- 糸井
- こんにちは。どうですか、最近。
心境は何か変わりましたか。 - 古賀
- それが驚いているんです、僕。
今回、自分でこういう言い方もあれなんですけど、
初めてミリオンセラーを経験してわかったことがありまして。 - 糸井
- はい。
- 古賀
- みんな全然知らないんですよ、『嫌われる勇気』っていう本のこととか。
- 糸井
- とか(笑)
- 古賀
- ミリオンセラーって、やってみる前は、あまねく人達の所に届くもので…
- 糸井
- 大騒ぎされて。
- 古賀
- って思ってたんですけど、みんな全然知らない(笑)
- 糸井
- (笑)
- 古賀
- 100万部いけば、さすがに俺も天狗になるだろうと思ってたんですよ。
- 糸井
- 100万部という数字にね。
- 古賀
- そうです。
で、もうちょっと偉そうに世の中にものを申すみたいな活動を… - 糸井
- ほう。
- 古賀
- ずっと裏方という意識で
「こんなに素晴らしい人がいる、みんな聞いてください!」
でやってきて、その中のメソッドは積み重ねてるので、
そこを大声で言いたくなるだろうなと思っていたんです。
が、それが未だに全くない。
マイクを渡して「大きな声で話してください」と言える
次の人を捜し回ってる状態です。 - 糸井
- それは、そのままストレートに伝わってきます。
- 古賀
- (笑)

- 糸井
- 何でしょうね。今までの人は周囲からの目が変わって、
急に声を高くしすぎたんでしょうかね。 - 古賀
- というと。
- 糸井
- ラーメン屋さんも繁盛すると、国の税制について語りだす。
- 古賀
- ああ(笑)
- 糸井
- そして自分の場合は、なったんですよ、きっと。
- 古賀
- どれぐらいのタイミングですか。
- 糸井
- 30歳そこそこで。
- 古賀
- へええ。
- 糸井
- 過剰に攻撃されたり、拍手を受けたりする、
それに対しての盾のつもりで肩を張るんですね。 - 古賀
- わかります。
- 糸井
- そんなところに俺はいないよっていうか、
そこまでチンケな人間じゃないというようなことは言いたくなって。 - 古賀
- はい。
- 糸井
- 例えば女子大から講演の依頼があった時に、
俺に言うことなんかあるはずがないじゃないですか。 - 古賀
- そうかも知れない。
- 糸井
- なのに「やってくださいよ」なんて言われると
悪い気はしなくて、
鼻の下長くして「行こうか?」なんて。
結局のところ、楽しいのは控え室までだけど(笑)

- 古賀
- でも糸井さんの活動って、たぶんですけど、
コピーライターの仕事を認知させる意識もあったんじゃないでしょうか。
例えば極端な話、
「たった1行でそんなお金もらっていいね」
みたいなお話に対して、
「いやそんなことないよ」って言いたい気持ちと、
敢えてそこに乗っかって
「俺は1行で1000万なんだ」みたいに吹聴する気持ちと
両方あったんじゃないかと思うんですけど。 - 糸井
- それはね、当時は自分でもよくわかってなかった。
そしてたぶん厳密に言うと、
言っていたことには嘘があったと思うんです。 - 古賀
- はい。
- 糸井
- 若かろうが老いていようが、
大手にいようが中小にいようが、
「業界のために」っていう言い方はよくしますよね。
自分がサーカスの団長だったとして、
「サーカス面白いよ」って言われるようになって、
「これからもサーカスの火を絶やさないようがんばります」って。
そりゃつい自然と言っちゃいますよね。 - 古賀
- そうですね。
- 糸井
- サーカス業がうまくいっていた方が自分もうまくいくから。
自分のいやすい状況を、人は誰でも作りたいんですよ。 - 古賀
- それは、今振り返っての。
- 糸井
- そう。でも業界を盛り上げるって、考えればライバルを作ることですから。
お笑いの人が「俺はイケてる若手の芽を摘んでやる」とか言うじゃない。 - 古賀
- はい、言いますね。
- 糸井
- そっちの方がちょっと本気な気がして。
業界にどんどん若くてイケてるヤツがやって来ることを、
「いいですね」ってプレイヤーとしては言わないよなって。

- 古賀
- ですよね。
でも僕はやっぱり、つい業界のためって考えちゃいます。
自分が新人だった頃は、こんな格好いい先輩たちがいた。
今の自分らがそれになれてるんだろうかとか。 - 糸井
- そうですね。
- 古賀
- 若くて優秀な人にとっては今、端的に言って、
ネット業界の方がキラキラして見えるはずなので。
だから多少のキラキラを演出した方がいいのかな、とか。 - 糸井
- キラキラ。
- 古賀
- 例えばサッカーの本田圭佑さんが
白いスーツ着て成田空港に降り立つ感じとか。 - 糸井
- あれは、あえてやっていますよね。
- 古賀
- はい。
ああいう演出、
出版業界の人間も多少はやった方がいいのかなと。

- 糸井
- 今、ネットの方が華やかに見えるって言うけど、
あれやってる人は、痙攣的に楽しいんじゃないですかね。
楽しいとしたら。 - 古賀
- 痙攣的。
- 糸井
- そう、ピリピリするような。
- 古賀
- うん。
- 糸井
- 追い抜く方法を自分でわかっていながら、
追い抜かれるのを待つみたいなところがあるから。 - 古賀
- うんうん。
- 糸井
- 僕がコピーライターやってる時にも、
それの浅いやつはありましたよね。
でも僕の時代が月刊誌の尺度で動いてたとしたら、
今って週刊さえ超えて、時間単位ですよね。
“俺は裏の裏まで読んでるんだごっこ”を
ピリピリしながらやっている。 - 古賀
- 物凄いスピードの中で。
- 糸井
- でもね、それだけでは何にも育たない気がするんですよ。
働くことは、気休めですか?
100万部を超えるベストセラー『嫌われる勇気』を著した、
ライター古賀史健さん。
『ほぼ日刊イトイ新聞』主催である糸井重里に、
ミリオンセラーを生んだ後の心境の変化を語ります。
「仕事、ほんとは好きじゃないんですよ」
「僕もです。でも色々手掛けちゃうのは、
なんなんでしょうね」
そんなふたりにとって今働くこととは―――。
