- ーー
- こんにちは。
今日はありがとうございます。 - 中嶋
- いえいえ。
- ーー
- とつぜん思い出の音楽のお話を
聞かせてくださいなんて
困ってしまったかもしれないのだけど、
plentyの『plenty』ということで。 - 中嶋
- はい。
あの、実は迷っちゃったのが、
俺中学校のときって
あんまり音楽を聞いて生活している方ではなくて。
ピアノを習ったりギター弾いたりするぐらいで、
部活も忙しくて。 - ーー
- おお、意外だ。
- 中嶋
- 高校に入ってだんだん聞くようになってきたときに、
今度は、自分の好きな曲だけとか
好きなアルバムだけ聞くのは
いかがなものかと思って、
ずっとiPodクラシックに入っている曲を
アルファベット順に1回ずつ聞いていて。
好きなバンドの曲も
ルーティンの中の1回でしか聞けなくて。
だからそんなに突っ込んで聞いたアルバムはないなぁって。
勝手に自分で決めていただけなんですけど(笑)。 - ーー
- どうしてそんなルールを?
- 中嶋
- 正直、1回聴いただけで
「これいい」って思わないじゃないですか。 - ーー
- 確かに。
- 中嶋
- アルバムだったら
好きな曲もあれば、どうでもいい曲もあるし
と考えると、
結局自分が好きになった曲は、
他の曲に比べて
自分が聴いている量が多いから
好きなんじゃないかと思って。
とりあえず、聞けば好きになるのかなぁと、
狭いジャンルの中でだけですけど、
必死に順番に聞く生活をしていました。 - ーー
- なるほど。
この『plenty』を、
「このアルバムにはお世話になったんで」
と言って選んでくれたのは
どういう意味だったんですか? - 中嶋
- ちょうど高3の終わりに
受験もなかったので教習所に通っていたんです。
ずっと一人で通っていて、
事前に予約をするのが嫌で、面倒臭かったので、
めっちゃ早朝に行って
キャンセル待ちの1番のところに名前を書いて
ずっと待っていたんですけど。
教習所って延々と音楽が流れているんですね。
自分の聞きたくない曲を、
待っている間に何回も何回も聞くのが嫌で、
『plenty』をずっとループしていたんです。 - ーー
- そのときにはルーティンのルールではなく?
- 中嶋
- そのときには別ルールがあって(笑)
iPodは順番、iphoneは何でもOKというので、
教習所ではiphoneで聞いていたんです。 - ーー
- いろいろあるんですね(笑)
教習所で『plenty』というのはどうしてだったんですか? - 中嶋
- そのときに好きだったっていうのもあるんですけど、
割と……
俺は割とずっと中学校、高校もあんまり友達がいなくて。
中学校のときは
そういう状況に陥っちゃったところがあるんですけど、
高校でも部活以外は友好関係がない
みたいな生活をしていて。
教習所は孤独の境地みたいな場で
二度と行きたくないと思うんですけど、
孤独が、一人が突きつけられる感じがすごくあって。
教習所は家からも近かったので
本当に引きこもりみたいな感じで、
『plenty』は割とそういうところがあるというか。 - ーー
- そういうところ?
- 中嶋
- 江沼さん(plentyのVo,G)は、
「一人になりたくない」
って感覚があるんじゃないかなって、
それが自分に近いなと思っていて。
僕も一人でいるのが好きな人間ではないんですけど、
一人になるようなことをしていた、というか。
『plenty』を作っていたときの
江沼さんの状況がマッチしていた。
一人でいるのがいいっていうのではなくて、
嫌だなって思いながら歌っている部分が、近いなって。 - ーー
- その話をもう少し聞いてもいいですか?
- 中嶋
- 俺は…… なんだろう、
中学生のときはすごく抑圧された生活をしていて、
自分をなるべく出さないというか、
求められているふうに生きていくみたいな感じで。
例えば、ずっと1年生のときから3年まで
学年の学級委員長の長をしていて。
成績も良かったんで、先生方も期待しているというか
変なことはしないだろう、という感じで。
ちゃんとして、服装もきちんとしようと思っていて。
部活もバレー部で成績をちゃんと残していて、
合唱もずっと指揮者やって、
式典でも必ず指揮やらされて、
区のイベントでも指揮やれとか言われて
やっていたし。
みんなにいい顔をしていたというか。 - ーー
- はい。
- 中嶋
- 中学生のときって、
みんなちょっと校則破ったりするじゃないですか。
廊下走るだのスカートめくるだの、スカート短くするだの。
そういうふうにみんながある程度しているところに
入っていって仲良くなっちゃうと、
なんか良くないんじゃないかと思っていて。
そういうふうに波風立たないように生きていると
クラスでもまとめる立場になるんですけど、
友達ができないんですよね。
誰かに注意するというか、
先生から言われたことを
伝える側の人間になっていたというか、
嫌われていたとかは全然ないんですけど、
みんなが思っている自分、
先生とか他の生徒が思っている自分として
3年間生きることになって。 - ーー
- はい。
- 中嶋
- バレー部もめちゃくちゃ厳しくて、
しょっちゅう怒られて
夜の8時くらいまで練習させられたり、
外でずっと声出しでランニングして。
恋愛禁止の部活で、怒られて坊主にしたりとか、
ほんと昭和みたいで。
でもその当時は、
自分の中ではそれが正しいと思っていて、
それしか生きるすべがないと思っていて、
結局そのせいでなんとなくこう、
一緒に遊んだりする友達もできなくて。
そこから解放される高校に入ったんですよ。 - ーー
- 抑圧されていたのとは違う場所に。
- 中嶋
- うちの高校は自由で、全然手伝ってあげないけど、
何してもいいよっていうところなんですけど。
私服もオーケーだし、もちろんバイトもしていいし、
バイクで来てもいいし、
ピアス金髪全然オーケーですよって環境で。
それでバレー部に入ったんですけど、
俺がそのとき感じたのは、
俺は言われないと、
ある程度期待されたり、やるだろうって思われないと
何もできない、しないんだなって思って。
好きなバレーボールしか本当にやらなくて。
勉強も、留年しない程度に
やればいいかなぐらいに思っちゃって。
ああこっちが本当の自分なのかなって思ったんですよ。 - ーー
- 全然違う環境に行って、気がついた……。
- 中嶋
- 結局友達もあんまりできなくて。
自分の生活に関して言えば、
ある程度強制されないと、
例えば、受験みたいな
どうしても受からないといけないみたいな状況がないと
勉強しないというのを悟ったというのと、
みんなが思っている自分でいようが、
好き勝手生きていようが、
友達できないんだな、
あんまり変わらないのかって思った。
結局大学入っても
こんな感じになるのかなってすごい思って。
それが俺嫌だったんですよね。
友達がいないっているのが。
仲良く話せる友達がいないっていうのが
すごいそのときはストレスで。 - ーー
- はい。
- 中嶋
- というときに、
俺の中では孤独の象徴のような教習所に通っていて、
『plenty』はそういう気持ちを
全体的に肯定してくれたっていうか、
それでいいんじゃないのって
言ってくれた感じがあったんですよね。
言ってみれば、
適当に生きていても3年間生きていけたというか、
そんなんで一生変わんないなって。大学に入ったら友達もできたんですけど、
その当時は未来のことはわからないんで、
また同じことの繰り返しなんじゃないかって不安で。
こう、わーみたいな楽しい曲は聞けなかったんですよね、
教習所では。
そんなに音楽を知らない中で、
『plenty』というアルバムが
しっくりきたという感じなのかな。

中嶋くんと蒼き日の少年と、音楽の話。
担当・さとうめぐみ
ふとした瞬間に
頭の中に流れてくる音楽があります。
通学列車の中で自分を奮い立たせてくれた曲。
自分をダメだししてくれた曲。
自分の気持ちとぴったり重なった曲。
音楽は、私が思っているよりもずっと、
たくさんの私の記憶を含んでいるような気がします。
中嶋くんは、私と同じ大学4年生。
音楽が好きな男の子です。
思い入れのある音楽として、
plentyというバンドの『plenty』というアルバムを
あげてくれました。
深みのある蒼色を背景に
関節人形が地面に向かって落ちていくジャケット。
2012年、私と中嶋くんが
高校2年生のときにリリースされたアルバムです。
中嶋くんの人生に『plenty』は
どんなふうに関わっているのか。
全2回でお届けします。