もくじ
第1回昼と夜の境目、夕焼け。 2016-06-02-Thu
第2回夕焼けピンクがくれるもの。 2016-06-02-Thu
第3回【番外編】空が好きだ。 2016-06-02-Thu

冬に生まれた、荒くれ者の飛行機乗りです。ジョージ・エリオットが好きすぎて、頭3文字をひっくり返して女性名のペンネームにしました。空飛ぶ詩人になりたい。うそです。

こんにちは、おりえです。
この度は大好きなほぼ日乗組員のみなさんから
「好きなものをテーマに記名原稿を書いてね」
という、恥ずかしむずかし!なお題をいただきました。

ほとほと無理です、と投げ出すこともできず、
好きの意味や対象に悩むままに月日が経ち、
あわてて締め切り前にパソコンを立ち上げたつい先ほど。
ぼんやりしていて愛用のガラスのティーポットを
“パシャーーーーン”
と手からすべらせて割ってしまいました。
好きとは愛着であると、知りました。

人並み以上に気になって仕方ないもの。
どんなに時間をかけても惜しくないもの。
世のルールより優先してしまいそうになるもの。
みなさんなら何を思い浮かべますか。

私は物心ついたときから、空が好きです。
とりわけ夕焼けの空のピンクが好きです。
思いのままに書き連ねますが、
よろしければどうかお付き合いください。

第1回 昼と夜の境目、夕焼け。

夕焼けの空が好き。

もうすこし正確に言いかえるなら、
私たちの昼間の生活すべてを照らした太陽が、
役割を終えて去っていく時の、空模様が好き。

夕焼けはおよそ20分のダイナミックなショートドラマ。
その現場を目の当たりにすると、
立ちすくんでしまって、まったく目が離せなくなる。
おそらく誰しも経験がありますよね。

夕焼けを待ちわびてはそわそわして、
太陽が去っても体が冷えるまで名残惜しく眺めてしまう。

“日が暮れたら、おうちに帰ろう”。
そんな当たり前のことができずによく怒られた、子ども時代。
私はいつだってはかなく輝く夕焼けの虜で、
すっかり日が暮れてもまだあきらめられず、
そしてそこにある何かに、ずっと魅せられています。

昼から夜の移り目。

ごく私的な解説をすると、
空模様には大きく3つのゾーンがあります。

1つめ。
くらくら眩しい炎のオレンジゾーン。
めまぐるしくその色を変えていく姿に引きつけられ、
絶対的な昂揚(こうよう)を感じてしまう。
その中心にぽっかりと居座る、熱くて白い太陽。
見るだけで網膜に焼き付く白のまる、まる、まる。

2つめは、やがて視界の外側からやってくる紫ゾーン。
世界を覆い尽くす第二の勢力が、
水墨画の墨のようにじわじわと、にじんでやってくる。
漠とした怖さが忍び寄る闇の色。

そして、3つめ。
そんな昼と夜の間にたゆたうやわらかなピンクゾーン。

太陽が沈んだ後に、世界はうっすらピンクに染まっていく。
隣の家の壁も、コンクリ道路も、向こうからやってくる犬も。
すべてが優しく見える不思議な時間は、
英語であれば「Magic hour」という名前。

どうしたって空は移り変わり、夜の闇は押し寄せる。
そのせつなさにしょんぼりする私を包み込んで、
いつもすこしだけ時間の猶予をくれるピンクが、
夕焼けの中でも最近特に好きです。

そう、物心ついた時から私は、
何かを終わらせることが、
せつなくて、億劫で、大きらいな子どもでした。

(つづきます)

第2回 夕焼けピンクがくれるもの。