おめでとうのいちねんせい 再販記念企画  のんびりした神様に。 日比野克彦+糸井重里
第9回 どこにでも美術はある。
糸井 きっと、日比野くんは
よっぽど悔しい時期が
あったんじゃないでしょうか。
日比野 それこそ、
美術がどういう役割を
社会の中で担っていくの? みたいな
大きな話を、考えた時期があったわけです。
糸井 うんうん。
日比野 そうやって考えていくと、
美術って、もっともっと
いろんな世の中のいろんなところに
必ずくっついてるんですよ。
くっついてなきゃいけないと思うんです。
糸井 うん。
日比野 スポーツにも
今日のおかあさんの夕飯の盛りつけにも
アーティスティックなものが
くっついていると僕は思います。
芸術って、急に
明治以降の南蛮渡来な感じで来たから、
学問的なものから入ってしまったけど、
まったくそんなことはない。
そういうことを言えるようになりたいと
自分では思っているんです。
みんなが「ほんと、そうだね」って、
地に足着いて言えるように、
社会の中に美術が機能しててあたりまえ、
というようにしたいんです。
美術が日常生活になるような、
いろんな提案や仕掛けを、
‥‥きっと本来そうあるべきだったんだと
思うんだけど、
どんどんやっていきたいんです。
旗つくって、サッカー応援しよう
みたいなこともそうだし、
僕はそんなことを次々にやっている、
そんな感じがします。
糸井 それは、考えてみると、
価値ということと関係のない
アートなんでしょうね。

日比野 うーん。うん、そうかもしれない。
糸井 日比野くんの作品は
アートマーケットにのっかってないんだし、
素人が集まってつくっていくものは
純粋な「日比野」という名前がつかないから、
取引はされないでしょう。
社会の中のどこにでも
美術がくっつくということは、
「価値ってなぁに?」という
問いかけでもあるよね。
日比野 そうですね。
ダンボールではじめた時点で
黄金に対する抵抗ですからね。
糸井 うん、そうだ。
日比野 ダンボールは、
時間に対しても物質としても
永遠不滅である黄金とは
対照的な存在です。
ダンボールは、どちらかといえば
黄金を守ってあげて
「わたしは犠牲になるから、
 あなたは生き延びて」
というもんですよね(笑)。
糸井 そうだね。
日比野 実は、どんどん朽ちていく運命の
ダンボールというものを
作品にしていくのは、本当は
「作品」としては致命的なことなのかも
しれないんです。
美術館でコレクションをされるかされないか、
判断されるときには、必ず
コレクション委員会のようなものがあって、
「ダンボールって100年もつのか?」
みたいな話になるわけですよ。
つまり、保存修復の問題で。

糸井 ああ。そうなのか。
日比野 まあ、これはオレが考えることじゃ
ないんですけど、
もしほんとに保存したい人がいたら、
ダンボールだって、いまの技術を持ってすれば
保存修復なんていくらでもできるんです。
だけど、なんだか方向性として、
美術の価値っていうのは、
時間を止めようというほうに向かって
ここまで来た歴史があります。
油絵の具を開発したのも、
フレスコ画が、長い時間を経ても
色あせないようにしようとしたからだし、
ほとんど全ての画材がそういう要望から
生まれてきています。
糸井 それは、価値中心の考え方だよね。
だけど、CDで保存されている歌も、
車に乗ってるときに、
友だちが助手席で歌ってくれる
消えていく歌も、
歌としてはおんなじだから。
日比野 うん。
糸井 そこまでのことを
みんなほんとはわかってるんですよ。
価値のおかげで商売ができるんだけど、
そうじゃないところで、みんなが
実はたのしんでる。
それを、おんなじ平面に
無理にでも2つ、置きたいです。
日比野 うん。価値を交換しようと思うときに、
お金じゃない混ざり方が
できてる気がするんですよね。
糸井 僕のやっているのはインターネットで、
基本的に、読者はタダです。
日比野 うん。
糸井 だけど「いやぁ、たまには金払わなくちゃ」
「何で払おうかな」という人が
物を買ったっていいと思う。
そんな感じの人も
いてくれるんじゃないかな、と思うんです。
日比野くんの展覧会だって、大きく見れば、
市が援助してたりすることだってあるでしょう。
場所に対して、そこの地域の人たちが
税金を払ってるんです。
みんなが無意識で、日比野くんの展覧会を
応援してるということにもなる。
そういう複雑な
価値の交わりがたのしいんですね。

日比野 愛知県の一宮市が
ある予算をどういうふうに分配するかで
出してたアイディアがあります。
ひとり658円の支援額を、
自分で決められる制度があるらしいんです。
市民が選ぶ 市民活動支援制度
10票もらったら、
6000円くらいがもらえるんです。
そういう予算のかけかたも、
この考えと似たようなところがあって、
いいなぁと思って。
糸井 それはおもしろいね。
うん、そのあたりに芸術の原点や
役割が隠れてるような気がするなぁ。
誰かの口ずさんだ歌で、
赤ん坊寝たり、
たのしい気持ちになったり。
日比野 動きが変わったりね。
糸井 日比野くん、これからもちょくちょく
いまこんなことやってるよ、って
「ほぼ日」に教えてください。
日比野 はい、ぜひ。
また、よろしくお願いします。
糸井 今日はありがとうございました。

(おしまい)


2009-02-18-WED





(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN