あのひとの本棚。
「ほぼ日」ではときどき糸井重里が「あの本が面白かった!」とか
「これ、読んどくといいよ」と、本のオススメをしていますが、
これを「ほぼ日」まわりの、本好きな人にも聞いてみようと思いました。
テーマはおまかせ。
ひとりのかたに、1日1冊、合計5冊の本を紹介していただきます。
ちょっと活字がほしいなあというとき、どうぞのぞいてみてください。
オススメしたがりの個性ゆたかな司書がいる
ミニ図書館みたいになったらいいなあと思います。
     
第12回 大宮エリーさんの本棚。
   
  テーマ 「読書すらしたくない、しんどいときに読む5冊」  
ゲストの近況はこちら
 
正直、それほど熱心な読書家ではないんです。
もちろん本は好きで、
小説もそこそこは読むんですけど‥‥
最近は、気軽に読めるものが好きですね。
疲れてるときでも、パラパラながめて笑えるような。
撮影やら何やらでヘトヘトになって、
読書すらしたくないほどにしんどいときでも
軽く読めてしまう、そんな5冊を選んでみました。
   
 
  『板尾日記』
板尾創路
  『ダジャレ
ヌーボー』
石黒謙吾
         

 

 
           
 
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  『ダジャレヌーボー』 石黒謙吾 扶桑社/600円(税込)
 
それこそもう、くたくたに疲れてても間違いなく読めます。
お察しの通り、ダジャレの数々が収録されている本で‥‥
たとえば‥‥ちょっとてきとうに開いてみますね‥‥。

「ルッコラしょ」

‥‥‥‥‥‥どうでしょう。
てきとうに開いて出てきたダジャレなのに、
このハイクオリティですよ! もう、ひどいでしょ?(笑)
ひどいんですけど、この本のすばらしいところは
実用的な部分も書かれているところなんです。
「ルッコラしょ」を使うシチュエーションとしては、
こんなことが解説されてました。

「野菜売り場でルッコラをかごに入れるときに、
 “ルッコラしょ”と言いましょう」

または、

「サラダに入っているルッコラをフォークで口に運ぶとき、
“わあ、おいしそうなルッコラ、
 あら? けっこう重いわね。ルッコラしょ”」
 
‥‥‥‥ひどいです。
さらに、この本のすごいところは
「後処理」が書いてあるところにもあるんです。
ルッコラショが通じなくてシーンとしてしまった場合、
次のようにフォローしましょうとありました。

「あ、関東ではドッコイショって言うんですね?」

アホな本なんですけど、わたしはこれ、
けっこう実用書にしたいと思ってるんですよ。
広告の仕事の打ち合わせで、
ダジャレを連発するクライアントの副社長がいるんです。
そのダジャレを、拾うことができなくて‥‥。
返したいじゃないですか、上をいくダジャレで。
もしくはきれいに後処理してあげたいじゃないですか。
わたし、わりと後処理には自信あるんですけど、
ダジャレのフォローって難しいんです。
基本、自己完結ですからね、ダジャレは。
「これがほんとのネクタイ関係!」
って言われたらそれでおしまい。周囲はドン引きですよ。
その絶望的な状況の後処理をできるようになりたくて
この本を読んだりもしたんです。
‥‥けど、まだ現場で役に立ったことはありません(笑)。

ちなみにこの本を書いた石黒謙吾さんというかたは、
『盲導犬クイールの一生』っていう本の著者なんですよね。
めちゃめちゃ真面目で感動的な本を書いたひとが
なんで『ダジャレヌーヴォー』なのか?!
そんな意味でも興味深い一冊です。

Amazonで購入
  『板尾日記』 板尾創路 リトルモア/1575円(税込)
 

どんなにしんどくても、ぜんぜん読める本ですね。
てきとうにぱっと開いたところを読む感じで。
ときどき自分のことが書かれてるのもおもしろいし。
板尾創路さんとは、MALCOっていうバンドの
プロモビデオに出てもらったときはじめて会ったんですけど
最初はとっつきにくい人やなあっていう印象でした(笑)。
で、ビデオができてからどこかの楽屋で一緒になったときに
「PV見たで」ってぽつりと言われたんです。
「嫁がめっちゃ喜んでた、はじめて嫁にほめられた」って。
それからですね、仲良くなったのは。
飲みに行ったりしているうちに、ある日、
「実はな、日記書いてんねん」って聞いたんですよ。
それでわたし、エンピツをプレゼントしたんです。
12本。ぜんぶにキャッチコピーを入れて。
ほら、運動会とかでエンピツに金の文字を入れたやつ
もらうじゃないですか。あれです、あれ。
下町の工場に、12種類のコピー入れてもらって。
“世界はこれから板尾創路”とか(笑)。
電話で注文したとき、店の人くすくす笑ってました。

それはともかく本の内容は、
やっぱり板尾さんらしさが出てるっていうか、
テレビとかではわからない人柄がにじみ出てて‥‥
いいんですよ。
日記って、ドキュメンタリーじゃないですか。
勇気あるなあと思うんですよね。
だって、自分で読み返しても恥ずかしいでしょ、普通。
それを売るっていう神経、信じられない(笑)。
読みながら、「ああ、あほやな」って思ったり、
「よう書くな、こんなん!」と思ったり‥‥。
気分転換にすごくいいです。
これで人生が変わるとか影響を受けるとか
そういうのはまったくないですけど(笑)。
でも妙なスイッチが切り替わる感じはあるかも。
わたし小説を読むと、そっちの世界に入り込みすぎちゃって
トリップしちゃって戻れなくなるんですよ。
その点、こういう本はすぐに「行って来い」できますから。
お散歩感覚で読めて、そこがいいんです。

板尾さんに、10巻まではやってとお願いしてるんですよ。
「もう売れへんやろ、そのころは」って言ってたけど、
いやいや継続は力なりですって、ねえ。
ぜひ続けてほしいものです。

 
大宮エリーさんの近況
映画監督、エッセイスト、CMプランナー、
ミュージックビデオ制作、TVドラマの演出などなど‥‥。
ほんとうに多岐にわたってご活躍の、大宮エリーさん。

そんな大宮エリーさんは、この春、
どうやらさらに活動の幅を広げてらっしゃるご様子。
ふたつの「はじめて」に挑まれているのです。
そのふたつについて、
たっぷりご紹介させていただきますね。

演劇大宮エリー第一回公演
『GOD DOCTOR』

作・演出/大宮エリー
  出演/片桐仁   石田ひかり
     松村雄基  遠山景織子
     山下真司  板尾創路

【東京公演】2008年5月4日(日)〜5月18日(日)
      新国立劇場(小劇場)
【兵庫公演】2008年5月22日(木)・5月23日(金)
      兵庫県立芸術文化センター(中ホール)

舞台作品の作・演出に、初挑戦です。
ご覧のように、豪華な出演陣なのですが、
「ほぼ日」的に気になるのは、
やはり板尾創路さんの動向ではないでしょうか。
板尾さん、演劇も!
しかも今回は、まさかの「長ぜりふ」もあるとか?!
喋り続ける板尾創路‥‥見逃せません。

ちなみに上のポスターは、
「ほぼ日」でもすっかりおなじみ
アッキィことアートディレクターの
秋山具義さんが手がけたもの。
すくなからず、ご縁を感じる舞台です。

それでは、大宮エリーさんご自身に、
舞台のみどころなどをお話していただきましょう。

「5人の研修医の話なんです。
 なぜかわたし薬学部を出てたりするんで、
 いつかメディカルな作品をやりたいと思ってたんですよ。
 “お医者さんの権威”に興味があって、
 それをコメディにしたらおもしろいだろうなあ、と。
 『先生、わたし風邪なんですけど』
 『それを決めるのは私だ、勝手に診断しない』
 みたいに言われることありますよね(笑)。
 そういうのを、童話っぽく描きたかったんです。
 神でもなく人間でもないっていう中途半端な存在の
 5人の研修医がいて、神様を目指してるんですよ。
 だからタイトルは『GOD DOCTOR』。
 みんなでよってたかって、患者さんである人間を
「しあわせにする」治療を行うんです。
 みごと幸せにできれば、神様になれるんです。
 まあ、幸せって何なのか、逆に不幸って何なのよ、
 ということを問いかける舞台なんですけどね。
 えー、まあ、板尾創路さんが患者役をやります(笑)。
  一方わたしは、初めての作・演出ですからね‥‥
 まず稽古の流れとかからわかんないんですよ。
 これはヤバイと思って、
 現場を見ることで自信もてるかなと、
 ほかの演出家さんの稽古を見学しにいったんです。
 岩松了さんやG2さんの稽古場に。
 役者さんとかに驚かれましたけどね。
 他の演出家を見学にきた演出家なんていないって(笑)。
 
 いやもう、ほんと、ヤバイっすね。怖いっすよ。
 ぜひこの、怖い感じをみにきてもらいたい(笑)。
 はじめての演劇で、新国立劇場って!
 ちいさな劇場からやればいいのに! とかもね。
 出演者もそうそうたる顔ぶれじゃないですか。
 板尾さんとラーメンズ片桐仁さんの初共演とか、
 スクールウォーズコンビ再結成(笑)とか。
 石田ひかりさんは、もう『あすなろ白書』を
 思い出せないくらいの悪い女をやります。
 あと、遠山景織子さんもコメディエンヌとして
 振り切れるところまで振り切ってもらうとか。
 そして音楽は近田春夫さん!
 なんと11曲書き下ろしですぜ。働いてもらいますっ。
 色々チャンレジしてます。サービス業なんで、わたし。
 でもチャレンジしておきながら
 初めてなんで、本当は内心、びくびく。
 逃げたいです、正直。
 だからこの勇気だけはホメてもらいたいですよ(笑)。
 
 でもですね、タイトルの前に大きく
 “大宮エリー第一回公演”って書いてあるでしょ?
 演劇はずっとやっていこうという、
 ここに真面目な姿勢を表してるわけです。
 1回目は、やっちまったーってことになるかもしれない、
 っていうそんなスリルも含めてみにきてほしい!
 怖がりながらもやっちゃってるわたしの姿をみて、
 “おれだって何かできるかも!”とか、
 “家買っちゃうか!”とか“離婚しちゃおうか!”とか、
 そういう勇気を持って帰ってもらえると、
 うれしいなあと思っているんです」

‥‥これはいろんな意味で、
スリリングな舞台になりそうですね!
公演時間や料金は、東京公演と兵庫公演で異なりますので
詳しくはオフィシャルサイトでご確認ください。
チケット購入のご案内も、そちらで!

そしてそして、ついさきごろ、
3月14日には、初のエッセー集が出版されました。

『生きるコント』



大宮エリー
文藝春秋/1260円(税込)
2008年3月14日発売

こちらはもう、前置き抜きで、
大宮エリーさんにお話をうかがいましょう!

「よく人に“お前の人生自体がコントだ”
 といわれるもんで、
 そのまま『生きるコント』というタイトルで、
 週刊文春で連載をはじめたんです。
 それがめでたく書籍になったんですが、
 なんででしょうかねえ‥‥
 真面目に生きているつもりなんですけど、
 なんでか、身の回りで変なことが起きるんです。
 たとえば‥‥うちの事務所の下に、
 ピンクのポルシェが停まってたでしょ?
 あれわたしのなんですけど、わたし免許ないんですよ。
 もらったんですよ。
 ある日、撮影に行ったとき
 現場にピンクのポルシェが停まってたんです。
 “誰の車だろ”って思ってたら、
 男性のヘアメイクさんが、
 『エリーちゃん、送ってくよ』
 ピンクのポルシェに乗せられて高速道路走って、
 その間ずっと車の話ばっかりしてて、
 『俺さ、このポルシェ売るんだよ』とか言ってるんです。
 ふーん、って聞いてたら、
 『でもさ、俺みたいにこのピンクのポルシェが
  似合うやつってなかなかいないわけ』
 しまいには、
 『人が車を選ぶんじゃない、車が人を選ぶんだ』
 とか言い出すしまつで(笑)。
 もう、わたし、おかしくてゲラゲラ笑ってたら、
 『だからエリー、選ばれたんだ』
 ‥‥二度見しましたよ。あまりのことに。
 家まで送ってもらったら、
 ほんとにそのまま車を置いて帰ろうとするんです。
 免許ないからって断ったんですけど、
 『そんなの関係ねえ!』って。
 まだ、小島よしおがはやる前ですよ?!
 ‥‥ご覧いただいたように、ピンクのポルシェはいま、
 ネコのたまり場になっているわけです。
 近所から苦情はくるし‥‥
 ポルシェが汚いというのは、非常に残念なかんじです。
 
 そういう、わたしにとっては
 残念な話がいっぱい載ってる本なんです。
 人からみると、どうやらずいぶんおもしろいらしいので、
 どうかひとつ、よろしくお願いいたします」

エリーさん、たのしい取材をありがとうございました!
そして、取材の帰りにしっかり確認いたしました。
おっしゃるとおり‥‥
ピンクのポルシェは、ほんとうにありました。

「大宮エリー事務所」のHPは、こちらからどうぞ!

 
2008-03-18-TUE
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN