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偏愛の人が、
好きな物をとりあげられたら
——
もし、卵を食べちゃダメって言われたら、
どうするんですか。
えー‥‥どうしよう‥‥食べないのかな‥‥
どうしよう、考えただけで悲しい気持ちになってきた…
人生の楽しみをそがれてしまうよ‥‥考えられないよ…
——
あの、たとえば、卵を食べるために
無理難題を出されたらどうするんですか?
食べたいなら、毎日マラソンしなさいとか。
うーん‥‥やるかも‥‥やるかもなあ‥‥
ああ、ほんと、悲しい気持ちになってきちゃった…
——
(笑)
卵は、いつから好きなんですか?
私は、料理もすごく好きなんだけど、
最初の料理の記憶も、卵料理なんだよねえ。
小学校低学年の頃かなあ、
両親が共働きで、あんまり家にいなかったのね。
火は使うなと言われてたんだけど、
電子レンジは使ってよかった。
子どもだったから、
料理のテクニックもバリエーションもないんだけど、
やっぱり卵を食べたかったみたいで。
——
小学生の頃、すでに、「卵が食べたかった」んですね(笑)
それで、みんなが通る道だと思うけど、
卵を割ってお皿に入れて、
レンジでチンして、爆発させてた(笑)
当時はインターネットもないから、
針で穴をあければいいこともわからなかったから、
何度も何度も爆発させてたの。
——
それでも食べたかったんですね!
そうそう。
めげずに、いろいろ試してわかったのが、
卵をといてからチンすると爆発しないってこと。
卵をといて、塩こしょうして、
レンジに入れると、たまごがぷわーってふくらむのね。
——
へえ!
1分チンして、
ぷわーってふくらんだら、
取り出して、かき混ぜて、
また1分チンしたら
ぷわーってふくらんで‥‥っていうのを、
すっごい作ってた。
今思うと、たいしておいしくなさそうなんだけど(笑)
それを何度も作って、おやつに食べてたの。
——
卵をといて、チンして、ぷわーってなって、
それをもう一回混ぜるんですか?
そうそう、最初は溶き卵1個分を、
いきなり3分チンしたりしてたんだけど、
そうすると、外だけがやたらにかたくなっちゃうでしょ。
それを、何度かいろいろ工夫してみて、
1分やって、外がかたまって中が半熟になったら、
混ぜて均一にして、それをまたチンする…ってすると、
ちゃんと均一に火が通るなとか、
しかもそれを3回やったほうがおいしいな、とかって
だんだん気づくんだよね。
——
すごい!すでに、卵への強い思い入れがある‥‥
ただそれだけのものを、よく食べてたの。
——
今作ってみたら、
すっごくおいしいかもしれないですね!
うん、たぶん、
「たんなる卵だ」って味だろうね(笑)
——
そうか(笑)
それは、何回くらい作ったんですか?
月2回は作ってたから、
50回くらいは作ったんじゃないかな
——
もはや熟練…!
ほかには何を作ってたんですか?
あとは目玉焼きとか、卵焼きかな。
でもあるときね、親の本棚に、この本があるのを見つけて。
これ、当時私が見つけたそのままの、親の本なんだけど。
——
えー!!!そうなんですか!!!!
昭和52年に発売の本で、
本棚にこれがあったんだよね。
小学生のとき、この本を読んで、
「なんておいしそうなんだろう!」って感動して。
最高だ!!!! と思って、もう何回も何回も読んで。
もちろん当時は、フランスに行ったこともないんだけど、
食べるのが大好きだったから、
赤線を引きたいくらいの気持ちで読んだの。
それで、このなかに、オムレツって言葉がでてくるのね。
タイトルにもなってるんだけど。
で、「このおいしそうなものはなんだろう?」
「バタってものを溶かす、これは何?
バターやマーガリンとは違うの?」って思って。
卵をよくかきまぜること、
しかし泡がたつほどかきまぜすぎないこと。
バタまたは油が熱したところに卵を入れること。
火加減は強めにする。
卵を流しこんだら、そのままほっておかず、
かきまぜること。
焼き立てを食べさせること。
この5つがあれば、
オムレツは誰でもおいしくできるって書いてあったの。
それを読んで、親に
「お母さん、私、このオムレツっていうのが食べたい!
この通りにつくって!」って言ったのね。
そしたら親には、
「オムレツなんて、いつも食べているじゃない」
って言われて。
母のなかでは、オムレツと、
普段作ってくれていたたまご焼きが、
同じものとして見なされてたみたい。
『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(石井好子、暮らしの手帖社)
——
ああ、わかります。
作りかたは似てますもんね。
そうそう。そのときは、
「たしかに、卵だし、焼いてるし、
『オムレツ』っていうものは、これなのかな」
て思ったんだけど。
でも「なんかやっぱり、納得がいかないな」と思って。
——
どうやら、違うんじゃないか、と。
そうそう。
それでますます、この本の中のオムレツに憧れたの。
あとね、この本に載ってた、
「ベルベールの卵」にもすごく憧れた!
グラタン皿に、半熟の卵を並べていって、
ベシャメルソースにトマトピューレを入れた
色がついたソースをのせて、それをオーブンで焼くのね。
スプーンを入れると、中身が半熟の卵で、
その上にドロッとしたソースがかかっていて、
それをふうふう冷ましながら、
フランスパンと一緒に口に入れる‥‥とか書いてあって!
なんじゃそら! おいしそう! と思ったなあ。
それで、この本は暗記するくらいずっと読んでたんだよね…
それが小学校の高学年くらいかな。
べつに、卵のことばかり考えて
生きてきたわけではないんですけど(笑)
——
いや、じゅうぶん、
卵のことばかり考えてきたのでは‥‥!
すごい。卵のこと、よくわかりました。
しかも、卵料理がうまくなった気分です‥‥!
ありがとうございました!
よかった。
卵のことをこんなに話せて楽しかったなー。
(最終回は、ツレヅレハナコさんの目玉焼きレシピ!)
2016-8-27-SAT