【目次】
第1回 すべての原点は、好奇心。
第2回 アメリカから来ました。鳥の研究者です。
第3回 「いまいる自分」から自由になるために。
第4回 価値観は変わる。また、変えることができる。
第5回 「対立」が起きたとき、私たちは。
第6回 いつ生まれたの? どこで生まれたの?

第1回 すべての原点は、好奇心。
糸井 こんにちは。はじめまして。糸井です。
来日でさまざまな取材を受けていらっしゃると
お聞きしているのですが、
ぼくは今日、きっと、
子供のような質問をしてしまうと思います。
ほかの取材のあいまの
休み時間のようになるかもしれません。

ダイアモンド それもいいですね。
糸井 ありがとうございます。
今日はよろしくお願いします。

ダイアモンド よろしくお願いします。
糸井 こんな話題からはじめさせてください。
ぼくは、ダイアモンドさんの本を読むたびに、
毎回ダイアモンドさんご自身の
テーマに対する強い好奇心を感じるんです。
そこから思うのが、
おそらくダイアモンドさんは
「好奇心」を一番の原動力にして
本をお書きなのではないかと。
なんだか「自分の心が動かないテーマ」には
まったく触れていない印象があるんです。

ダイアモンド とてもいい質問から
はじめてくださったと思います。
はい、そのとおりです。
私は自分の興味や好奇心から
ひとつひとつの本を書いています。
興味のないテーマは、ひとつも扱っていません。

本を出すと多くの方々から
「どうしてこの本を書いたのですか?」とか
「なぜ今、このテーマなんですか?」
といったことを、かならず聞かれます。
ですが、私にとっては、
それぞれの本を書いている何よりの動機は
自分の中から出てきた興味や、好奇心なんです。
今回の本(『昨日までの世界』)を書いた理由も、
「前の本を書きあげたあと、
 いちばん興味を持ったテーマが
 これだったから」
という説明が、私としてはいちばんしっくりきます。
興味のもてないテーマを、
何かほかの理由で本にすることは、していません。
糸井 やはりそうですか。
ダイアモンド はい。そして実のところ私は、
いつも本を書きはじめるときに
最終的に本がたどりつく先を知らないんです。
「これは面白い問いになりそうだ」
「だいたい答えはこうなるかな」
というイメージは持って書きはじめます。
ですが、研究をすすめるうちに、
たいがい想像していた答えとは
違う方向に本が進んでいくのです。
糸井 なるほど。
ダイアモンド たとえば『文明崩壊』という本は
「歴史から消える文明には、
 共通する原因があるのではないか」
という興味から生まれた本なのですが、
最初は私、
「原因は『環境破壊』ではないか」
という仮説のもとに書いていたんですね。
でも、書きはじめるとすぐ、
それだけではないということがわかりました。
たとえば
「その文明の体制に問題があった」とか
「リスクへの向きあい方が悪かった」など、
環境の変化以外にも、
いくつも関係している要素が見つかりました。
糸井 はい、はい。
ダイアモンド そして、最終的には
ひとつの文明が崩壊するとき、
「環境破壊」
「気候の変動」
「近隣の敵対集団」
「近隣の友好集団からの支援減少」
「その社会の持つ問題対処能力」
のどれか、
もしくは複数が関係している、
という結論にたどりついたんです。
糸井 そうしたことを、
本を書きながら見つけていくんですね。

ダイアモンド そうなんです。
ふと思ったことですが、私の本の書き方はもしかしたら、
バードウォッチングと似ているかもしれません。
バードウォッチングでは
出かける前に、どんな鳥が見られるかわかりません。
そして「ここは面白そうな鳥がいそうだな」とか、
「こんな鳥が見えるかもしれないな」という
予測をもって、森や山を訪れます。
事前に準備はしますが、いざその場所に足を運んだら、
起こる流れに身を任せます。
予想どおりの鳥を見つけて喜ぶこともあれば、
予想もしなかった魅力的な鳥に出会えることも、ある。
私はそんなふうに本を書いていると思います。
糸井 なんだか、昆虫や鳥を追いかける
子供たちのやりかたのようですね。

ダイアモンド まさにそのとおりだと思います。
というのも実際に私は子供のころ、
鳥や虫を観察するのが大好きだったんです。
そして見たものをリストにし、
同時に、浮かんださまざまな疑問について、
「この理由はこうじゃないか」なんて、
自分で説明を考える習慣がありました。

加えてもうひとつ。
私には1歳半下の妹がいるのですが、
子供のころの私は、
自分が考えた説明を妹に伝えることを
いつも楽しんでいたんです。

もしかしたら私は、子供時代の私が
昆虫や鳥を見て、説明を考え、
妹に説明する行為を楽しんでいた延長で
今、研究をし、本を書いているのかもしれません。
糸井 ええ、ええ。
ぼくにはもうひとつ、ダイアモンドさんの本を読んでいて
よく感じることがあります。
ダイアモンドさんとぼくは、
まったく違う人間だと思うのですが、
本を読んでいると、ダイアモンドさんの興味の持ち方が、
自分ととてもよく似ているように感じるんです。

たとえば、
ダイアモンドさんが本を出されてきた
「チンパンジーと人間はどこから違う?」とか、
「どうして人はセックスが好きなんだろう?」
といった疑問って、ぼくも考えたことがあり、
今でもよく考えたりするようなことです。
そして本を読みながら、
「あ、これは自分も興味はあったけれど、
 考えるのをやめていたことだった」
と気づくんです。
ダイアモンド なるほど。
ただ、それについては実は、
私があつかう疑問がとくに珍しいものではない、
というのが理由かもしれません。
というのが、私が本で追求している問いというのは、
人々が──それこそ子供たちなども、
ごくごく普通にいだく疑問のような気がするんですよ。
糸井 あ、なるほど。
ダイアモンド たとえば『銃・病原菌・鉄』という本のテーマは
「どうしてヨーロッパ人種が
 世界を征服するにいたったのか?」です。
難しいテーマに聞こえるかもしれませんけど、
実はこの疑問というのは、
いろんな人種の住んでいるアメリカで暮らしていると、
ごくごく自然にわき起こってくるものなんです。
糸井 はい、はい。
ダイアモンド ‥‥ただ、私たちは大抵そうした問いについて、
疑問に思うだけで、
考えるのをやめてしまうことが多いんです。
なぜかというと「納得いく答え」が見つからないから。
糸井 たしかに、
「答えが見つからない」という理由で、
考えをやめてしまうことって、ありますね。
ダイアモンド そうなんです。
その『銃・病原菌・鉄』という本の問いでいえば、
私が考え続けるきっかけになったのは、
ひとりのニューギニア人から問いかけられた
こんな質問です。
「あなたがた白人は
 我々のもとに多くの文化を
 持ち込んだけれど、
 あなたがたに我々の文化は
 ほとんどもたらされていない。
 それは、なぜなんだ?」
‥‥聞かれたとき私は、答えられませんでした。
そして、そのことがきっかけとなって
私は本を書いたんです。
糸井 ええ、ええ。
  (つづきます。)

2013-03-04-MON

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昨日までの世界 ー 文明の源流と人類の未来 ー
工業化社会に移行する前の、
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ジャレド・ダイアモンドさんのいちばん新しい本。
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ジャレド・ダイアモンドさんの名著のひとつ。
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ひとつひとつ検証しながら、
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