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あらためて夫婦で仕事の話をする機会が
いままであまりなかったから緊張するね。
旦那さんにインタビューをする機会もないし。
今日はよろしくお願いします。
- 主人
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緊張しちゃうね。
こちらこそ、よろしくお願いします。
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電車の運転士になって、17年。
普段は、関東圏で電車運転士として働いているけど、
17年間仕事をしてきたなかで、
変わらず意識していることってある?
- 主人
- んー。ヒールの音。
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- え、ヒール?ハイヒールのこと?
- 主人
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そう、ハイヒール。
通勤時間帯、僕の運転しているすぐ後ろの車両は
女性専用車だよね。
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- あー、たしかにそうだね。
- 主人
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列車の発車時と停車時に、背後から「カタカタカタッ」って
ヒールの音が聞こえないようにいつも意識して運転してる。
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- へぇ。それは知らなかった。
- 主人
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「カタカタカタッ」ってお客さんのヒールの音が聞こえた
ときには、ちょっと加速やブレーキがきつかったかなって。
だから次の駅では、少し手前からブレーキをかけようとか、
ゆるやかに加速しようとか、自分の背中で気配を感じて
毎回毎回、運転に反映させてる。
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- それは、ほかの運転士も…
- 主人
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僕の場合は、女性のヒールの音だったりするけど、
電車の運転士はみんな、それぞれの指標をもって
乗務に臨んでいるんだよね。
普段お客さんとして乗っていても、ブレーキがきついなって
思うような停車をする運転士がいるけれど、
その運転士も背中でそういう気配を絶対に感じてると思う。
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電車の運転士って、担当する同じ路線を
走って、止まって、また走っての繰り返しだけど、
すごく技量や集中力が求められているんだね。
電車は自動運転でもいいんじゃないかって声も
聞いたことがあるけれど、運転士が人間だからこそ
できることって、どんなことだろう。
- 主人
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電車の運転って、天候や乗っているお客さんの数とか
その時の状況によっても、変えていかないといけない。
細かな状況判断をして、それをすぐ運転に反映させるのは
やっぱり人間だからできることだと思うんだ。
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- 職人技のようだね。たとえば、どんな風に?
- 主人
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たとえば、車の運転を想像すると分かりやすいんだけど…
雨の日や雪の日は、車両のブレーキが通常時よりも
かかりにくい。車輪がすべっちゃうからね。
そんなときに、急なブレーキをかけても
思うように停車できない。
だから、より手前から、ゆるやかにブレーキをかけていく。
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- それは、雨や雪の降り方や量によっても…
- 主人
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もちろん変わるよね。
あとは、通勤時間帯は列車の本数が増えることによって
列車間隔を調整しないといけない。
車みたいに、車間をぴたりとくっつけることは
できないからね。
さっき、ヒールの音の話をしたけれど、
列車が渋滞しているときに、何度も発車と停車を繰り返すと
お客さんにとっても負担になってしまう。
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たしかに、混んでいる車内は、停車時にバランスを崩さない
ように踏ん張るのってすごく大変だし、負担だなぁ。
- 主人
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だから、状況にもよるけれど、列車が渋滞しているときは
なるべく列車を停車させないように、
ゆっくりでも走らせ続ける。
駅間で電車が止まってしまうと、早く目的地にいきたい
お客さんにとって大きなストレスになるから。
特に、通勤通学で電車を使う人たちは、毎日その状況を
繰り返すわけだからね。
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駅で電車に乗るときに確認する電光掲示板に表示されるのは
何時何分までだけど、運転士はその先の何秒まで守りながら
運転してるんだよね。
- 主人
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そう。僕たち運転士は、どの鉄道会社でも
懐中時計で必ず時刻を確認している。
毎日乗務する前、点呼のときに時計の時刻合わせを
忘れずにやっているよ。
電車の運転士は両手を使って操作するから、
腕時計を見ることができないんだ。
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- そっか。だから懐中時計なんだね。
- 主人
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僕たちは、ただやみくもに電車を走らせているのではなく、
駅間を決められた時間で走らなきゃいけない。
その訓練をずっと続けているから、
たとえ誰かに懐中時計を隠されたとしても、
外の風景が流れていく様子とか、感覚で走行速度がわかる。
電車が遅れているときには、安全を守りながら
できるだけ遅れを戻すように意識して運転しているしね。
定時にお客さんを目的地に届けることも僕たちの
大きな役割だから。安全に、快適に、正確に。
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- 安全に、快適に、正確に。
- 主人
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そう。人の手だから提供できる安全性や快適性が
絶対あると信じて毎日乗務しているよ。
(つづきます。つぎは、
第2回「はじめて電車を運転した日」に停車いたします。)