佐久間裕美子さんは、ニューヨークに18年暮らし、
「日本」と「アメリカ」両方の視点をもとに、
雑誌に記事を書いたり、本を書いたりされているかたです。
著書『ヒップな生活革命』(朝日出版社、2014年)は、
近年アメリカの人々のあいだで盛り上がる
新しいライフスタイル・ムーブメントについて、
たくさんの事例を交えて詳しく解説したもの。
「いまのアメリカ」を知ることができる興味深い一冊です。
また、食べものの話もいろいろ登場します。
そこで、ニューヨークのいまの朝食とジャム事情について、
佐久間さんにお話をうかがいました。
ものを買うことや、これからどう暮らすべきかの
ヒントにもなりそうな話を、全6回でご紹介します。
担当は「ほぼ日」ジャムチームの田中です。

佐久間裕美子さんの著書についてはこちら
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文化の背景までちゃんと伝えたい。

ほぼ日
これから初めてニューヨークを旅行する人に、
佐久間さんが朝食のお店を
おすすめするとしたら、どこですか?
佐久間
そうですね‥‥。
実はニューヨークのレストランって
急にシェフが変わって、味が変わったりするんです。
だから決めづらいのですが、
マンハッタンだったら、少し高いけど、
昔からやってるキース・マクナリー氏の店の
「バルサザール(Balthazar)」とか、
いいんじゃないでしょうか。
ほぼ日
さきほどの、老舗レストランをたくさんされている
キース・マクナリーさんのお店。
佐久間
そう。あそこはクラシックで
すごくおいしいから、いいと思います。
あと私が好きなのは、やっぱり
「マーロウ&サンズ」ですね。
行くたびにメニューが違って、飽きないです。
ほぼ日
ニューヨークでは、ふつうの人は
外での朝食ってそんなにしないものですか?
佐久間
いや、たぶん独身男性とか、
自分で作りたくない人は行ってると思いますね。
あと、休日に友達と会ってのブランチは、
わりとみんなよくやります。
ほぼ日
佐久間さんもよくされますか?
佐久間
実はわたし、休日のブランチって
少しばかりめんどうだったりするんですね。
というのも、人気のお店とかはすごく混むから、
おいしい店で食べようと思ったら、
11時とかに行かなきゃいけないので。
わたしは自由業なので、平日に行けちゃうんです(笑)。
ほぼ日
最後にちょっと別の話になっちゃいますが、
佐久間さんが『ヒップな生活革命』の本を
出されたことによる影響って、いかがですか?
佐久間
そうですね‥‥。
わたしはこれまで自分が雑誌などで紹介してきた
いろんな文化について、
「背景の文脈まで紹介できてない」という罪悪感が
ずっとあったんです。
雑誌だと、文字数なども限りがあるから、
食べものとかでも「おいしいよね」くらいに
なってしまったりとか。
だから、本の感想で
「ポートランドやブルックリンが注目される理由が
 ずっとわからなかったのですが、
 本を読んでやっと納得がいきました」
などと言われることがわりとあるのですが、
そのあたりは説明できてよかった、と思います。
ほぼ日
「ここは本でもっと語ったほうがよかったな」
みたいなことって、ありますか?
佐久間
もうすこし書けばよかったと思うのは、
「世の中にちゃんと届くためには
 商品としてのクオリティがいいのが大前提」
という部分ですね。
たとえば廃材で作品を作るのは良いことだけど、
みんながちゃんと欲しいものにならないと、意味がない。
やっぱり、アメリカでうまくいっている人たちは
ちゃんとおいしかったり、
消費者がほしくなるかっこよさがあったり、
その部分がしっかりとあるわけです。
持続可能なビジネスになるためには
たとえば、ただ「環境に良い」とかだけじゃだめで、
「もう一歩、いろいろ考えなければいけない」んですね。
そこは、もう少しわかりやすく
書いたほうがよかったかな、とは思いました。
ほぼ日
いまの日本って、アメリカでずっと暮らしている
佐久間さんから見ると、どんなふうに見えますか?
佐久間
「日本のいいところが、まだぜんぜん伝わってない」
とは、どうしても思いますね。
みんなが「クールジャパン」と言ってたりするけれど、
どうしても相撲や歌舞伎のような
文化に対するエキゾシズムに頼ってしまいがちというか。
アニメを輸出するのはわたしも賛成ですけど、
それだけじゃない気もしますし。
ほぼ日
佐久間さんの視点で見て、
海外の人に喜ばれそうな日本のいいところって
たとえば、どんなところがありますか?
佐久間
私の感覚ですけど、ほんとにいま日本が
海外の人たちに特に「すごい」と思われてるのって
ものづくりにおける日本の技術力とか
視点の細やかさとかだと思うんですね。
たとえば日本の
「ループウィラー(LOOPWEELER)」という
ブランドのスウェットシャツは、
生地の編み方からまったく違っていて、
着心地がとてもいいものを作っていたりとか。
わたしの友人のやっている
「ナーディーズ(THE NARDYS)」という
ブランドのニットは、
わざわざ1回お湯にかけてから編んでいるから
洗濯機に入れても縮まないとか。
日本の人の素材やテキスタイルへのこだわりって、
ほんとうにすごいので。
ほぼ日
たしかに、日本の文房具や画材とかも、
すごく質が高いと聞きます。
佐久間
そう、やっぱり日本人ってこまかいから、
細部のクオリティがすごいんですよね。
まだ知られていない日本の製品で、
海外に出したら売れそうなものはたくさんあると思います。
そういえば、今回わたしはニューヨークの
「ベストメイド(Best Made)」という
アウトドアブランドの手伝いで帰国しているんですが、
その「ベストメイド」のお店では、
日本製の折りたたみナイフの
「肥後ナイフ」がベストセラーなんです。
ほぼ日
そうなんですか。
佐久間
日本の鍛冶屋さんの腕って、すごいんですよ。
だから今回は彼らといっしょに
燕三条に、刃物の工場を見にいったりしました。
ちょうど、別注みたいなかたちで、
「ベストメイド」デザインのナイフを
作ってもらってるんですが、
これも、すごく素敵なものができていて。
ほぼ日
あ、日本で新商品を作るんですか。
佐久間
そうなんです。
彼らのアプローチっておもしろくて、
いま、アメリカでは、
「メイド・イン・ニューヨーク」みたいな、
近くの場所で作るのが主流なんですが、
「ベストメイド」は
たとえばコップを作ろうとなったら、
「このコップを作るために一番いい工場はどこか?」
っていうアプローチなんです。
だから、それがたとえばヨーロッパの時もあるし、
日本の時もある。
で、今回は日本なんですね。
4月末からは神楽坂の「ラ カグ(la kagu)」で
彼らのポップアップショップもやりますよ。
ほぼ日
おもしろそうです。
‥‥ちなみに今回、佐久間さんは
日本で過ごして、何がいちばんおいしかったですか?
佐久間
そうですね、いろいろおいしかったのですが、
外食だと妹が連れていってくれた
アンコウ鍋はすごくおいしかったです。
あと、屋久島のサバスモーク工場のサバも
おいしかったですし、
屋久島の宿で飲んだ焼酎の
「三岳」も外せないですね。
あと、ウイスキーの「白州」。
ほぼ日
「三岳」に「白州」(笑)。
佐久間
わたし、ウイスキーが大好きで
「白州」とか大好きなんです。
ただ、なぜかアメリカに買って帰っても、
たぶん水とか空気とかいろんなことが違うから、
日本で飲むほどおいしくないんですね。
だから日本にいるとついつい
「いましかない」と思って、
「白州」ばっかり頼んじゃうんです。
ほぼ日
ニューヨークだと、やっぱり飲むのは
地元のウイスキーですか?
佐久間
そうですね。
実は最近、ニューヨークの北部のほうで
いろいろ少量生産のものすごくおいしい
ウイスキーブランドが登場していて、最高なんですよ。
自分の好みに合うかはわからないから、
ちょっとお店で試して、
おいしかったら家用に買ったりとかしてます。
ほぼ日
良さそうですね。
佐久間
お酒が好きだったら、いいですよ。
だけど、日本に戻ってきたとき
ほんとうにいちばん食べられて幸せなのは
「卵かけごはん」かもしれません。
アメリカって卵を生で食べる文化がないから、
生卵が食べられないんです。
わたしは昔、それをわかっていながら
「自分は若くて健康だから大丈夫」と食べて、
見事にひっくりかえったことがあるんです。
だから、日本でいちばんうれしいのは、
卵かけごはん、かな。
‥‥日本の朝食みたいな話に
なっちゃいましたけど(笑)。
ほぼ日
(笑)。
今日は、ありがとうございました。
佐久間
こちらこそ、たのしかったです。
ありがとうございました。

(佐久間裕美子さんのインタビューはこれでおしまいです。
お読みいただき、ありがとうございました)
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ブルックリンの高級化と、
ニューヨークの街の循環のこと。

いま、ニューヨークのブルックリンという地域は
世界的に注目されていますが、
それにより、多くの観光客たちが訪れ、
「ジェントリフィケーション」と呼ばれる
地域の高級化が起こっています。
最近、週末の天気のいい日にウィリアムズバーグを訪れて
あまりの混雑と変わりっぷりに愕然とすることがありました。
その姿は、私が本で描こうとしたブルックリンの美しさから
かけ離れてしまったように思えたのです。
街に活気が出ることはいいことですが、
DIYの精神で盛り上がったこのエリアが、大きな資本の波に
呑み込まれていくのは、少し悲しいことでもあります。
私が暮らすグリーンポイントでも、超大型タワーが
何棟も立つ計画が進んでいます。
私が愛するグリーンポイントがこの先、どれだけの間
愛すべき存在で居続けてくれるかは定かではありません。
けれど、よくよく考えてみると、ニューヨークは循環の街。
ひとつのエリアがメジャー化すると
相対的に安かったり、まだ人が少ないエリアに
人が移動していって、またその先で新しい波を作るのです。
そうやってこの街の文化は循環していくのだと思います。

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(2015-05-01-FRI)
佐久間裕美子さんの本

リーマンショック以降、
ブルックリンやポートランドなどを中心に
現在アメリカの人々の間で広まりつつある
新しい価値観について、
たくさんの具体的な事例を紹介しつつ、
わかりやすく解説している一冊です。
抜群においしくなったコーヒーや、
「買うな」とうたう企業広告、
地元生産を貫くブランドや、
アナログレコードの再評価についてなど、
多くの興味深い事例から
アメリカのいまを知ることができます。

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『ヒップな生活革命』
(ideaink シリーズ、朝日出版社)