文化の背景までちゃんと伝えたい。
- ほぼ日
- これから初めてニューヨークを旅行する人に、
佐久間さんが朝食のお店を
おすすめするとしたら、どこですか?
- 佐久間
- そうですね‥‥。
実はニューヨークのレストランって
急にシェフが変わって、味が変わったりするんです。
だから決めづらいのですが、
マンハッタンだったら、少し高いけど、
昔からやってるキース・マクナリー氏の店の
「バルサザール(Balthazar)」とか、
いいんじゃないでしょうか。
- ほぼ日
- さきほどの、老舗レストランをたくさんされている
キース・マクナリーさんのお店。
- 佐久間
- そう。あそこはクラシックで
すごくおいしいから、いいと思います。
あと私が好きなのは、やっぱり
「マーロウ&サンズ」ですね。
行くたびにメニューが違って、飽きないです。
- ほぼ日
- ニューヨークでは、ふつうの人は
外での朝食ってそんなにしないものですか?
- 佐久間
- いや、たぶん独身男性とか、
自分で作りたくない人は行ってると思いますね。
あと、休日に友達と会ってのブランチは、
わりとみんなよくやります。
- ほぼ日
- 佐久間さんもよくされますか?
- 佐久間
- 実はわたし、休日のブランチって
少しばかりめんどうだったりするんですね。
というのも、人気のお店とかはすごく混むから、
おいしい店で食べようと思ったら、
11時とかに行かなきゃいけないので。
わたしは自由業なので、平日に行けちゃうんです(笑)。
- ほぼ日
- 最後にちょっと別の話になっちゃいますが、
佐久間さんが『ヒップな生活革命』の本を
出されたことによる影響って、いかがですか?
- 佐久間
- そうですね‥‥。
わたしはこれまで自分が雑誌などで紹介してきた
いろんな文化について、
「背景の文脈まで紹介できてない」という罪悪感が
ずっとあったんです。
雑誌だと、文字数なども限りがあるから、
食べものとかでも「おいしいよね」くらいに
なってしまったりとか。
だから、本の感想で
「ポートランドやブルックリンが注目される理由が
ずっとわからなかったのですが、
本を読んでやっと納得がいきました」
などと言われることがわりとあるのですが、
そのあたりは説明できてよかった、と思います。
- ほぼ日
- 「ここは本でもっと語ったほうがよかったな」
みたいなことって、ありますか?
- 佐久間
- もうすこし書けばよかったと思うのは、
「世の中にちゃんと届くためには
商品としてのクオリティがいいのが大前提」
という部分ですね。
たとえば廃材で作品を作るのは良いことだけど、
みんながちゃんと欲しいものにならないと、意味がない。
やっぱり、アメリカでうまくいっている人たちは
ちゃんとおいしかったり、
消費者がほしくなるかっこよさがあったり、
その部分がしっかりとあるわけです。
持続可能なビジネスになるためには
たとえば、ただ「環境に良い」とかだけじゃだめで、
「もう一歩、いろいろ考えなければいけない」んですね。
そこは、もう少しわかりやすく
書いたほうがよかったかな、とは思いました。
- ほぼ日
- いまの日本って、アメリカでずっと暮らしている
佐久間さんから見ると、どんなふうに見えますか?
- 佐久間
- 「日本のいいところが、まだぜんぜん伝わってない」
とは、どうしても思いますね。
みんなが「クールジャパン」と言ってたりするけれど、
どうしても相撲や歌舞伎のような
文化に対するエキゾシズムに頼ってしまいがちというか。
アニメを輸出するのはわたしも賛成ですけど、
それだけじゃない気もしますし。
- ほぼ日
- 佐久間さんの視点で見て、
海外の人に喜ばれそうな日本のいいところって
たとえば、どんなところがありますか?
- 佐久間
- 私の感覚ですけど、ほんとにいま日本が
海外の人たちに特に「すごい」と思われてるのって
ものづくりにおける日本の技術力とか
視点の細やかさとかだと思うんですね。
たとえば日本の
「ループウィラー(LOOPWEELER)」という
ブランドのスウェットシャツは、
生地の編み方からまったく違っていて、
着心地がとてもいいものを作っていたりとか。
わたしの友人のやっている
「ナーディーズ(THE NARDYS)」という
ブランドのニットは、
わざわざ1回お湯にかけてから編んでいるから
洗濯機に入れても縮まないとか。
日本の人の素材やテキスタイルへのこだわりって、
ほんとうにすごいので。
- ほぼ日
- たしかに、日本の文房具や画材とかも、
すごく質が高いと聞きます。
- 佐久間
- そう、やっぱり日本人ってこまかいから、
細部のクオリティがすごいんですよね。
まだ知られていない日本の製品で、
海外に出したら売れそうなものはたくさんあると思います。
そういえば、今回わたしはニューヨークの
「ベストメイド(Best Made)」という
アウトドアブランドの手伝いで帰国しているんですが、
その「ベストメイド」のお店では、
日本製の折りたたみナイフの
「肥後ナイフ」がベストセラーなんです。
- ほぼ日
- そうなんですか。
- 佐久間
- 日本の鍛冶屋さんの腕って、すごいんですよ。
だから今回は彼らといっしょに
燕三条に、刃物の工場を見にいったりしました。
ちょうど、別注みたいなかたちで、
「ベストメイド」デザインのナイフを
作ってもらってるんですが、
これも、すごく素敵なものができていて。
- ほぼ日
- あ、日本で新商品を作るんですか。
- 佐久間
- そうなんです。
彼らのアプローチっておもしろくて、
いま、アメリカでは、
「メイド・イン・ニューヨーク」みたいな、
近くの場所で作るのが主流なんですが、
「ベストメイド」は
たとえばコップを作ろうとなったら、
「このコップを作るために一番いい工場はどこか?」
っていうアプローチなんです。
だから、それがたとえばヨーロッパの時もあるし、
日本の時もある。
で、今回は日本なんですね。
4月末からは神楽坂の「ラ カグ(la kagu)」で
彼らのポップアップショップもやりますよ。
- ほぼ日
- おもしろそうです。
‥‥ちなみに今回、佐久間さんは
日本で過ごして、何がいちばんおいしかったですか?
- 佐久間
- そうですね、いろいろおいしかったのですが、
外食だと妹が連れていってくれた
アンコウ鍋はすごくおいしかったです。
あと、屋久島のサバスモーク工場のサバも
おいしかったですし、
屋久島の宿で飲んだ焼酎の
「三岳」も外せないですね。
あと、ウイスキーの「白州」。
- ほぼ日
- 「三岳」に「白州」(笑)。
- 佐久間
- わたし、ウイスキーが大好きで
「白州」とか大好きなんです。
ただ、なぜかアメリカに買って帰っても、
たぶん水とか空気とかいろんなことが違うから、
日本で飲むほどおいしくないんですね。
だから日本にいるとついつい
「いましかない」と思って、
「白州」ばっかり頼んじゃうんです。
- ほぼ日
- ニューヨークだと、やっぱり飲むのは
地元のウイスキーですか?
- 佐久間
- そうですね。
実は最近、ニューヨークの北部のほうで
いろいろ少量生産のものすごくおいしい
ウイスキーブランドが登場していて、最高なんですよ。
自分の好みに合うかはわからないから、
ちょっとお店で試して、
おいしかったら家用に買ったりとかしてます。
- ほぼ日
- 良さそうですね。
- 佐久間
- お酒が好きだったら、いいですよ。
だけど、日本に戻ってきたとき
ほんとうにいちばん食べられて幸せなのは
「卵かけごはん」かもしれません。
アメリカって卵を生で食べる文化がないから、
生卵が食べられないんです。
わたしは昔、それをわかっていながら
「自分は若くて健康だから大丈夫」と食べて、
見事にひっくりかえったことがあるんです。
だから、日本でいちばんうれしいのは、
卵かけごはん、かな。
‥‥日本の朝食みたいな話に
なっちゃいましたけど(笑)。
- ほぼ日
- (笑)。
今日は、ありがとうございました。
- 佐久間
- こちらこそ、たのしかったです。
ありがとうございました。
(佐久間裕美子さんのインタビューはこれでおしまいです。
お読みいただき、ありがとうございました)
ブルックリンの高級化と、
ニューヨークの街の循環のこと。
いま、ニューヨークのブルックリンという地域は
世界的に注目されていますが、
それにより、多くの観光客たちが訪れ、
「ジェントリフィケーション」と呼ばれる
地域の高級化が起こっています。
最近、週末の天気のいい日にウィリアムズバーグを訪れて
あまりの混雑と変わりっぷりに愕然とすることがありました。
その姿は、私が本で描こうとしたブルックリンの美しさから
かけ離れてしまったように思えたのです。
街に活気が出ることはいいことですが、
DIYの精神で盛り上がったこのエリアが、大きな資本の波に
呑み込まれていくのは、少し悲しいことでもあります。
私が暮らすグリーンポイントでも、超大型タワーが
何棟も立つ計画が進んでいます。
私が愛するグリーンポイントがこの先、どれだけの間
愛すべき存在で居続けてくれるかは定かではありません。
けれど、よくよく考えてみると、ニューヨークは循環の街。
ひとつのエリアがメジャー化すると
相対的に安かったり、まだ人が少ないエリアに
人が移動していって、またその先で新しい波を作るのです。
そうやってこの街の文化は循環していくのだと思います。