- 糸井
- やっぱり最初の一言は
「お天気がいいですね」じゃなくて、
「『嫌われる勇気』売れてますね」ですね（笑） - 古賀
- ありがとうございます（笑）
- 糸井
- 「おれのつくったものが売れている」
っていうのは、
裏方商売のつもりで生きている人にとっては、
不思議な感覚ですよね、おそらく。
- 古賀
-
おっしゃるとおり、
僕はずっと、
「自分は裏方だ」という意識でいて。作家さんとか著者さんだと、
「これだけ売れたんだぞ」って、
天狗になるような瞬間が
あると思うんですけど。 - 糸井
- そう言いたいですよね。
- 古賀
- でも、「自分は裏方だ」と
ずっと考えてきたところからすると、
天狗になるのもおかしな話で。 - 糸井
- うん、うん。
- 古賀
- 昔から思ってたんです。
「100万部いけば、さすがに僕も天狗になって、
もうちょっと偉そうに、
考えてることを発信したりとか、
世の中にもの申す！ みたいなことを
ためらいなくできるようになるのかなあ」って。
でも、まったくできないですね。
実感がないのか……なんなのか。
- 糸井
- いままで、ためらってたんですか（笑）
- 古賀
- うーん、100万部いったりしたら、
もっと言いたくなるんだろうなと思ってたんです。
「俺の話を聞け！」って。
でも、僕はほんとにないんですね、
「俺の話を聞け！」という欲求が。 - 糸井
- 欲求がない。
- 古賀
-
僕の仕事の大元にあるのは、
「この人の話を聞いてください！」って
いう気持ちなんです。
「こんなにすばらしい人がいる！」
「みんな聞いてください！」
っていう、拡声器になったような気持ちで、
ずっとやってきていて。そうは言っても、
「ある人の声を大きくして伝えるためには、
こうした方がいいよ」
というメソッドは積み重ねてきたので、
その方法論について、きっと
大声で言いたくなるんだろうなと思っていたんですけど、
それがいまだに、まったくなくて。それで、次の「この人」というか……
自分が好きになる人だったり、
僕がマイクを渡して
「すばらしい、もっと大きな声で言ってください」
って言いたくなる人を、
捜し回ってる状態ですね。 - 糸井
- それは、古賀さんの言動を見ていると、
そのままストレートに伝わってきます。 - 古賀
- あっ、そうですか（笑）
- 糸井
- これまでの人が、「売れたから」といって
いきなり声を高くして語りだしたり、
いきなり立場を切りかえたりするってことが
多すぎたんでしょうかねえ。 - 古賀
- はあはあはあ、そうですね。
- 糸井
- ラーメン屋さんでも、
繁盛するといきなり、
国の税制についてとか、
語りだすんだよねえ。 - 古賀
- はいはいはい（笑）
- 糸井
- ぼくも、それはずっと心配してたことで。
ぼくの場合は、なったんですよ。
ならなかったつもりでいたのに、
なってたんですよ。 - 古賀
- どれぐらいのタイミングですか？
- 糸井
- 30歳そこそこで。
過剰に攻撃されたり、
無視されたりするのが聞こえてくるので、
それに対して、肩肘をはるような態度をとるんですね。
矛と盾で言うと、盾のつもりで。 - 古賀
- ああ、わかる……わかります。
攻撃したいわけじゃなくて、自分を守るみたいな。 - 糸井
- それなのに、お座敷があって座布団があると座る、
ってなことをするんですよね。 - 古賀
- 求められたらやっちゃう、ということ。
- 糸井
- ちょっと気持ちがよくてやっちゃうのは、
女子大で講演してもらえませんか、とか。
よく考えたら、
そこで言うことなんか、
あるはずないじゃないですか。
なのに、「やってくださいよ」なんて言われると
悪い気しなくて、鼻の下長くして
「そう？ 行こうか？」なんつって。 - 古賀
- （笑）
- 糸井
-
でも結局のところ、
楽しいのは控え室までで。
いざとなったら、
そんなにぼくの話を聞く気の人がいるとも思えないし、
やってはいけないことをやったかな……
というような感じでいました。あとはテレビですよね。
テレビで仕事をしている肩書きがあると、
会いたい人に会えたりするので、
それはもうほんとにはっきりと、
よかったなと思うんですね。
でも、そのおかげで、
余計な拍手やら、
余計なそしりやらを受けて。 - 古賀
- 拍手も余計ですか。
- 糸井
-
余計ですよね。
だって、ほんとうは、
そんなにすごいわけじゃないです。
でもだんだん、過分にほめられても、
「そんなことない」って言えなくなるんです、
30代くらいは。
「黙ってることによって認める」みたいな。無意識のうちに、
営業上そのほうがいいと
思っていたのかもしれないけど、
「天才だね」とか、
「言葉の魔術師だね」とか言われても、
否定しないんですよね（笑）。でもだんだんと、
自分はなにを、ほんとにやってきたかとか、
なにを、ほんとに考えたかっていうことが、
自分でわかるようになりますから。「ああ、原寸大がいいな」って、
思うようになるんです。