- 出口
- 一口に「放し飼い」と言ったら
ちょっと、いいかげんに聞こえますけど、
どんな仕事にも、どんなチームにも、
「こんなことを、したい」という目的が
あるわけですよね。
- 糸井
- ええ。
- 出口
- その目的が、しっかり共有されていて
「自分たちは、こんなことをやっているんだ」
ということさえわかっていれば
怠け者でも
それなりに何かしようと思うんですよ。
- 糸井
- 役に立ちたいという気持ち、ですよね。
まだ小さい子どもでも、
大人が何か頼むと、うれしそうに得意そうに
仕事をするじゃないですか。
- 出口
- ええ。
- 糸井
- 子どもってお店屋さんごっこが好きだけど、
「もうからなくていい、ただがんばれ」
と言うより
「ちゃんともうけろ」
と言ったほうが、絶対楽しくなりますよね。
- 出口
- うん、そう思います。
- 糸井
- 利益を上げるって大事なことですし、
基本的には「好き」なはずなんです、みんな。
- 出口
- おいしいものを食べて、健康ではたらくためには
お金を稼がなければならない。
「武士は食わねど高楊枝」なんて
ホントかなって思うんですよ。成り立たない。
- 糸井
- ええ。
- 出口
- ふつうの暮らし、ふつうにご飯が食べられて、
あったかいねぐらがあって、
デートできて、ふつうに子どもを育てられる。
そういう「ふつうのこと」ができなかったら、
立派な理念や夢を語っても、しゃあないなと。
- 糸井
- 同じことを、矢沢永吉が言ってました。
- 出口
- ああ、そうですか。
- 糸井
- 「男は金じゃない!」と言っていたやつに
彼女ができて、結婚した。
それまでは
ボロボロの家に住んで粗食に甘んじてきたけど、
子どもができて、
幼稚園に入れなきゃならないってとき
それでも「男は金じゃない」と言えるのか、と。
- 出口
- 言えないですよ、それは。
- 糸井
- 言えるんだったら、おまえは、そのまま行け。
言えないと思ったら
もうちょっと考えることあるだろう‥‥
そういう言いかたで
お金の話をしたことがあったんです。
- 出口
- もともと「生命保険」というものは、
若い人を応援するために、生まれたんですよ。
250年前のロンドンで。
- 糸井
- そうなんですか。
- 出口
- つまり「250年前のロンドン」に
ふたりの若い男女が、田舎から出てきた‥‥と。
ふたりで手を取り合ってがんばっていたのに
男が馬車に轢かれて死んでしまった。
すると女性は道端で身を売るしかなくなった。
- 糸井
- たとえばの話、ですね。
- 出口
- ジェームズ・ドドソンという人が
「そんなことは、絶対におかしい」と思って、
「生命保険」を考え出したんです。
だから「生命保険は愛情です」だとか、
そんなCMは、ちょっとちがうと思うのです。
ふつうの人が、ちゃんとごはんを食べられて、
ふつうにおいしいお酒が飲めて、
安心して赤ちゃんを育てることができる。
それらをカバーするのが
生命保険の役割じゃないかと思ってるんです。
- 糸井
- 衣食「楽」足りて礼節を知る‥‥ですね。
- 出口
- そのとおりです。
- 糸井
- 「衣食足りて‥‥」ってところで止めちゃうと
「楽しい」の部分が、省略されちゃうんです。
これは、吉本隆明さんに聞いた話なんですが
戦後、食糧が足りないときに、
女性たちのあいだでは
「石けん」が奪い合いだったそうなんですよ。
- 出口
- そうなんですか。
- 糸井
- つまり「身ぎれいにしたい気持ち」は、
ある人にとっては
食べ物と同じくらい切実なものだった。
だから「衣食」で止めちゃうと‥‥。
- 出口
- 本当ですね。衣食「楽」ですよね。
人間ってやっぱり、
楽しいこと、おもしろいことが好きで、
「怠け者」とは、
目の前にある仕事をはやく切り上げて、
楽しいことをしたいってことですから。
- 糸井
- そうだと思います。
- 出口
- 「衣食『楽』足りて、礼節を知る」
- 糸井
- かつて「くうねるあそぶ」というコピーを
書いたことがあるんですが
あれ、落語の「寿限無」に出てくる
「くうねるところにすむところ」という一節が
元になってるんです。
でも、ぼくは、そこに「あそぶ」を入れないと、
やっぱり、納得できなかった。
- 出口
- なるほど。
- 糸井
- 当時、あのコピーは
自然に受け入れてもらえたんですけれど、
実際には
「最低限度の生活」について話すときに
「あそぶ」を入れると怒るというか、
「けしからん!」
みたいに言う人って、いますよね。
- 出口
- いますね。
でも「あそぶ」をなくしてしまったら‥‥
しおれますよ。水をやらない花みたいに。
- 糸井
- そもそも人間って、程度の差はあれ
ぼくもわたしも、
「あそびが好きな怠け者」なわけですから。
- 出口
- ええ。
- 糸井
- ぼくらは「はたらきたい」というテーマで、
本をつくったり、
展覧会をやったりしてきましたけど
そこで言う「はたらきたい」って
つまり「やりたいこと」だと思うんですよ。
ようするに「はたらく」ということを
そのまま「労働」と考えると
「嫌なこと」になってしまいがちですけど‥‥。
- 出口
- そうじゃなく、「やりたいこと」だと。
- 糸井
- そうです。
たとえば、ものすごく具体的な言い方をすれば
「来るのがイヤじゃない会社」にしたい。
- 出口
- ああ、それは、わかります。
ぼくも、ライフネット生命をつくったときに、
企業のトップの仕事の「95%」は、
朝、社員が起きたときに
「楽しいから、今日も会社へ行こう!」
と思える会社をつくることだと、思いました。
もう、それ以外にないくらいにです。
<つづきます>
2015-02-27-FRI