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第0回私の好きな素人いじりテレビ 2016-06-02-Thu

滋賀県生まれ、東京在住の編集者です。新書・マンガ・小説をつくる仕事をしています。

私の好きなもの

担当・今井雄紀

私の好きな素人いじりテレビ

「家にテレビがない」という人が増えています。
「テレビはもう終わった」という意見も、
チラホラとお聞きします。
似たような番組が増えたという声も聴きます。
ひな壇に芸人さんが並ぶ番組なんか、その典型でしょうか。
似たような画作りと台本に、辟易されている方も多いでしょう。

しかしいま、そういった大量生産志向とは一線を画す、
素人を題材にした番組がすごくおもしろいです。
NHKの『ドキュメント72時間』や、
テレビ東京の『家、ついて行ってイイですか?』、
そしてフジテレビの『人生のパイセンTV』などがそうです。

2013年から放送されている『ドキュメント72時間』は、
「場所」にフォーカスした番組です。
72時間、同じ場所を定点観測で撮り続け、
そこに来た人に話を聴ききます。
観たことのない方は、「それの何がおもしろいの?」と
思われるかもしれませんが、これがすごくおもしろい。
まず、場所選びが秀逸です。
閉館直前のホテルオークラ、
最後の3日間に密着したかと思えば
池袋の日焼けサロンに行ったり、
北海道大学の学生寮に行ったり……。
そしてこれは「NHK」だから成せるワザなのか、
現れた人たちに、こっちがひやひやするほど
ガンガンとつっこんでいきます。
そりゃもう、図々しいぐらいに。
結果引き出される「ふつうの人たち」のドラマに、
つよく胸打たれます。

テレビ東京の『家、ついて行ってイイですか?』は、
深夜の駅に番組スタッフが出没し、
終電をなくした人に声をかけ、
「タクシー代を払うので、家を見せてもらえませんか?」
と、お願いしていきます。こちらも図々しい!
OKしてくれる人が現れるまで、
ひたすら声がけしていく様子も放送されるのですが、
まずここがおもしろい。
協力者を探す苦労を目の当たりにして、
思わずスタッフを応援したくなります。
家に行ってからも、仕込みじゃないかってぐらい
みんなドラマチックです。
とっても恐い奥さんが待っている人もいれば、
同棲相手が記憶喪失になってしまった人、
別れた彼氏と同棲している人、などなど。
のぞき見の欲求を、満たしてくれる番組です。

フジテレビの『人生のパイセンTV』は、
「人からバカだと言われようが己のポリシーを貫き
人生を謳歌している先輩」を取材するバラエティーです。
この番組も、スタッフの熱量がすごい。
全国からEXILEのATSUSHIさんのそっくりさんを
集めて運動会をしたり、
年収200万のフェラーリオーナーを探したり、
サウナの中で年越しをするおじさんたちに密着したりと、
「よくそんな人見つけたね」と言いたくなる人たちを、
独特のスピード感ある演出でテンポよく見せてくれます。
あと、ベッキーさんがレギュラーを務められていた
番組の中で唯一、騒動以後にベッキーをいじり
続けている番組でもあります。
観ていてあたたかい気持ちになれますので、
それだけでも一見の価値ありです。

いずれの番組も、ロケに行くのはスタッフだけで、
映像もほとんどが主観で撮られています。
たまに鏡に撮影者自身が映っている様子を見るに、
スタッフが手持ちのカメラだけ持って、
ひとりで行っているものも少なくありません。
タレントパワーに頼らないこれらの番組からは、
「おれたちがイチバンおもしろいんだ」という、
テレビマンの執念のようなものを感じます。

ついつい口にしてしまう「予算さえあればなー」という
言い訳へのいましめとして、今週もまた、
この三番組をたのしみに観るのです。