夕焼けの空が好き。
もうすこし正確に言いかえるなら、
私たちの昼間の生活すべてを照らした太陽が、
役割を終えて去っていく時の、空模様が好き。
夕焼けはおよそ20分のダイナミックなショートドラマ。
その現場を目の当たりにすると、
立ちすくんでしまって、まったく目が離せなくなる。
おそらく誰しも経験がありますよね。
夕焼けを待ちわびてはそわそわして、
太陽が去っても体が冷えるまで名残惜しく眺めてしまう。
“日が暮れたら、おうちに帰ろう”。
そんな当たり前のことができずによく怒られた、子ども時代。
私はいつだってはかなく輝く夕焼けの虜で、
すっかり日が暮れてもまだあきらめられず、
そしてそこにある何かに、ずっと魅せられています。
昼から夜の移り目。
ごく私的な解説をすると、
空模様には大きく3つのゾーンがあります。
1つめ。
くらくら眩しい炎のオレンジゾーン。
めまぐるしくその色を変えていく姿に引きつけられ、
絶対的な昂揚(こうよう)を感じてしまう。
その中心にぽっかりと居座る、熱くて白い太陽。
見るだけで網膜に焼き付く白のまる、まる、まる。
2つめは、やがて視界の外側からやってくる紫ゾーン。
世界を覆い尽くす第二の勢力が、
水墨画の墨のようにじわじわと、にじんでやってくる。
漠とした怖さが忍び寄る闇の色。
そして、3つめ。
そんな昼と夜の間にたゆたうやわらかなピンクゾーン。
太陽が沈んだ後に、世界はうっすらピンクに染まっていく。
隣の家の壁も、コンクリ道路も、向こうからやってくる犬も。
すべてが優しく見える不思議な時間は、
英語であれば「Magic hour」という名前。
どうしたって空は移り変わり、夜の闇は押し寄せる。
そのせつなさにしょんぼりする私を包み込んで、
いつもすこしだけ時間の猶予をくれるピンクが、
夕焼けの中でも最近特に好きです。
そう、物心ついた時から私は、
何かを終わらせることが、
せつなくて、億劫で、大きらいな子どもでした。
(つづきます)