こんにちは。はじめまして。糸井です。 来日でさまざまな取材を受けていらっしゃると お聞きしているのですが、 ぼくは今日、きっと、 子供のような質問をしてしまうと思います。 ほかの取材のあいまの 休み時間のようになるかもしれません。 |
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それもいいですね。 |
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ありがとうございます。 今日はよろしくお願いします。 |
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よろしくお願いします。 |
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こんな話題からはじめさせてください。 ぼくは、ダイアモンドさんの本を読むたびに、 毎回ダイアモンドさんご自身の テーマに対する強い好奇心を感じるんです。 そこから思うのが、 おそらくダイアモンドさんは 「好奇心」を一番の原動力にして 本をお書きなのではないかと。 なんだか「自分の心が動かないテーマ」には まったく触れていない印象があるんです。 |
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とてもいい質問から はじめてくださったと思います。 はい、そのとおりです。 私は自分の興味や好奇心から ひとつひとつの本を書いています。 興味のないテーマは、ひとつも扱っていません。 本を出すと多くの方々から 「どうしてこの本を書いたのですか?」とか 「なぜ今、このテーマなんですか?」 といったことを、かならず聞かれます。 ですが、私にとっては、 それぞれの本を書いている何よりの動機は 自分の中から出てきた興味や、好奇心なんです。 今回の本(『昨日までの世界』)を書いた理由も、 「前の本を書きあげたあと、 いちばん興味を持ったテーマが これだったから」 という説明が、私としてはいちばんしっくりきます。 興味のもてないテーマを、 何かほかの理由で本にすることは、していません。 |
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やはりそうですか。 |
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はい。そして実のところ私は、 いつも本を書きはじめるときに 最終的に本がたどりつく先を知らないんです。 「これは面白い問いになりそうだ」 「だいたい答えはこうなるかな」 というイメージは持って書きはじめます。 ですが、研究をすすめるうちに、 たいがい想像していた答えとは 違う方向に本が進んでいくのです。 |
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なるほど。 |
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たとえば『文明崩壊』という本は 「歴史から消える文明には、 共通する原因があるのではないか」 という興味から生まれた本なのですが、 最初は私、 「原因は『環境破壊』ではないか」 という仮説のもとに書いていたんですね。 でも、書きはじめるとすぐ、 それだけではないということがわかりました。 たとえば 「その文明の体制に問題があった」とか 「リスクへの向きあい方が悪かった」など、 環境の変化以外にも、 いくつも関係している要素が見つかりました。 |
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はい、はい。 |
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そして、最終的には ひとつの文明が崩壊するとき、 「環境破壊」 「気候の変動」 「近隣の敵対集団」 「近隣の友好集団からの支援減少」 「その社会の持つ問題対処能力」 のどれか、 もしくは複数が関係している、 という結論にたどりついたんです。 |
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そうしたことを、 本を書きながら見つけていくんですね。 |
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そうなんです。 ふと思ったことですが、私の本の書き方はもしかしたら、 バードウォッチングと似ているかもしれません。 バードウォッチングでは 出かける前に、どんな鳥が見られるかわかりません。 そして「ここは面白そうな鳥がいそうだな」とか、 「こんな鳥が見えるかもしれないな」という 予測をもって、森や山を訪れます。 事前に準備はしますが、いざその場所に足を運んだら、 起こる流れに身を任せます。 予想どおりの鳥を見つけて喜ぶこともあれば、 予想もしなかった魅力的な鳥に出会えることも、ある。 私はそんなふうに本を書いていると思います。 |
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なんだか、昆虫や鳥を追いかける 子供たちのやりかたのようですね。 |
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まさにそのとおりだと思います。 というのも実際に私は子供のころ、 鳥や虫を観察するのが大好きだったんです。 そして見たものをリストにし、 同時に、浮かんださまざまな疑問について、 「この理由はこうじゃないか」なんて、 自分で説明を考える習慣がありました。 加えてもうひとつ。 私には1歳半下の妹がいるのですが、 子供のころの私は、 自分が考えた説明を妹に伝えることを いつも楽しんでいたんです。 もしかしたら私は、子供時代の私が 昆虫や鳥を見て、説明を考え、 妹に説明する行為を楽しんでいた延長で 今、研究をし、本を書いているのかもしれません。 |
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ええ、ええ。 ぼくにはもうひとつ、ダイアモンドさんの本を読んでいて よく感じることがあります。 ダイアモンドさんとぼくは、 まったく違う人間だと思うのですが、 本を読んでいると、ダイアモンドさんの興味の持ち方が、 自分ととてもよく似ているように感じるんです。 たとえば、 ダイアモンドさんが本を出されてきた 「チンパンジーと人間はどこから違う?」とか、 「どうして人はセックスが好きなんだろう?」 といった疑問って、ぼくも考えたことがあり、 今でもよく考えたりするようなことです。 そして本を読みながら、 「あ、これは自分も興味はあったけれど、 考えるのをやめていたことだった」 と気づくんです。 |
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なるほど。 ただ、それについては実は、 私があつかう疑問がとくに珍しいものではない、 というのが理由かもしれません。 というのが、私が本で追求している問いというのは、 人々が──それこそ子供たちなども、 ごくごく普通にいだく疑問のような気がするんですよ。 |
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あ、なるほど。 |
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たとえば『銃・病原菌・鉄』という本のテーマは 「どうしてヨーロッパ人種が 世界を征服するにいたったのか?」です。 難しいテーマに聞こえるかもしれませんけど、 実はこの疑問というのは、 いろんな人種の住んでいるアメリカで暮らしていると、 ごくごく自然にわき起こってくるものなんです。 |
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はい、はい。 |
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‥‥ただ、私たちは大抵そうした問いについて、 疑問に思うだけで、 考えるのをやめてしまうことが多いんです。 なぜかというと「納得いく答え」が見つからないから。 |
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たしかに、 「答えが見つからない」という理由で、 考えをやめてしまうことって、ありますね。 |
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そうなんです。 その『銃・病原菌・鉄』という本の問いでいえば、 私が考え続けるきっかけになったのは、 ひとりのニューギニア人から問いかけられた こんな質問です。 「あなたがた白人は 我々のもとに多くの文化を 持ち込んだけれど、 あなたがたに我々の文化は ほとんどもたらされていない。 それは、なぜなんだ?」 ‥‥聞かれたとき私は、答えられませんでした。 そして、そのことがきっかけとなって 私は本を書いたんです。 |
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ええ、ええ。 | |
(つづきます。) |