―山崎さん(以下、山崎)はいつ頃から作家になろう、とお考えだったんですか?
- 山崎
- 子供のころから本が好きでした。
幼稚園くらいのときから、
将来は本を作る人になろう、
と思ってはいましたね。中学のときに
進路希望みたいなのを書いたんですけど、
私が、第一希望にOL、第二希望は小説家
って出したら、
先生に
「山崎はOLは無理だと思う。
小説家の方がまだいけるんじゃないか」
って言われたんです。
たしかに、
私その頃ってものすごい人見知りで、
人と接するのも苦手だったし、
学校にもなじめてなかったんですよね。
その、OLって書いたときは
誰でもなれるものだと思って、
書いたんですけど
先生に言われてみて、
誰でもなれるわけではないんだな、と。
実際に働いてみてもそう感じましたね。
―大学を出てからしばらくは、就職してお仕事をされていたんですよね?
- 山崎
- 大学を卒業してから4年ほど、
デビュー2年目くらいまで
会社員をしていました。はじめから作家になりたいとは
思っていたんですけど、
ただ本が好きっていうだけで、
学生時代はとくに
何の努力もしてなかったんです。
大学の卒業論文の規定が50枚以上で、
はじめて長いものを書きまして、
長い文章を書けたから小説も書いてみよう
と思って、
そこではじめて小説を書いて 応募しました。
でも、それが落選したので、
その次の年も働きながら書いて、
また送ったんですが、
次の年も落ちて。
それでまた次の年に書いて送って…
3年目に書いた作品が受賞して、
デビューしたんです。
だから、良くないことですが、「仕方なく働いている」、
という気持ちを持ってしまっていたと思います。
―そうだったんですか。もし、在学中に作家デビューされていたら、会社で働くこともなかったのでしょうか。
- 山崎
- 作家になるまでは、そもそも
作家のなり方がよくわからなくて、
「働いて社会を知ってから作家になる」
というイメージが
あったものですから、
なにかしら仕事はした方がいい、
と思ってたんですよね。
会社員になってみたものの、
当時はミスもいっぱいしたし、
毎日つらかったです。
―山崎さんが小説を書くときの、動機をお伺いできますか?
- 山崎
- 私は、書いている最中が一番楽しいので、
それが大きいかな、と思います。
読者の方から反応を得ようとか、
社会に貢献しよう、という気持ちも
もちろんありますが、
仕事のやりがいみたいなものは、
自分の楽しさのために
やっていると思います。
―そうなんですね。執筆されていて、スランプを感じたり、ちょっと書くのしんどいなぁ、という時もあったりするんでしょうか?
- 山崎
- 3年前くらいに
スランプで書けないときがありました。私はこれまで12年ほど作家として
やってきたんですけど、
その間に、
すごくたくさん本が売れるということは
なかなかなかったんです。
それで、
部数を伸ばすためにも
頑張らなくちゃいけないな、
とは思ったんですけど、
でも「売れる本にしよう」と考えすぎると
努力の方向も変わってきちゃうんですよね。
売れてないのに本を書いていていいのだろうか、
という気持ちもわきましたし
営業さんとか出版社さんにも
迷惑かけてしまうな、申し訳ないな、
という思いもありましたし。
その頃は精神的にもすごくマイナスに
なっちゃったんです。
―そうでしたか…。そういった時期は、どうやって乗り切られたんですか?
- 山崎
- 私は多様性を肯定する作品作りに
興味があるんですが、
書店員である私の夫が、
「部数の少ない本をつくるということも
多様性を肯定するために必要だと思う」
というようなことを言ってくれて。
それもそうだな、と思って、
そこで少し吹っ切れたんです。
売れる本も社会に必要、売れない本も社会に必要、
どちらも大事だと。もちろん、
本を作るからには
重版がかかるに越したことはないと
思います。
売れる本というのは、
本屋を盛り上げてくれます。
村上春樹さんや、又吉さんのように
ニュースになると、
たくさんの人が文学に興味を持ってくれますよね。
業界を活性化するためにも
必要な存在です。でも、売れる本だけが存在する社会は、
あんまり良い社会ではなさそうですよね。
少数派の本を必要としている人もいる。
なので、私の場合は、
出版社さんをちょっとくらいがっかりさせてもいいから、
売れる売れないのことは考えず、
「いい本をつくろう」
という意識のみを持つことにしました。そういう風に思い始めたら、
また最近、書くことが
すごく楽しくなってきました。
山崎ナオコーラさんインタビュー 関連本①
お話くださった、“多様性を肯定する本”について書かれた
エッセイ(「ソーダ書房」)も収録されている、
最新エッセイ集『かわいい夫』には、
書店員である旦那様との、
かわいくも現実的な結婚生活の様子が描かれます。
妻が大黒柱的役割を担うことは
女性的魅力にはつながらないのか。
高齢出産や出生前診断について、
そして山崎さん自身の妊娠と流産。
ご自身の体験を通して、
既存の価値観や考え方に対して
やさしく、でも鋭く切り込んだ言葉が並びます。
山崎ナオコーラ作品が初めての方にも、
ぜひおすすめしたい一冊です。
『かわいい夫』
山崎ナオコーラ
夏葉社