もくじ
第0回桃の香り 2016-06-02-Thu

ことばに込められた思いをどのように残していくのかに関心があります。
多くの人に伝わる表現方法をまなび、
自分の伝え方をみつめなおしたく、塾に参加しました。

防塵マスクや刷毛などの、資料レスキューグッズは、
すぐ手の届くところに、まとまっています。

私の好きなもの
桃の香り

担当・uno

かの名曲“My Favorite Things”のように、
好きなものを並べて、
何について書こうか、考えていました。
思い至ったのは、桃。
でも桃の中で一番印象深かったのは…
「桃の香り」のはなし、しばしおつきあいください。

桃の香り

「香り」という、
ことばをわざわざつけるまでもなく、
私は、桃が好きです。

幼いころに熱が出ると、
缶詰の桃が食べたくなったり、
今でも疲れると、
無性にネクターが飲みたくなったりするけれども
(冷蔵庫には、疲れ切った時に備えて、
ネクターが欠くことなく入っている)、
洗って、皮をむいて食べる時の、
桃の甘さと果肉のみずみずしさが好き。

元々、桃を食べるのは好きで、
一番好きな果物だったけれども、
決定的になったのは、
2011年9月の、ある真夜中のこと。

その時、私はバスで岩手に向かっていた。
東日本大震災の復興支援の活動をするために。

東北道の安達太良サービスエリアで、
私が乗っていたバスは休憩時間をとった。
そのバスにはお手洗いがないので、
私はサービスエリアへと降り立った。
洗面台の壁面には、桃などの絵が描かれている。

少し時間があったので、
灯りのある方向へと足を向けた。

運転免許を持っていない私は、その時まで、
売店が24時間営業をしていることを、
知らなかった。

さらに言えば、寝ぼけたままバスを降りたので、
お財布を持っておらず、
眼鏡もかけていなかった。

ぼんやりとしている視界。
真夜中の、店員さんくらいしかいない
(いても、ちゃんと見えていない)売店。
その中に、桃があった。

数個1パックで売られていた桃は、
周囲に甘い香りを放っていた。
視界がぼんやりとしている分、
その香りは、桃の存在と、
その桃が熟しているであろうことを強く示していた。

食べたいな、と思った。
とはいえ、全所持品は、
ポケットの中にハンカチ一枚。
お財布は、バスの中。
取りに行って買うほどは時間がない。
「帰りに買おう!」と思ってバスへ戻った。
帰りのバスは、安達太良には寄らなかったけれども。

このことがあってから、
桃を見つけ、お財布があった時、
「桃を買う」ことへの決断が、スピードアップした。
あの時に味わえなかった味を
取り戻すかのように。

ただ、あの時のような香りの桃を
まだ見つけることはできていない。
産地ならではの、新鮮さと熟し具合だったのだろう。

あの真夜中の桃の香り、
そしてその記憶は、
私の桃好きを、決定的なものにした。

いつか、安達太良サービスエリアで
桃を買うことは、ささやかな夢だ。
今年はその夢が、かなうだろうか。

*アイコン画像に用いた折り紙は、
下記URLのサイトを参照しました。
http://www.origami-club.com/fruit/peach/peach/index.html