あのひとの本棚。
「ほぼ日」ではときどき糸井重里が「あの本が面白かった!」とか
「これ、読んどくといいよ」と、本のオススメをしていますが、
これを「ほぼ日」まわりの、本好きな人にも聞いてみようと思いました。
テーマはおまかせ。
ひとりのかたに、1日1冊、合計5冊の本を紹介していただきます。
ちょっと活字がほしいなあというとき、どうぞのぞいてみてください。
オススメしたがりの個性ゆたかな司書がいる
ミニ図書館みたいになったらいいなあと思います。
     
第30回 三木聡さんの本棚。
   
  テーマ 「無責任な5冊」  
ゲストの近況はこちら
 
今回撮影した映画『インスタント沼』では、
役者のみなさんに演じてもらいつつ、
役に対しての無責任さを求めたんですね。
そういった、どこか自分のことに対して無責任になれる
ある種の無欲さみたいなものって
人生において必要なんじゃないかって思うんです。
というわけで、無責任さを感じられる5冊を選びました。
   
 
 

『ラスベガス★71』
ハンター・S・
トンプソン

                 
           
 
   
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この人は、最近はわりとよく見かけるようになった
「ゴンゾー・ジャーナリズム」、
わりとヤバめな世界に潜入していって
自分で体験したレポートを書く、というものの
先駆け的存在です。
'70年代の初頭にオートバイレースの取材という名目で
ラスベガスを訪れるわけですが、実際はレースそっちのけで
自分たちがやりたい放題にやった体験記なんですよ。
ドラッグをキメまくって、
ホテルをめちゃくちゃにするとか(笑)。



この作品以前に、カルロス・カスタネダという民俗学者が
ペヨーテというサボテンの一種から摂取できる
幻覚剤メスカリンの体験記を書いていまして。
ヒッピームーブメントにおけるバイブル的な1冊なんです。
そういった意味でも、ゴンゾー・ジャーナリズムには
ヒッピーイズムからの流れがあるのは確かだと思います。

でも、こういった人って、
ドラッグの摂取だったりホテルをめちゃくちゃにしたりと
社会に対しての責任をあまり‥‥とってないですよね?
別に薬物の摂取を肯定するとかいうわけではないんだけど、
この本を読んでいると、
社会に対して従属しなくちゃいけない、ということが
そんなに大事なのか、と感じさせられます。
「人生の目的を持ちなさい」とかよく言うけど、
真理を突き詰めていくと、そんなものないんですよ。
まぁ、唯一あるとすれば、
生物として「子孫を残す」なんでしょうけど。

この本のなかでは、すべてが「無駄」なことばかりで、
社会的にやらなくてはいけないことなんか
一切やってないわけです。
でも、それが人間なんですよね。
無駄な動きのほうが、人間性が出るみたいなところ
あるわけじゃないですか。
薬物がもたらす害とか、反社会的な行為とか、
「悪」と呼ばれる部分はあるでしょうけど、
それを除いても、この「自由さ」は読んでてうれしい。
スカっとしますよ。

あ、そうそう。
この作品はテリー・ギリアムが
原題が『Fear and Loathing in Las Vegas』、
邦題が『ラスベガスをやっつけろ』という
タイトルで映画化してます。
似たタイトルで『ラスベガスをぶっつぶせ』という
作品がありますが、こちらではないのでご注意を。

 

テレビのバラエティ番組を手がけたのち、
ドラマ『時効警察』、さらには映画『イン・ザ・プール』、
『亀は意外と速く泳ぐ』、『図鑑に載ってない虫』などの
監督を手がけた三木聡さん。
その最新作である『インスタント沼』が
5月23日土曜日から、テアトル新宿、渋谷HUMAXシネマほか
全国で公開となります。
主演は『時効警察』でお馴染み麻生久美子さん。
さらに風間杜夫さん、加瀬亮さんなど
個性豊かな面々が脇を固めます。
麻生さんのキュートさはもちろんのこと、
風間さん、加瀬さんが演じる役が、これまたスゴイんです。




(C)2009「インスタント沼」フィルムパートナーズ

脚本・監督:三木聡
出演:麻生久美子 風間杜夫 加瀬亮 松坂慶子
   相田翔子 笹野高史 ふせえり 白石美帆

仕事も恋愛もうまくいかなくなった
麻生さん演じるジリ貧OLの沈丁花ハナメが
不思議な沼を通じて、幸せになっていく
とっても奇妙でとってもおかしな映画です。
「え? 沼?」とお思いでしょうが、
物語のカギを握るのは間違いなく「沼」なんです。
三木さん、こんな不思議な映画のアイデアは
いったいどこから出てきたんですか?

「いまはもう移転しちゃったんですが、
 昔、テレビ朝日って材木町という場所にあったんです。
 その近くにニッカ池と呼ばれる池がありまして、
 バラエティ番組でその池を移動する、
 という企画を考えたんですね。
 『池を乾かして泥にしたのち、
  運んでまた水を入れる』方法でいけるんじゃないかと。
 そのアイデアが根底にありましたね」。

‥‥すごいところから企画が始まったんですね。
そんな内容をすごくすばらしいキャストの面々が
演じられていますよね。

「今回の現場は、
 あらかじめイメージを固めてきて、そのとおりに演じる、
 というわけじゃなく、その場で起こったことに
 いちいち反応しながら演じるような
 フレキシブルさが求められたんです。
 そういうことをキチンとやりきれる女優さんって
 そんなにいっぱいはいらっしゃらない。
 そして、ある程度の年齢、ならびに演技力の高さも必要。
 そういういろいろな要素を考えると
 主演は麻生くん以外考えられなくて。
 ラッシュ(荒い編集を施した状態)を見終わったときに
 『あぁ、やっぱり沈丁花ハナメは
  麻生くんにしかできないな』って思いました。

 役者だって人間だから、表現欲が前面に
 ググッと現れることだってあるんでしょうけど、
 表現してないような顔で演じることが必要なときもある。
 まさに、そのときというのが、
 こういうよくわからない喜劇を演じるときで、
 芝居に対して無責任になれる無欲さが必要なんです。
 彼女はそれをやってくれたんですね。
 すごく大変だったと思いますよ。

 加瀬さんは、あれだけフラットな立ちかたを
 無防備な状態でできる役者さんも希有ですよね。
 ハナメのハイテンションな感情に対して
 何も考えていないような顔をして、
 客観的な位置に居続けるという立場なんです。
 もともとはなんのハナメと関係のない人物ですからね。
 あんなすごいパンクスの格好をしている人物が、
 たまたま、居ちゃっただけですから。



 でもね、『俺、ただ居るだけじゃないか』っていうことに
 フラストレーションを感じる役者さんもいるんです。
 僕はただ居ることに徹せられるのも
 役者の技術とセンスが大きく関わってくると思ってて、
 その点で、加瀬さんはバツグンでした。
 ぜんぜん、平気なんですよ。
 それこそビックリするくらい平気でしたね。

 それとみなさんが衝撃的だと感じられる
 ハナメの実の父親かもしれない男
 「電球」役の風間杜夫さん。 



 基本的に、この映画は、
 電球の意味のない高めのテンションにハナメが
 変な高揚感を覚えていくっていう映画なんですけど、
 無理矢理なテンションからの高揚感を表現できるのって
 多分、日本ではこの人しかいないと思ってます。
 つかこうへいさんの『蒲田行進曲』のときから
 そういう高いテンションのイメージはあったんですね。
 で、風間さんのいまのお芝居ってどんな感じ? と思って
 まずは舞台を観させていただいたんです。
 やっぱりね、体のキレと
 セリフのテンションがバツグンなんですよ。
 それでぜひお願いしたいと思いました。
 
 スゴイ髪型もこのために剃っていただきました。
 名誉のために言っておきますが、
 風間さん、ちゃんと髪の毛ありますからね(笑)。
 
 そういう役者のみなさんのお芝居のおもしろさ、
 並びに最後の仕掛けのバカバカしさを
 存分に楽しんでいただいて、
 見終わって映画館を出るときに
 『まぁ、とりあえず大抵のことはなんとかなるな』
 というようなことを思っていただければ本望ですね。
 


 今の世の中、いろいろなことを
 深刻に考えすぎなんじゃないかって思うんです。
 不況だとか、仕事がないとかっていう話をしてるけど、
 仕事がないほうがいいこともあるわけです。
 社会の構造というか仕組みが
 何か物を買わなくちゃいけないという
 システムによって成り立っているから
 どうしてもそういうことを言いがちですが、
 人生ってそれだけではないと思うんですよね」。

三木さん、楽しいお話をありがとうございました。
果たして最後のバカバカしい仕掛けとは何なのか?
それはぜひ、映画館に足を運んで、
あなたの目で確認してみてくださいね。

 

2009-05-18-MON

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