マンガ・鈴木みそ

第1回	お会いするタイミング。

糸井 じゃあ、ゆるゆると、
はじめさせていただいて、よろしいですか?
一同 (拍手)
早野 拍手もあるの? すごいな(笑)。
いや、観客がいるとは思わなかった。
言ってくださいよ、最初から(笑)。
糸井 どこかの部屋でふたりでやる方法もあったんですけど、
まぁ、聞きたがってる人が多いに決まってるし、
これがいちばん効率がいいかなと思って。
早野 てっきりふたりでひっそりやるんだと思ってました。
ぜんぜんひっそりできないじゃん、これだと。
糸井 そうですね。じゃ、カーテンぐらい閉めますか。
早野 (笑)
糸井 じつはぼく、震災の直後から、
ずっと早野さんのツイッターを追っかけてまして。
いつかお会いするっていうのを、
自分で勝手に決めてたみたいなところがあるんです。
でも、お会いするタイミングを選ばないと、
なんか、もみくちゃになっちゃうというか、
落ち着いて話もできないままに
おしまいになっちゃうような気がして。
早野 ああ、そうかもしれませんね。
糸井 いつ、どういうかたちで、お会いするのかが、
すごく大事だと思ってたんです。
で、ようやく、時期は来たかなぁと。
現地で瓦礫をかたづける時期があって、
物資が足りない時期があって、
いま、ようやく、なにかを
つくっていく時期に入ってきていて。
早野 そうですね。
糸井 そのときにできる活動って、
ぼくらとしては、逆に増えてるかもしれない。
そんなふうに感じて、
お会いするには、いいタイミングだなぁと。
いまだったら、本当の気持ちをふつうにしゃべって、
それがふつうに受け入れてもらえるんじゃないかって。
早野 うん、そろそろですかね。
糸井 ええ。
別に、これまで、言いたいことが
まったく言えなかったわけではないんですが、
「ほんとはさ、誰だってこう言いたいよ」
みたいなことを
ちょっと遠慮しなきゃいけない時期が
あったことも事実だと思うんですよ。
だから、いま、ようやく気兼ねなく、
早野先生をお呼びして、ふり返ったり、
先の話をしたりということができればなと。
早野 そうですね、
とくに、先の話をしたいですよね。
糸井 そうですね。
ぜひ、今日は長くなってもかまわないので、
先の話をたっぷりできるように、と思ってます。
早野 と、その前に、これ、気になるんですけど‥‥。
(目の前のおまんじゅうを指さす)
糸井 あー、やっぱり(笑)。
たぶん、お気に召すと思って。
早野 これはどこの?
糸井 「とらや」です。
早野 「とらや」だ。
糸井 もう、食べちゃいますか。
早野 食べます。
いや、食べながらでもしゃべれますので、
どうぞ、続けてください。
糸井 わかりました(笑)。
ずっと前から勝手に早野さんのことを
追いかけてた自分としては、
知ってることと知らないことが
それぞれにばらついてあるんですけど、
今日は、ほとんど知らないつもりで話したほうが、
これを読む人にとっても都合がいいかなと思うんです。
それで、まずは「誰なんだ?」っていうところから、
はじめていきたいんですが。
早野 わかりました。
糸井 早野さんは、もともとは、
放射能の専門家というわけではないんですよね。
で、本業というか、本業にちょっと関わる
おもしろいところでいうと、
『ダ・ヴィンチ・コード』を書いたダン・ブラウンの
『天使と悪魔』という小説が映画になったときに、
本業の研究者としての立場から、
監修のようなことをなさったとか。
早野 ああ(笑)。
監修ではなかったんですけれども、
ええと、あの『天使と悪魔』という小説は
ジュネーブからはじまるんですよ。
主人公のロバート・ラングドン先生が
いきなり超音速機でジュネーブの
「セルン(CERN)研究所」というところに
連れていかれちゃうんですけど、
セルン研究所は実在する施設なんですね。
すごく簡単にいっちゃうと
世界でいちばん大きな物理学の研究所。
セルンにはLHC(大型ハドロン衝突型加速器)
という大型の加速器があって、
近年、ヒッグスと思われる粒子が見つかった
ということで有名になったところです。
『天使と悪魔』のなかでは、その研究所で
大量の反物質がつくられているという設定なんですね。
で、それをつかって誰かが爆弾をつくったりする。
セルンで反物質がつくられていること自体は
間違ってないんです。ただ、その量が問題で、
たとえば、「反物質1グラム」なんてね、
つくれって言われても到底つくれない。
セルンの加速器の総力をあげても、
宇宙年齢ぐらい、100億年ぐらいつかって、
やっとできるかな? っていうくらいなんです。
1グラムなんて、そんなねぇ、
あの、「アボガドロ定数」ってご存じですか?
6のあとに0が23個つくっていう、
ものすごく大きな数で‥‥‥‥
ま、とにかく、ダン・ブラウンという人が
セルン研究所と反物質が出てくる
『天使と悪魔』という小説を書いた。
それが数年前に映画になったんですが、
じつは私、たまたまですが、そのセルン研究所で、
まさに反物質の研究をしている人間なんです。
糸井 そういうことですね。
早野 はい。
ですから、そこで研究している人間としては
小説に書かれていることと
現実の研究の違いをきちんと説明しないと、
爆弾製作者だと思われちゃうじゃないですか。
だから、映画の封切り前に、
そのへんを説明する記者会見を開いたりもしました。
あと、いまでも
「天使と悪魔」「物理学者」みたいな
キーワードでウェブを検索すると、
ぼくがつくったページが出てきます。
そこで、ダン・ブラウンが書いた小説の
どこが本当でどこがフィクションか
ということを解説しています。
糸井 セルンでの研究は、いまも?
早野 いまでもやってます。
毎月、ジュネーブに行って、
1997年からですから、もう十何年、
国際チームを率いて研究をやってます。
糸井 それはずっと続いてらっしゃいますよね。
早野 ずっと続けてますね。
糸井 じつは、そのジュネーブの研究所の
関係者の方から「ほぼ日」に
メールをいただいたこともあって、
そこでもぼくは早野さんの名前を
偶然、目にしているんです。
そして、あることがきっかけで、
早野さんと絶対会いたいと思うようになるんですが、
それはあれです、ほら、
淡路町のフルーツパーラーについてのツイート。
早野 ああー、万惣(まんそう)のホットケーキ(笑)。
糸井 はい。万惣が閉店して、
あの名物のホットケーキが食べられなくなるぞ、
っていうニュースを、ぼくは、
早野さんのツイートで知るんです。
読んで、慌てて食べに行きましたよ。
早野 ぼくも行きました(笑)。
糸井 ぼくはすごくあそこのホットケーキが好きで。
あの近くに任天堂の古い社屋があって、
そこでゲームをつくってたときに
よく食べに行ってたんです。
そのお店の名前が早野さんのツイートに出てきて、
勝手にシンパシーを感じてたんです。
早野 ああ、そうでしたか。
糸井 そのあと、早野さんが講演する研究会が
うちの会社の近くで開かれることになって、
そこに申し込んで参加して、
ご挨拶だけさせてもらって。
早野 はい、あのときはじめてお目にかかりました。
糸井 でも、あの段階でもまだ、
「ほぼ日」にお呼びしてコンテンツにするには、
ちょっと時期が早いかなと思ってたんです。
つまり、ぼくは早野さんと、
ただ事実の話をしたいんですけど、
それが「ある考えを持ったグループ」みたいに
思われてしまいそうな予感があった。
「そういうパーティー」として
とらえられるのがイヤだったんですね。
早野 それ、とってもよくわかります。
糸井 あ、わかりますか。
それを、なるべく避けるためには、
時期が来るまではなるだけ静かにしていて、
ここは言えるなと思うことだけ
言っていくしかないなと思ってて。
そうするうちに、流れが来たら、
言う量が増えてくるんだろうな
というふうに思っていたんですけど。
早野 なるほど。
糸井 まぁ、そういうふうな経緯がありまして。
で、いまだったら、早野さんとお会いして
しゃべれるんじゃないかな、と。
それで‥‥こういう場ができました。
早野 わかりました。
2013-06-17-MON