あのひとの本棚。
「ほぼ日」ではときどき糸井重里が「あの本が面白かった!」とか
「これ、読んどくといいよ」と、本のオススメをしていますが、
これを「ほぼ日」まわりの、本好きな人にも聞いてみようと思いました。
テーマはおまかせ。
ひとりのかたに、1日1冊、合計5冊の本を紹介していただきます。
ちょっと活字がほしいなあというとき、どうぞのぞいてみてください。
オススメしたがりの個性ゆたかな司書がいる
ミニ図書館みたいになったらいいなあと思います。
     
第20回 柴田理恵さんの本棚。
   
  テーマ 「ピンチはチャンスに変えられることに気づかされた5冊」  
ゲストの近況はこちら
 
何か悪いことがあったり、
たいへんなことがあっても人間という生き物は
それをうまく変えていける能力があると思っています。
1度や2度の過ちなんてものは
生きてさえいれば取り戻せるんです。
ピンチはチャンスに変えられることに
気づかされた5冊の本をご紹介いたします。
   
 
 

『錦繡』
宮本輝

 

『流星ワゴン』
重松清

 

『悪女について』
有吉佐和子

         
           
 
   
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  『悪女について』 有吉佐和子 新潮社/740円(税込)
 
もっとしたたかに生きていくためのバイブルですね。
この本はちょっと変わっていて、
富小路公子という女性が死んだところから始まります。
で、彼女と関係のあった人たちの
証言だけで構成されているんです。
そうすると、ひとりの人間ってひとつの環境で
ずっと生きていくのがふつうなんでしょうけど、
この富小路公子は、「もうここマズい」と思ったら
ぜんぜん違うところに行くんですよ。
だから関係者が彼女に抱いていた印象は
その人その人でまったく異なっているんです。

読み終えて、私は
「この人は悪女じゃないな」って思いましたね。
「これこそ人間なのかもしれない」って。
多少他人にどう思われようが、
一生懸命生きていこうとしただけだと思うんです。
人からどう思われようが、
したたかに生きた女の見本ですよ。



最初に読んだときなんかは
「悪い女おもしれぇ~」っていう気持ちで読んでたんです。
何年か前に読んでみたら
「あ、これ、前に読んだときと違う」と思えて。
この女性像が、いまの時代にマッチしてきてるんですね。
昔の日本だったらば、
「この女は恐ろしいな、
 当時の現代にはこういう恐ろしい多面性を持っていても、
 そういうのが世の中かも」っていうような話だったけど、
今だったらこれでいいんだと思うんですよ。
こんなに自分が行き場がなくなって、
死ぬ人も多い時代にね、
やっぱり死ぬよかこっちのほうがいいんですよ(笑)。
この人だったら死のうと思わないもん。
前回紹介した「流星ワゴン」の主人公は
最初に死のうとするんだけど、
思い詰めたりせずに適当にこなしていれば
そうは思わないようになるはずなんですよ。
だから真面目すぎるのもどうかと思うんです、
世の中ってね。

   
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  『流星ワゴン』 重松清 講談社/730円(税込)
 
重松清さんの作品って家族の問題を扱うじゃないですか。
その問題がものすごく救いようがないんですよ。
この人が描く世界は本当に嫌になるくらいです(笑)。
「錦繡」とは打って変わってドラマで絶対観たくない。
背を向けたくなるようなことがいっぱいあって、
あまりにも現実的なんです。



完璧に崩壊している家族の夫が主人公で、
奥さんは出会い系サイトで知り合った男と
ただセックスだけをして快楽を貪っている。
さらに子どもは中学受験に失敗しちゃってから
どんどん道を踏み外していく。
もう死のうと思ったところで、
ワゴンに乗った父と子の霊が現れて、
自分が戻りたい時間に戻してくれるっていうお話なんです。
もしかしてあそこで運命変えられるかもしれない
っていう状況のところに連れて行かれるんですよ。
最初のうちは「俺はそういう男なんだ」というような感じで
自分という存在を自覚していくだけなんだけど、
そのうちに女房が出会い系サイトで知り合った
どうでもいい男とホテルに入っていく瞬間を見るとか、
どんどん深いところに入っていくんです。
ただ、「ここで引き留めればいいのか」と思うんですが、
過去は変えられないし未来も変えられない。
一見SFっぽいんですが、タイムマシーンものの
あぁいったおもしろさとはまた別のものなんです。
普通のSFだったら変えられるんですよ。
でもこの作品は、
「そこから変えていこうなんていう、
 そんな単純じゃないぞ、今の世の中は」って思わすんです。



宮本輝さんの作品だと、
まず大きな問題があって、そこにまみれて
その中から小さい希望を見つけ出すんですけど、
この作品だと奥さんの問題、子どもの問題、仕事の問題、
親との問題などの小さな悪いことが
幾層にも積み重なっている状態なんです。
実はこっちのほうが複雑な問題だし、現代的だから
解決のしようがない状況におちいっている。
どうするかっていうと、1枚1枚薄皮を剥いでいくみたいに
問題と正面から向き合うんです。
だから、起きてしまったことは仕方がないと思いながら、
新しく前を向いて歩き出すしかないんですよ。
前だけ向いて、薄皮1枚1枚をこれからもっと
剥いでいかなきゃいけない状況なんです。
けっきょく最後は薄皮1枚剥いたところで終わるんですよ。

読んでいる最中はもう腹が立って、腹が立って
もうずっとイライラし続けてたんです(笑)。
女房に対しても子どもに対しても。
この主人公に対してもイライラのしっぱなしでした。
で、最後の最後を読んだら「ヴヮーン」って号泣(笑)。



嫌だと思いながらも読者をそこまで引っ張っていく
重松さんの筆力の賜物なんでしょうね。
   
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  『錦?』 宮本輝 新潮社/460円(税込)
 
私、宮本輝さんの本は全体的に好きなんです。
すごいドラマチックで筋がおもしろい本って
いっぱいあるんだけど、
「これでいいんだ。こういうことでいいんだ」と
思える作品ってなかなかないと思うんです。
その点、この方はすごく冷静に人の不幸を見てるけど、
物語の中に必ず1点光を置くんですよ。



そもそも宮本輝さんの主人公って、
愛欲にまみれちゃうんですよ。
ちゃんとした身分があったり、
会社の地位とか才能があるにも関わらず
女にガバーっとのめり込んだり、男と逃げちゃったりとか。
人間ってダメな部分に対して
強い憧れを抱くことも多いじゃないですか。
今やってるこの仕事も楽しい、
こういう環境も素晴らしいことだってわかりきってても、
そうじゃない、違う泥沼に足突っ込みたいっていうのが、
人間の持ってる欲望で、
その両方をやっちゃうんですよ、必ず。
やっちゃって、とんでもない目に遭う(笑)。
とんでもない目に遭うんだけど、そこからなんですよ。
そこからこの主人公は初めて考えるんです。

この方の作品で多いのが、上下巻に分かれてる場合だと、
たいてい上巻で主人公は
人生の荒波に翻弄されてしまいます。
それこそ最後のほうでは、
絶望の淵に追いやられるような展開になってしまう。
で、これ以上どうなってしまうんだろう? という状況から
下巻が始まって、最後、必ず希望で終わるんですよ。
本当にどうしようもないメチャクチャな状況のなかで
望みを持って生きていこうと思える終わりかたなんです。
そこが本当にすごく好きなんですよ。



そういうどろどろの人生の中から
輝くひと粒の希望をつかみ取るんです。
かつてはダイヤモンドの指輪とか、
大きい金の延べ棒を持ってた人なんだけど、
そっちよりも、小さいひと粒の金のような希望のほうが
価値があることに気づくわけです。
背表紙に書いてある「愛と再生のロマン」という言葉が
もうまさにピッタリですね。
きれいな女優さんと干からびたいい男で
ドラマにしてほしいくらいですよ(笑)。

 
柴田理恵さんの近況
WAHAHA本舗の設立者であり、
テレビのバラエティ番組やドラマ、CMなどでも
ご活躍中の柴田理恵さん。

もちろん舞台女優としても精力的に活動されております。
柴田さん扮する女探偵を主人公にした
「伴内多羅子シリーズ」の第4弾
「ずっこけ一座の花道」が近々公演開始だとか。

こ、これはなんともすごい味のあるポスターですね。
柴田さん、今回の舞台はどういう内容なんですか?



「自殺を引き止めることを専門にやってる探偵なんですね。
 お母さんが家族全員で自殺しようとしてるのを止めたり、
 『この中に誰か自殺をしたい人がいる。
  誰だか分かるかね?』っていう、挑戦の文句が来たり。
 それから、次は、自殺サイトっていうのに集まってきて、
 『集団で自殺させてあげます』と。
 で、『このカラオケボックスに集まれ』って言われて、
 『さあ、皆さん、どうせ死ぬんですから、自殺する前に、
  人生で最後に歌いたい歌を歌ってください』って。
 とにかく毎回自殺を止めてきまして、
 今回は風前の灯にある、たった2人しか残ってない
 一座の副座長が依頼人なんです。
 『どうも、座長が自殺をしたがってるようだ』と。
 それで依頼を受けるわけです。

 いつもね、自殺を止めているわけですけど、
 その止められた人たちは、私に恩があるわけです。
 命救ってもらったんだからって言って、
 仲間にされちゃうんですよ、強引に(笑)。
 今まで救ってきたみんなが、強引に仲間にされて、
 この一座に座員として入り込んで、
 『さあ、引き止めることができるでしょうか』
 というお話です」

なるほど。
どんどん仲間が増えていくシステムですね。
このポスターの中にみなさん描かれているわけですが
ひときわ大きいこの方が今回のカギとなる
座長さんなんですよね?

「そうです。
 今回山本リンダさんが大衆演劇の一座の座長で、
 副座長が坂本あきらさん。
 東京ヴォードビルショーの私の大先輩です。
 この方とか佐藤B作さんに憧れて、私も久本(雅美)も、
 東京ヴォードビルショーに入ったくらいです。
 その大先輩をお迎えしての公演です。



 実はこれ、お芝居自体がミステリーにもなっているので、
 『本当に依頼したのはこの人?』とか
 『本当に死にたいのはこの人?』といった
 謎が浮かんでは消え、また浮かぶという内容なんです。
 で、こう、いろいろ複雑なものが出てくるんですが、
 そこは実際に観に来てのお楽しみですね。
 あ、そうそう、
 お客さんも重要な意味を持っていますからね。
 ただ見に来る存在じゃないですよ。
 前は、犯人を当てる役になってもらったこともあったり
 アンケートを採ったりしたこともあるんですよ。
 お客さんも大事な登場人物なんです」

お客さんも登場人物なんですか!?
いろいろなアイデアで楽しませてくれますねぇ。
大衆演劇という設定にも注目しておきましょうね。
それにしても柴田さん、
自殺を止める探偵ってすごい役ですよね。

「私はこの芝居を
 『元気とか面白くとか、
  そうやってれば自殺は止められるわよ』なんて
 そんな単純には思ってません。
 でも、せめてね、こういうことで
 止められたらいいのになとは思います。
 人生とか人間の生きかたなんて、歩いてればさ、
 壁にぶつかって行き場がなくなるじゃないですか。
 3方囲まれて、どこにも行き場がなくなるわけですよ。
 だけど俯瞰の目を持ったとたんに、
 『あれ? ここに別の抜け道があるじゃん』とか、
 『この壁ってこんなに低かったんだ
  飛び越えればいいんだ』とかね、
 絶対俯瞰の目って必要なんですよ。
 そもそも『引き戻ればいいじゃん』とかね。
 この伴内多羅子シリーズは、
 『そういうふうに生きてみたらどうでしょうかね』的な
 提案なんですよね」


柴田さん、ありがとうござました。
伴内多羅子シリーズ第4弾「ずっこけ一座の花道」は
以下の公演スケジュールとなっております。

■東京 新宿シアターサンモール 

11月19日(水)19時開演
11月20日(木)19時開演
11月21日(金)19時開演
11月22日(土)14時開演、19時開演
11月23日(日)14時開演
11月24日(月)14時開演

■焼津 焼津市文化センター・大ホール

11月30日(日)18時開演

■愛知 中京大学文化市民会館プルニエホール

12月4日(木)18時半開演 

■富山 富山県教育文化会館

12月13日(土)18時開演 
12月14日(日)16時開演

チケットは全席指定で、
前売り5500円、当日6300円で絶賛発売中です。
詳細はWAHAHA本舗のホームページの
「ステージ情報」をご覧くださいね。

さらに、柴田さんはブログも持っていらっしゃいます。
舞台の稽古の様子なども更新されているようなので
そちらもチェックしてみてくださいませ。
柴田理恵オフィシャルブログ
「人生劇場」

 

2008-11-05-WED

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