事にも、どんなチームにも、
「こんなことを、したい」という目的が
あるわけですよね。
糸井
ええ。
出口
その目的が、しっかり共有されていて
「自分たちは、こんなことをやっているんだ」
ということさえわかっていれば
怠け者でも
それなりに何かしようと思うんですよ。
糸井
役に立ちたいという気持ち、ですよね。

まだ小さい子どもでも、
大人が何か頼むと、うれしそうに得意そうに
仕事をするじゃないですか。
出口
ええ。
糸井
子どもってお店屋さんごっこが好きだけど、
「もうからなくていい、ただがんばれ」
と言うより
「ちゃんともうけろ」
と言ったほうが、絶対楽しくなりますよね。
出口
うん、そう思います。
糸井
利益を上げるって大事なことですし、
基本的には「好き」なはずなんです、みんな。
出口
おいしいものを食べて、健康ではたらくためには
お金を稼がなければならない。

「武士は食わねど高楊枝」なんて
ホントかなって思うんですよ。成り立たない。
糸井
ええ。
出口
ふつうの暮らし、ふつうにご飯が食べられて、
あったかいねぐらがあって、
デートできて、ふつうに子どもを育てられる。

そういう「ふつうのこと」ができなかったら、
立派な理念や夢を語っても、しゃあないなと。
糸井
同じことを、矢沢永吉が言ってました。
出口
ああ、そうですか。
糸井
「男は金じゃない!」と言っていたやつに
彼女ができて、結婚した。

それまでは
ボロボロの家に住んで粗食に甘んじてきたけど、
子どもができて、
幼稚園に入れなきゃならないってとき
それでも「男は金じゃない」と言えるのか、と。
出口
言えないですよ、それは。
糸井
言えるんだったら、おまえは、そのまま行け。

言えないと思ったら
もうちょっと考えることあるだろう‥‥
そういう言いかたで
お金の話をしたことがあったんです。
出口
もともと「生命保険」というものは、
若い人を応援するために、生まれたんですよ。

250年前のロンドンで。
糸井
そうなんですか。
出口
つまり「250年前のロンドン」に
ふたりの若い男女が、田舎から出てきた‥‥と。

ふたりで手を取り合ってがんばっていたのに
男が馬車に轢かれて死んでしまった。
すると女性は道端で身を売るしかなくなった。
糸井
たとえばの話、ですね。
出口
ジェームズ・ドドソンという人が
「そんなことは、絶対におかしい」と思って、
「生命保険」を考え出したんです。

だから「生命保険は愛情です」だとか、
そんなCMは、ちょっとちがうと思うのです。

ふつうの人が、ちゃんとごはんを食べられて、
ふつうにおいしいお酒が飲めて、
安心して赤ちゃんを育てることができる。
それらをカバーするのが
生命保険の役割じゃないかと思ってるんです。
糸井
衣食「楽」足りて礼節を知る‥‥ですね。
出口
そのとおりです。
糸井
「衣食足りて‥‥」ってところで止めちゃうと
「楽しい」の部分が、省略されちゃうんです。

これは、吉本隆明さんに聞いた話なんですが
戦後、食糧が足りないときに、
女性たちのあいだでは
「石けん」が奪い合いだったそうなんですよ。
出口
そうなんですか。
糸井
つまり「身ぎれいにしたい気持ち」は、
ある人にとっては
食べ物と同じくらい切実なものだった。

だから「衣食」で止めちゃうと‥‥。
出口
本当ですね。衣食「楽」ですよね。

人間ってやっぱり、
楽しいこと、おもしろいことが好きで、
「怠け者」とは、
目の前にある仕事をはやく切り上げて、
楽しいことをしたいってことですから。
糸井
そうだと思います。
出口
「衣食『楽』足りて、礼節を知る」
糸井
かつて「くうねるあそぶ」というコピーを
書いたことがあるんですが
あれ、落語の「寿限無」に出てくる
「くうねるところにすむところ」という一節が
元になってるんです。

でも、ぼくは、そこに「あそぶ」を入れないと、
やっぱり、納得できなかった。
出口
なるほど。
糸井
当時、あのコピーは
自然に受け入れてもらえたんですけれど、
実際には
「最低限度の生活」について話すときに
「あそぶ」を入れると怒るというか、
「けしからん!」
みたいに言う人って、いますよね。
出口
いますね。

でも「あそぶ」をなくしてしまったら‥‥
しおれますよ。水をやらない花みたいに。
糸井
そもそも人間って、程度の差はあれ
ぼくもわたしも、
「あそびが好きな怠け者」なわけですから。
出口
ええ。
糸井
ぼくらは「はたらきたい」というテーマで、
本をつくったり、
展覧会をやったりしてきましたけど
そこで言う「はたらきたい」って
つまり「やりたいこと」だと思うんですよ。

ようするに「はたらく」ということを
そのまま「労働」と考えると
「嫌なこと」になってしまいがちですけど‥‥。
出口
そうじゃなく、「やりたいこと」だと。
糸井
そうです。

たとえば、ものすごく具体的な言い方をすれば
「来るのがイヤじゃない会社」にしたい。
出口
ああ、それは、わかります。

ぼくも、ライフネット生命をつくったときに、
企業のトップの仕事の「95%」は、
朝、社員が起きたときに
「楽しいから、今日も会社へ行こう!」
と思える会社をつくることだと、思いました。

もう、それ以外にないくらいにです。
<つづきます>
2015-02-27-FRI

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この連載のタイトルにも
「何でもできる50歳」とありますが、
本書の副題には
「『無敵の50代』になるための仕事と人生の基本」
とつけられています。
目次からいくつか拾ってみると
「50代ほど起業に向いた年齢はない」
「40代になったら得意分野を捨てる」
「仕事は楽しさで決まる」
‥‥などなど、
今回の対談で話されていることが
いっそう深く、詳しく語られています。
いま40代の人も、これから40代になる人も
「50歳は人生の真ん中」という
出口さんの言葉に希望を感じ、
同時に、やる気を掻き立てられるはず。
本連載を「副音声」のようにして読んだら
いっそう、おもしろいと思います。

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