僕が人生で1回だけしたことがある女の子への告白は、
大学3年の秋、つまり去年の9月ごろのことである。
「好きじゃない女の子」に告白をしてしまったのだ。
こう書くと、言い訳がましくて
我ながらムッとしてしまうような表現だが、
本当に「好きじゃない女の子」に告白してしまった。
僕が告白した女の子の名前は、Mさんとしておこう。
Mさんと僕は友だちの紹介で知り合った。
「お前ずっと彼女いないでしょ?
Mさんっていう俺の彼女の友だちが出会いを
求めてるらしいからさ、
そのつもりで1回、会ってみない?」
と友だちに誘われたのだ。
僕は彼に「まぁ別にいいよ〜」
なんて冷めた態度を気取って返事したけれど、
内心はそのお誘いにすごく前のめりだった。
なぜなら正直、僕はそのころ
「彼女がいる」というステータスを必死に求めていたからだ。
「20歳の大学3年生なのに、
今まで彼女いたことなし、告白したこともなし」、
僕はそれを周りの男友達からバカにされ続けていた。
いや友だちは悪意があってバカにするというよりは、
その場を盛り上げる一環として
僕をそうやってイジってくれていたのだと思うし、
僕自身もそれを自虐にして笑いを取っていた。
けれど心のなかでは
「今まで彼女がいたことがない」、
その事実がコンプレックスとして
歳とともに肥大し続けていたのだ。
やっぱり彼女ができたことがないのは、
僕にとってすごく恥ずかしいことだった。
だからMさんと知り合ったときは、
どうにかしてこの子と付き合いたいなあと思った。
Mさんは客観的に見て、
おとなしくて可愛いらしい女性だった。
僕は2回、映画を観て夜ご飯を食べるデートを
しただけで、次会うときに告白をすることに決めた。
その2回のデートの感触は悪くなかったし、
とにかく彼女をつくりたくて焦っていたのである。
でも次のデートの約束をする前に、
さすがにしっかり1回考えた。
「Mさんが好き」というよりは
「彼女というステータスが欲しい」
という浅ましい気持ちが強いことは
自分でも気づいている。
「お前、本当にそんな最低な気持ちで
告白していいのか!?」
と何度も自問自答した。
それでも僕は告白することに決めた。
「まあ今は好きじゃなくても、
告白してもし付き合えたら、
そのうち好きになってくるんじゃないの?」
と甘い見立てをしたのだ。
あとは仲のいい友だちに
「こんな可愛い女の子と付き合えるチャンス、
お前の今後の人生でないかもしれないぞ?」
と言われて、
「これは人生最大のチャンスなんだ!」
と自分自身で思い込んでいた。
そしてとうとう告白をする日がやってきた。
その日も新宿で映画を観て夜ごはんを食べる
ワンパターンなデートだ。
具体的にどうやって告白するかは決めていなくて、
夜ご飯から帰り道までのどこかで
告白できればいいと思っていた。
あっという間に時間は過ぎていき、
夜ご飯を食べ終わって、レストランの外に出て、
僕はがく然としていた。
「告白ってどんなタイミングで、
どんな場所で、どんな言葉ですればいいんだ!?」
正解がない問いだとは思うけれど、
自分なりの答えすら出てこなかった。
「いきなり会話をさえぎって告白し始めていいのだろうか、
それともやっぱりそれっぽいロマンチックな雰囲気に
なるのを待ったほうがいいのか、
いやそんなロマンチックな雰囲気なんて
俺には演出できないぞ」、
そんな考えをぐるぐる巡らせて、戸惑った。
でもその日の僕にとって
「告白」は恋心を伝えることではなく、
絶対今日中にやらなきゃいけない課題、
夏休み最終日の夏休みの友みたいな存在に
なっていたから、
とにかく告白せずに今日は終えられないと思った。
結局、駅の改札に来てしまって、別れ際に
「あっ、あの、、、Mちゃんのこと、
好きなんで付き合ってください」
とボソッと挙動不審になりながら告白した。
これが人生初の異性への告白だ。
緊張しすぎて、正直あんまりそのときのことを
覚えていないのだが、
本当に僕は気味が悪くて情けない姿だったと思う。
でもMさんからいただいた返事は
「いいよ」
だった。
嬉しいというよりはホッとした。
その日、Mさんと別れたあとの帰りの電車のなかで
実感が湧いてきて、初めてできた彼女という存在に
期待で胸を膨らました。
いっぽうで心のなかにわだかまりみたいなものも
生まれていた。
「告白してOKしてもらったのに、
正直そこまで嬉しさはないし、
やっぱり好きじゃない人に告白するなんて
ダメだったんじゃないかなあ」、
そんな考えが頭から離れなかった。
そして案の定、ダメだった。
Mさんと付き合ってから、
逆に僕の苦悩の日々が始まるのである。