- ━━
-
今から5年ほど前のことになりますが、
臼澤さんに結婚指輪を作っていただきました。
当時、僕は正直いって結婚指輪というものに
まったく興味がなかったんです。
親が付けてなかったという影響もあると思うんですけど、
どうも必要性が感じられなくて。
ただまぁ、奥さんになる人が欲しいって言うし、
「結婚するって、そういうことだもんなぁ」と、
半ば義務的な気持ちで結婚指輪を探していたんです。
- 臼澤
- 男性はそういう方が多いですよ。
- ━━
-
だけど、決して安い買い物ではないし、
長く身に付けるものだから、
「何でもいいや」って気持ちにはなれなくて。
そこからいろいろ考え始めて、
分厚い結婚雑誌を買ったり、ネットで調べたりして、
気づけば、興味がなかった結婚指輪について考える時間が
多くなっていたんです。
どうせ作るなら、気に入ったものにしたいし、
納得のいくものにしたいなと。
そんな時に、出会ったのが臼澤さんでした。
- 臼澤
- はい。
- ━━
-
その頃、僕たちはいろんなブランドの商品を
見て回っていたんですけど、
どうもしっくりこなかったんですよね。
原因として思い当たることは2つあって、
ひとつは「どれを選んでも誰かとかぶりそうで嫌だなぁ」
という気持ち。
もうひとつは、
「特別な買い物だ」という想いが大きくなっていた分、
「今だと、少しお求めやすくなっていますよ」というような
ビジネスライクな対応をされることに抵抗があったんです。
最終的な決め手になるのが値段っていうのは、
ちょっと違うよなって。
- 臼澤
- はい、はい。
- ━━
-
その点、臼澤さんは商売っ気がないというか、
最初にお会いした時、
結婚指輪を探していると伝えたにも関わらず、
商品とか予算がどうこうってよりも、
話した内容のほとんどが、
「職人としてどんな想いで仕事をしているか」
ってことだったんです。
他のブランドは、
「売ることに力を注いでいる」という印象だったの対して、
臼澤さんは、「作ることに力を注いでいる」という
スタンスに感じられました。
あまりに商売の話をしないから、
最後にとんでもない見積もりを出されるんじゃないかって、
不安になったくらいなんですけど。
- 臼澤
-
ははは(笑)。
ジュエリーって、他とはちょっと特性が違うと思うんです。
物ではあるんだけど、
そこには持つ人の〝想い〟が込められているんです。
約束とか、決意とか、思い出とか。
例えば、結婚指輪だったら、
夫婦としての始まりを記念するものだし、
一生物になるはずのものだから、
そこには2人の想いっていうのが入ってくると思うんです。
- ━━
-
そうですよね。
身に付ける物にコダワリがないという方でも、
結婚指輪については、
何かしら思い入れやエピソードを持ってますもんね。
僕の場合は、いろいろ見て、悩んだんですけど、
最終的には、直感で臼澤さんにお願いしようと決めました。
臼澤さんの作品のことはあまりよく知らなかったんですが、
話をしていてワクワクしたんです。
「こんなこともできるんだ」、「あんなこともできるのか」
とか思って。
- 臼澤
-
どんなものを作ろうか話しているのは、
僕も楽しいんですよ。
- ━━
-
だけど、正直不安も大きかったんです。
既製品と違って、オーダーメイドは、
出来上がってくるまでは実物が見れないじゃないですか。
頼りになるのは、
臼澤さんが書いてくれたイメージ図だけで。
だから、完成品を見るまでは、けっこう不安な日々でした。
- 臼澤
- はい、はい。
- ━━
-
でも、結果的には
予想を超える素晴らしい指輪を作ってもらえて、
不安だった分、すごく嬉しかったんです。
僕も彼女も。
- 臼澤
-
職人としては、
「良い意味でお客さんの期待を裏切りたい」っていう、
そこに尽きるんですよね。
- ━━
- これは、本当に一生物だなと思いました。
- 臼澤
-
今、売られている指輪は、
型に金属を流し込んで作るのが主流なんです。
つまり、地金を叩いて鍛えるという工程を経ずに
指輪を作っているという状態です。
だから、すぐに変形してしまったり、
曲がったり、折れたりってことも起こるんですよ。
だけど、結婚指輪って、プロミスリングなわけだから、
変形したり、折れたりするのは、よくないですよね。
変形しないような素材を使って、
量産品を作っているところもありますけど、
そうなると今度はサイズ直しができなくなるんです。
- ━━
- なるほど。
- 臼澤
-
本来、ジュエリーって、
親から子へ、子から孫へと受け継がれていくものだから、
サイズを直しながら長く使っていくものなんです。
うちは、オーダーメイドの他に、
お直しもやってるんですけど、
他社さんで修理を断られたという商品の持ち込みも
多いんですよ。
ブランドによっては、
どうしてもサイズ直しをしたいとなると、
交換になることもあって。
- ━━
-
修理ができないから、
まったく同じ商品の新品と交換するってことですか?
- 臼澤
-
そうです。
今は、インターナショナルブランドでさえ、
そうなってきちゃって。
修理に出すと、「新しいものと交換です」
ってことがあるんですよね。
同じ指輪の、在庫があるので。
- ━━
-
それって物として愛着が湧かないですよね。
傷がついたとしても、
その傷にすら思い入れがあったりするじゃないですか。
さっきの話でいえば、身に付けることによって
指輪に対する想いも強くなっていくし。
電化製品とかならまだ、
「品物が一緒だったら、新品の方がいいか」
ってことになるかもしれないけど、指輪はね‥‥。
- 臼澤
-
そうそうそう。
だから、ジュエリーをひとつの物としてしか
見てない業者が多いんですよ。
「その捉え方って、工業製品に近いんじゃないの?」
って思うんですけど。
ジュエリーっていうのは、
良い意味でも悪い意味でも趣向品なんです。
そういう意識が、今は薄れてきてるのかもしれませんね。