糸井

「お天気がいいですね」じゃなくて、
「売れてますね」（笑）。

一同

（笑）

古賀

ありがとうございます（笑）。

糸井

ミリオンセラーって、一種裏方商売のつもりで
生きてる人にとっては、不思議な実感ですよね。

古賀

そうですね、はい。

糸井

だからその意味で、今回の対談よりも、
ご自身のツイッターとかnoteとかの、
漠とした話の方が面白いかもしれない（笑）。

古賀

そうですかね（笑）。

糸井

漠と、どうですか。

古賀

やっぱりおっしゃる通り、
ずっと裏方の仕事という意識でやっているので。

それで普通の作家さんだと、これだけ売れたんだぞって、
ちょっと天狗になるような瞬間ってあると思うんですけど。
自分の立ち位置からすると、そうもいかなくて。
それでも、昔から100万部いけば、
さすがに自分も天狗になるだろうと思ってたんですよ。

糸井

うん。

古賀

で、僕、こういう言い方もあれなんですけど。
ミリオンセラーというのを初めて経験して、
１つわかったことは、みんな全然知らないんですよ、
『嫌われる勇気』っていう本のこととか…

糸井

とかね（笑）。

一同

（笑）

古賀

ミリオンセラーって、やってみる前は、
あまねく人たちの所に届くなのかなって思ってたんですけど。

糸井

うん。みんな大騒ぎしてますもんね。

古賀

みんな全然知らないし、誰にも届いてないなって。
もちろん100万人という数はすごく、
ありがたいことなんですけど。

糸井

うん。

古賀

このタイミングがきたら、
もうちょっと偉そうに世の中にいろいろ発信したりとか、
もの申すみたいな活動を躊躇なくできるようになるのかなと
思ってたんですけど、全くできないですね。
実感がないのか。

糸井

躊躇していたんですか？

古賀

言いたくなるんだろうなと思ってたんです。
「俺の話を聞け」っていう欲求が、
僕にはほんとにないんですね。
「この人の話を聞いてください」なんですよ、基本的に。

糸井

うん。
「この人が考えてること、僕はとても好きなんです」とか、
それは、ストレートに伝わってきます。

古賀

…よかったです。
今も、僕がマイクを渡して
「大きな声で言ってください」って
言いたくなるような人を、常に捜し回ってる状態というか。

糸井

何でしょうね。
今までの人が声高に何かを言ったり、
トーンを切り替えたりするってことが
多すぎたんでしょうね。

古賀

そうですかね。

糸井

ラーメン屋さんでも繁盛すると、
国の税制についてとか語りだすじゃないですか。

古賀

（笑）糸井さんは、そういう経験はありましたか？

糸井

僕の場合は、天狗になってないと思ってるのに、
過剰に攻撃されたり、無視されたりすると、
そこまでチンケな人間じゃないってことは言いたくなって。
それに対して矛と盾で言うと、
盾のつもりで肩を張る、ということがありましたね。
結果、ならなかったつもりでいたのに、なってる。

古賀

わかります。

糸井

あとは、過分に褒められても、30代あたりから、
そんなことないって言えなくなってくるんです。
だんだんと、何をやってきたかとか、
何を考えたかって自分でわかるようになってから、
ああ原寸大がいいなって思うのであって。

古賀

…そうですね。
でも糸井さんの、特に30歳ぐらいからの、
いろいろメディアに出たりしてた活動って、
コピーライターっていう仕事を
みんなに認知させる「業界のために」みたいな意識も
たぶんあったんじゃないかと思うんですよね。

糸井

それはね、
当時は自分でもよくわかってなくて。
でもたぶん厳密に言うと、
嘘だったと思うんです。
「業界のために」っていう言い方、
みんなよくするんですよ。その方が楽だから。

一方で、お笑いの人がよく言うじゃないですか。
「若手の芽を摘んでやる」とか。

古賀

言いますね。

糸井

あの方が、ちょっと本気な気がして。

古賀

…はい（笑）そうかもしれない。

糸井

エゴだっていう言葉で言い切るつもりもないんだけど、
自分の居やすい状況を、人は誰でも作りたいんですよ。
でも、仲間の作る本が売れたら、
業界のためとかじゃなくて、素直に、嬉しい。

古賀

はい。

糸井

古賀さんも今、batonsという小さい組織を作って。
自分ちの子がヒットすると、嬉しいですよね。

古賀

そうですね。
自分のこと以上に、嬉しかったですね。

…前はもっと露骨な出世欲みたいなのがあったんですよね。

糸井

１人の方がね。

古賀

１人の方が。
ライターの中で一番になりたいとか…
あいつには負けたくないとか、
そういうチンケな欲はすごくあったんです。
今それがあるかというと、そこで競争して消耗するのは、
なんか勿体ないなという気持ちがあって。
結局その中しか見てないわけなので、そこって。
外に目を向けた時の面白さを、
今ようやく知りつつある感じですね。

＜つづきます＞

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え
岸見 一郎 (著), 古賀 史健 (著)

本の存在は知っていたのですが、
「自己啓発」という言葉に抵抗があったりして、
なんとなく手が伸びなかったんです。
読んでみたら、目からウロコが落ちました。

格好つけず、人間らしくて、
わたしのような文章慣れしない人にも分かりやすい。
古賀さんの人柄が伝わってくるような気がしました。
まだ読んでいない方、ぜひどうぞ。
（ながしま）