日本酒の原料は、お米。
わたし達が普段口にしている食用米ではなく、
酒造に適した「酒造好適米」というものを、
それも多くの場合、使用しています。
数多くある「酒造好適米」の種類の中でも、
多くの酒造家から愛されるのが、山田錦。
ときに酒米の王様、横綱とも称されます。
▲剣菱酒造で使用している山田錦
山田錦の生産量の約80%は兵庫県産。
特に、三木市や加東市の一部地域は、
粘土質の土壌、寒暖差、良質な水、
夕陽を遮ってくれる山がすぐ横にある…、
といった「酒造好適米」を作る上で、
最高の条件が整っているため、
「特A地区」と呼ばれ、
国内最高峰の「酒造好適米」として、
全国の醸造家、憧れの存在として輝いています。
山田錦の「特A地区」。
そのひとつである、兵庫県吉川町に行き、
吉川地区村米部会長の五百尾俊宏(いおおとしひろ)さん
に、お話をおうかがいしました。
- 五百尾
-
去年2016年、山田錦が試験場で命名されてから80周年。
(造り)酒屋さんの要望があって、
ずっと山田錦を大事にしてきたんですわ。
- ともみ
-
吉川町はみなさん、
山田錦を作られてるんですか?
- 五百尾
-
そうですね。
うちの所はみんな山田です。
特A地区の中にも、
さらにA~Cまでありまして、
- ともみ
-
えっ、
特AのAとかCとかあるんですね。
- 五百尾
-
そうです。
吉川は、特A地区のA地域。
地域は全部Aランクっていうのは、
たった3か所だけ。
生産地として、優秀な産地ですわ。
せやからあれですな、
気象条件や土壌の条件、
それから作る人の情熱があいまって。
それから造り酒屋さんが、
その米を大事に大事にしてくださって、
お互いの信頼関係があって続いてきた、
というのがありますわ。
- ともみ
-
良い山田錦を作る方法って、
なんですか?
吉川の米の品質を守るために、
みんなで情報共有したりするんですか?
- 五百尾
-
まぁ、そら情報共有っていうか、
栽培基準いうのはありますけど。
あと細かいところは、
とにかく田んぼを見ること。
山田錦と話をすることに尽きます。
- ともみ
- 山田錦とお話、ですか?
- 五百尾
-
同じ吉川町っていっても、
それぞれの田んぼによって、
斜面だったり、平坦だったり、
少しずつ条件が違います。
同じことをやったからって、
良いとは限らないんですわ。
- ともみ
-
じゃあ代々ノウハウみたいなものを、
伝えていって、
自分でも見つけていくしかないんですね。
- 五百尾
-
そう。もう80年やってきてますから、
代々おじいさんからお父さん、
息子から孫へ、
段々伝わってきとんですわ。
家ごとの流派みたいなものがあります。
だから生産者の名前見ただけで、
「お、ここの米はええ」というのがあるわ、絶対に。
上手な人は山田錦と話をしながらね。
やってますよ。
- ともみ
-
五百尾さんのおうちは、
代々農家なんですか?
- 五百尾
-
そうや。お父さんもおじいさんも。
みんな山田錦を作ってきました。
- ともみ
- いつから米作りをしてるんですか?
- 五百尾
- 定年してからだから…
- ともみ
-
あれ?若いころからじゃなくて、
他の仕事をしてて、
定年してから始められたんですか?!
- 五百尾
-
そうです。JAに勤めてて退職してから。
この辺はみんな兼業農家で、
サラリーマンしながら土日で農業してるか、
定年してからの人がほとんどですよ。
- ともみ
-
酒米って高く売れるって聞いたので、
ある程度の年で、親から継いで、
みなさん、それだけやってるのかと。
- 五百尾
-
いやいや、
今の農業いうのは、構造的な問題があるんですわ。
作業する日なんてなんぼも知れとるけど、
コンバインやらなんや、何百万のもの買うてね。
使うのは1年に2日や3日。
あんまり使わんから、壊れやすくて整備も、
これまたお金がかかるやろ。
- ともみ
-
高齢化など、
みんな同じような悩みを抱えてると思いますけど、
わたし達が「じゃあ始めるぞ!」って言ったって、
代々やっているんじゃなきゃ、
お金がないとできないですねぇ。
- 五百尾
-
田んぼの大きさが限られているから、
若いうちはよそに働きに出る。
でも、この辺から通うって言ったって、
仕事がないでしょう?
だから大阪や神戸や、
都市圏でサラリーマンやって。
定年で田舎に帰ってくればいいけど、
あっちで結婚して、家を建てて。
帰ってけぇへんやろ?
- ともみ
-
親や周りのみなさんがやっているのを、
見ているからこそ、楽じゃないって、
理解していますしね。
自分がもしそうだったら。
うん…わかります。
じゃあ農家さんって減ってますか?
- 五百尾
-
跡取りがおらんようなところは、
たくさんありますわ。
誰か、農協なのか、農業法人なのか、
酒屋さんなのか。
どこかがまとめてやっていかないと。
- ともみ
-
うんうん。それは先日、
剣菱の白樫専務と、農大の穂坂教授と
お話した中でも、同じことを言っていました。
- 五百尾
-
年間通して仕事がないから。
言うたら儲からへんからねぇ。
街で定年した後の人とか、
誰か手が空いてる若い人が何人かおったらええけどねぇ。
- ともみ
-
定年した後の人は、
若い人とカウントされるんですね。
それならやりたい人も、
いそうですけどね!
せっかく今まで80年、
大変なのに、妥協せずにやってきたのに、
田んぼを休ませてしまったら、
しばらく使い物にならない。
時期が来たらやればいいか、ではなくて、
早急に対処すべき問題なんでしょうね。
- 五百尾
-
この辺、段々畑やろ?
草刈りや水入れが大変なんよ。
- ともみ
-
あぁ、それが原因で手放す人もいそう。
五百尾さんのところのお米は、
どこのお酒になるんですか?
- 五百尾
-
うちは、大関さんです。
吉川町は村米(むらまい)制度というのがあります。
38集落あるんですが、
法律とかきちっとしたものじゃないんですけど、
口約束というか、取り決めで、
どこの集落は、どこの酒屋さんって決まってますからね。
剣菱さんなんかにもたくさんお取引していただいてます。
うちで米を収穫したら、
ライスセンターっていう乾燥設備がある場所に、
持っていくんです。
▲ライスセンター
一軒で購入するのが厳しい乾燥機。
それをJAで購入し、
農家さんが使用料を払って、
みんなで共有しているそう。
一般的には、ガスを利用し、
急激に乾燥するのに対し、
JAみのりは「自然乾燥」。
大きな扇風機で自然の風を送り込むので、
お米にムリがかからない。
お米つくり後の処理へのこだわりも、
特A地区である自負と、所以。
- 五百尾
- この辺の米なら、全国の酒屋さんが欲しがります。
- ともみ
-
そうでしょうね。
でも量も決まってますしね。
- 五百尾
-
そう。だから、
基本的には農家と酒屋さんとの信頼関係やな。
フランスのブルゴーニュみたいに、
なったらええけどなぁ。
- ともみ
-
結局は地域性を、
より一層高めるという話なんでしょうね。
- 五百尾
-
みんな若い人は損してまでせんやろ。
情熱があってもお金がないとできないんですわ。
でもまずは、
知ってもらうというのは、大事なことや。
地元の方々の誇りと、
家業を継ぐ責任感、
そして農家さんと酒屋さんとの信頼関係が、
繋いできたバトン。
途切れないよう、
未来へとさらに渡していく必要があります。
(おわり)