僕がすきなもの
それは僕のポルシェだ。
ぼくはポルシェを愛してる。
好き、なんてものじゃない。
そう、ポルシェって ‘あの’ ポルシェである。
あの目玉がくるっとして、
屋根のうえからうしろまでスーッとのびた
ポルシェ911というクルマのことである。
ものごころついたときから
ポルシェにぞっこんだったし、
やっぱり大人になってからも
(というにはまだ若すぎるかもしれないけれど)
とにかくポルシェのことを想いつづけた。
ぼくはポルシェを愛していて、
ついでにいうと、ポルシェを買った。
社会人1年目にして。フルローンで。
買ってから、なおさら想うようになった。
屋根のうえからうしろまでスーッとのびた
ポルシェのうしろ、タイヤのうえの
ぬるっとした鉄板の膨らみが好きだ。
ちっとも軋んだりせずに、
機械と機械が正確に噛みあう感覚も気持ちがいい。
涼しげな顔をして、とてつもないスピードを
実現する ‘実力’ にもあこがれる。
それでいて、その優れた側面を、
ことさらに主張しすぎないところも尊敬している。
けれど、僕がポルシェを好きな理由は、
たんにこれだけではないような気もする。
朝の3時に、白い息を吐きながら、
いそいそと駐車場まで小走りして、
ボディを覆ったカバーをそっとはがす。
カチャンとドアをしめて、キーをひねる。
そういったひとつひとつのことでさえ、
小躍りするくらいにうれしい。
夕暮れどきにクルマをぽんと置いて、
コーヒーを飲みながら見ているだけでもいい。
コーヒーを飲みながらポルシェをみている
自分のこともじつは好きなのかもしれない。
僕はポルシェが好きで、
ポルシェにまつわるそのすべても好きである。