ほぼ日刊イトイ新聞

感染症のプロ・岩田健太郎先生に聞いた 頭がすっきりする風邪の話。

ご報告が遅くなり、すみません。
2018年2月におこなった
「ほぼ日の風邪アンケート」では、
8503名のかたにご参加いただきました。
本当にありがとうございました。
さまざまな風邪の疑問が集まったので、
今回、その結果を持って、
神戸大学病院感染症内科の
岩田健太郎先生のもとを訪ねてきました。
岩田先生のお話は、とにかく明快。
「正しい」「間違っている。理由はこう」
「そういう説もあるが証明されていない」
など、わかりやすい説明で、
たくさんの疑問に答えてくださいました。
読むと、頭がちょっとすっきりしますよ。
これからはじまる風邪のシーズン、
参考にしていただけたら嬉しいです。

10 インフルエンザの疑問いろいろ。

ほぼ日
インフルエンザの予防接種で
「今年はこの型が流行るだろう」
といったことって、
どう決められているのでしょうか?
岩田
あれは半年前の南半球でのデータをもとに、
WHOが予測しているんです。

南半球と北半球って季節が逆なんですよね。
で、南半球で流行したインフルエンザが
半年後に北半球に来ると予想されています。

南半球で流行したウイルスのなかから
今年流行しそうなものをA型2つとB型2つ、
計4つ選んで、混ぜて作っています。
ほぼ日
じゃあ逆に、南半球のワクチンには、
北半球で流行ったウイルスの結果が
反映されるんですか?
岩田
そうです。

ちなみに、東南アジアとかの赤道直下では、
通年でインフルエンザが流行していると
いわれてるんですね。
日本でも沖縄とかは、
1年中インフルエンザが流行していますので。
ほぼ日
なるほど、面白いです。

では、そのままインフルエンザの質問で、
「インフルエンザになってしまったときは、
どうすればいいですか?」
岩田
家で休むのが基本ですが、
別に病院に行ってもいいですよ。
しんどかったら病院に行って、
薬をもらってもいいと思います。
あまりしんどくなければ、
家で寝てればいいと思います。
薬を飲んでも、飲まなくても、
たいてい治りますから。
薬を飲むと治るスピードが1日くらい早くなります。

お金をかけて、2時間も外来で待って、
薬局に行って薬をもらうのがめんどうな人は
家で寝てればいいし、
そのくらいの苦労は厭わないという
勤勉な患者さんは、
病院に行ったらいいと思います。

行くか行かないかは、自分で決めればいいです。
どっちにしなきゃと決めつける必要はないです。
ほぼ日
会社からの
「インフルエンザになったら来るな」
みたいな話も、別に行ってもいいですか?
岩田
それはだめです。
人にうつしちゃいけないので。
ほぼ日
そうか、風邪と同じですね。
ひいてしまったら、他の人に
うつさないように行かない方がいい。
そこは基本ですね。
岩田
あと、すこし話題がそれますけど、
ほんとうは個人情報の観点からいうと、
自分がどんな病気にかかったかなどを
会社に言う必要はないんです。

それがインフルエンザなのか、風邪なのか、
下痢なのか、はたまたエイズなのかは
会社に全然関係なくて、本当は
「自分は今日は体調が悪い。だから休みます」
でいいはずなんです。

具体的にどんな症状があるかを
いちいち上司が確認しなきゃいけないというのは、
実は日本がブラック体質なせいで。
本来はそこを聞く必要はないんですよ。
ほぼ日
たしかに。
岩田
刑法でも、患者の情報はほかの人に
晒してはいけないので、会社の上司から
「うちの部下はどういう理由で入院しているんですか?」
と聞かれても、本人の了解がない限りは
絶対言わないですからね。

インフルエンザなのか、そうじゃないかも、
別に「会社に行けないほどしんどい」という理由で
充分じゃないですか。

それを会社が「いったいどんな病気なんだ?」
「診断書持ってこい」とか言うのは、
個人情報保護の観点からいうと、違反ですよ。

そういった理由で
「もう元気になったんですけど、
会社がインフルエンザの証明書を
持ってこいと言うから来ました」
と外来に来る患者さんぐらい、
「来なくていいのに」
と思うことはないですよね。

元気な人には病院に来てほしくないんですよ。
僕ら、忙しいので。
さらに言えば、その人がそこでまた別の人に
インフルエンザをうつすかもしれない
じゃないですか。

しんどくてしょうがないのであれば
もちろん来てほしいですけど、
そこで、ほかの患者さんにうつすかもしれないという
考えを持ってほしいんですね。

ですから、そういう書類の要求が
習慣になっている企業の担当者は、
考え直したほうがいい。
ほぼ日
ああー。
岩田
あと、もっとひどいのは、学校や企業で
「治癒証明書を持ってこい」
というところがあるんです。
治ったなんて証明、できないですよ。
さきほども言ったように、無症状の人で
インフルエンザウイルスを持っている人は
たくさんいますから。
できないことをさせるなと。

そこについては厚生労働省が
「そういうことは要求しないようにしましょう」
とか言ってもいいと思うんですけどね。
ほぼ日
たしかに、どうやれば証明できるのか、
まったくわからないですね。
岩田
あと「学校の皆勤賞がどうこう」みたいな
変な仕組みがあるじゃないですか。
「インフルエンザだけ特別扱いにして
皆勤賞から除外する」とか、これも変な話ですよね。
そもそも皆勤賞って、
結果であって目的ではないですから。

結果的に皆勤賞になった人を褒めるのは
いいですけど、
「皆勤賞を取るために病気をおして学校に行く」
なんて、本末転倒もいいところで。
これは本当に考え直してほしいです。
ほぼ日
風邪とインフルエンザの違いはなんでしょう?
岩田
病原体が違います。
そしてインフルエンザの場合は
予防接種で防げて、薬もあります。

主観的にいうと、インフルエンザの方が
きついけどサッと治る。
そういう特徴がありますね。
風邪というのは、そんなにきつくないけど、
ぐずぐずっていうパターンが
傾向としては多いです。

オーバーラップはけっこうあるので、
完全に区別はできないんですけども。
「風邪みたいなインフルエンザ」
って、よくありますから。
ほぼ日
いままでのお話をまとめると、
風邪だろうがインフルエンザだろうが、
どっちにしろ、
病院に行きたければ行けばいいし、
行かなくてもいい。
岩田
そうです。行くとか行かないとか
画一的に決めつけないことが大事で、
そのときごとにそれぞれ判断するといいと思います。
豊かな社会というのは、選択肢があることなんです。
ですから「こういうときはこうしなさい」ではなく、
病院に行くという選択肢もあった方がいいし、
行かないという選択肢もあった方がいいです。
ほぼ日
インフルエンザなり、風邪なりで、
年齢別に気をつけたほうがいいことはありますか?
岩田
ああ、高齢の人は気をつけたほうがいいですね。
高齢の人は「風邪かな?」と思ったときに、
実は違う病気のことがあります。

あと、高齢者は若い人に比べて
インフルエンザが重症化しやすいので、
気をつける必要がありますね。

基本的に、ご高齢の方は病気に弱いので、
体調崩したときは早めにお医者さんに行って、
きちんと診断を受けたほうがいいですね。
ほぼ日
‥‥あと、ふと思ったのですが、
ほとんどのインフルエンザが
病院に行かなくてもなおるのであれば、
「インフルエンザの予防接種はしなくても良い」
という考え方はできませんか?
岩田
そこは言い方が難しいところですが、
インフルエンザも病気である以上は、
極めて稀ですが「極端に悪くなる」という
場合もあるんです。
極めて稀ですが、起こりうるといえば起こる。
インフルエンザのあとで肺炎になって、
それが原因で亡くなるとか。

たとえば2009年の新型インフルエンザって、
ほかの普通のインフルエンザと
ほとんど強さが変わらなかったと言われてますが、
日本で200人ぐらい亡くなったと言われています。

200人っていうとけっこう亡くなってると
思うかもしれないですけど、
その季節にインフルエンザにかかった人は
おそらく数千万人規模なんです。
だからインフルエンザって、死亡率としては
非常に低い、死ににくい病気なんです。
だけど、患者数がすごく多いので、
死亡率が非常に低くても、
分母がめちゃめちゃ大きくなると、
分子もある程度大きくなる。

この分数の考え方って、すごい大事で、
だからインフルエンザワクチンって大事なんですよ。
「インフルエンザって勝手に治る病気なんだ」
と言いつつも、
「ちゃんとワクチンで予防しましょうね」という、
一見すると矛盾するようなことを言うのは、
そのためです。

ほぼほぼ勝手に治るけど、
ほったらかしにしてしまうと
大きなインパクトを持つから、
ちゃんと予防しましょう、という話なんですね。

(続きます)

2018-09-27-THU

岩田健太郎(いわた けんたろう)

島根県生まれ。島根医科大学卒業。
沖縄県立中部病院、ニューヨーク市
セントルークス・ルーズベルト病院、
同市ベスイスラエル・メディカルセンター、
北京インターナショナルSOSクリニック、
亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。
神戸大学都市安全研究センター
感染症リスクコミュニケーション分野および
医学研究科微生物感染症学講座
感染治療学分野教授。
神戸大学病院感染症内科診療科長、
国際診療部長。

所有資格は、日本内科学会総合内科専門医、
日本感染症学会専門医・指導医、
米国内科専門医、米国感染症専門医、
日本東洋医学会漢方専門医、
修士(感染症学)、博士(医学)、
国際旅行学会認定(CTH),感染管理認定(CIC)、
米国内科学会フェロー(FACP)、
米国感染症学会フェロー(FIDSA)、
PHPビジネスコーチ、FP2級。
日本ソムリエ協会シニアワインエキスパートなど。