NewsPicks + COMPOUND + ほぼ日 合同企画「経営にとってデザインとは何か」
三和酒類篇
「いいちこの会社」が
「下戸」にも好かれている理由。
第4回商品力と、人間関係。
──
ところで「いいちこ」って、
なぜ売れたと思ってらっしゃいますか?
西
やっぱり、おいしかったからですね。
──
それは、大前提のところですね。

でも、けっこう、ちがったんですか。
それまでの商品とは。
西
はい。ぜんぜん、ちがいました。

口に入れるものというのは、
また飲みたいという「余韻」がないと
ダメだと思うんです。
──
余韻。
西
そう、余韻というのは、口に含んで‥‥、
本当はね、時間があれば、
今日、みなさんと会食したいんだけども。
一同
(笑)
西
そうしたら、すぐにわかってもらえる。
余韻がこのあたりにグッと残るんです。
──
後頭部のあたりに?
西
余韻というのはね、言い換えるならば、
何かを食べたり飲んだりしたときの
「ああ、おいしいな、もっとほしいなあ」
という気持ちのことです。

やはり、それは絶対に必要なんですね。
──
で、「いいちこ」には、それがあった。

ちなみに「いいちこ」の中身って、
時代時代で変わったりしてるんですか?
西
ええ。もちろん。改良しています。

たとえば昔、業務店(飲食店)さんで
「キープ祭り」ってのが流行ったんです。
──
キープ祭り?
西
つまり
「いま、ボトルキープすれば1万円です」
という販売促進のキャンペーンです。

で、とあるお店では、
「ジョニー・ウォーカーの黒」が1万円で、
「いいちこ900ml」も1万円、と。
──
ええ。
西
当時「ジョニー・ウォーカーの黒」と言えば、
1本で何万もするお酒でした。
対する「いいちこ」は、だいたい千円くらい。

そんなことをやるって言うから、私たちは
「そりゃあ、ジョニー・ウォーカーが
絶対に売れますよ」と申し上げたんです。
──
「ジョニー・ウォーカー」は安いけど、
「いいちこ」は、かなりの割高ですもんね。
西
なにせ「千円のものが1万円」ですからね。

で、ひと月後に、おうかがいしたら、
「いいちこのほうがよっぽど売れたよ」と。
──
へぇ、すごい! でも、ちょっと不思議‥‥。
西
まあ、「いいちこ」が売れたら、
お店の売り上げは「10倍」になりますから
力を入れたんでしょうけど、
ひとつには、
時代が「アルコール度数」じゃなくなった、
そういうことだと思います。
──
と、おっしゃいますと?
西
「ジョニー・ウォーカー」の黒は40度、
「いいちこ」は25度。

ようするに、いつのまにか、
「酔っ払いたいんだけど、はやく醒めたい」
という時代になっていたんです。
──
度数の強いお酒、というよりも。
西
そう、そのときに、これからは
「ほどよく酔って、はやく醒める」という、
そういうお酒造りが大事なんだな、と。

そう思ったときに、重要になってくるのは、
やはり「お酒の品質」なんです。
──
なるほど。
西
「アルコール度数を下げても、おいしい」
というお酒をつくるには、
「原酒」がおいしくないとダメですから。
──
度数が低いってことは、
水の量を増やすということですもんね。
西
そう、「水が多いのに、おいしい酒」って、
原酒に力がないと、できません。

だから、いまは、
25度から20度、12度‥‥という具合に
度数をどんどん下げていって、
「それでも、おいしい酒」をつくることに、
挑戦しているところです。
──
お店で「いいちこ」を飲むお客さんと、
つくり手側との接点というのは、
どういうところに、あるんでしょうか。
西
それは、自分から行って聞かないとね。
業務店‥‥つまり飲食店さんに。
──
実際に西さんはじめ御社のみなさんが、
お店へでかけて行って、
マスターやお客さんに話を聞く、と?
西
というのもね、うちの会社は、
全国に支店や営業所がまったくないんです。

営業の社員も、ここ(大分県)から、
毎週、出かけて行って活動しているんです。
──
全国に?
西
そうです。全国に、です。
みんな火曜日に出て金曜日に帰ってくる。

支店や営業所をつくっていない理由は、
社員の幸せを考えると、
単身赴任はないほうがいいだろう、
という考えからです。
──
日本全国をグルグルまわっているけど、
最後は大分に帰ってくるんですね。
西
そう、結婚して家族のある身にとっては、
単身赴任ほど、
窮屈なものってないと思いますから。

そうさせないように、
うちの社員には単身赴任させず、
全国の店頭流通の問屋さんを頼りにして、
お酒を販売しているんです。
──
でも、かならず社員全員が、
「ここに帰ってくる」というふうに思うと、
そのときどきの
会社の方針なども共有しやすいですよね。
西
それと、会社のものづくりのシャワーを
週に一度は浴びないと、
自分たちの原点を忘れてしまう、
というようなことは、あると思いますし。
──
なるほど。
西
さらに言えば、
全国の問屋さんを頼って売るためには、
商品力がなければ、ダメです。

困った商品だと、売ってもらえません。
──
なるほど、そう思うと、
覚悟のあるものづくりになりそうです。
西
商品というのは、買ってくれる人がいて、
売ってくれる人がいる。

両方そろってないと、売れないんですね。
──
はい。
西
ですから、私たちは一生懸命にお酒をつくり、
買ってくれる人たちを増やして、
売ってくれる人には、
「いいちこか、売ってやろうか」
という気持ちになってもらえるよう努力する。
──
だから「おかげさまで」なんですね。

西さんは、ずっと
営業畑を歩んでこられたわけですが、
そこで学んだことで、
いちばんのことって何でしょうか?
西
商品力があることを前提にするとすれば、
やはり「人間関係」です。

そこがうまくいかないと、ダメです。
──
昔、「いいちこ」ができる前の時代、
4つの酒蔵が合同して始めたころというのは、
ご苦労も多かったそうですね。

営業に行っても、取り合ってもらえないとか。
西
でも、商品力がついてくるようになれば、
「待ってました」と歓迎してくれるんですね。

コーヒーだって、出てきます。
──
はい(笑)。
西
でも、歓迎されてなかったら、何にも出ない。
それどころか「邪魔だ、早く帰ってくれ」と。

だからこそ、やはり商品力が絶対に必要です。
それに加えて、
お世話になっている方々との、良好な関係性。
──
「いいちこ」は、全国的に有名ですから、
ほっといても売れそうだなって
思っちゃいますが、そうではないですか。
西
いやあ、ほっといたら、売れないですよ。

大手酒造メーカーさんも
いい焼酎を商品に持ってらっしゃいますし
営業マンでの数で比べれば、
仮にサントリーさんが何千人だとしたら
うちは、30名ちょっと。
──
え、そんなに少ないんですか?
西
その差があって、どうやって戦っていくか。
知恵を絞らないと、やっていけません。
小田
営業と流通の規模では勝てないわけですが、
では、どうやって戦うんですか?
西
いまは、お客さまが、メーカーから直接に
商品を買える時代が来ています。

メーカー側にしても、問屋さんを通さずに、
直接ものを売る誘惑に駆られます。
──
はい、そのほうが利益が上がりますから。
西
でも、うちは、はじめのころから、
個人の方から「いいちこが、ほしいんです」
と注文が入ったら、
「すぐに電話を入れなおす」ということを
繰り返しているんです。
──
電話を入れなおす?
西
ようするに、お近くの酒屋さんの名前を聞き、
そちらにお電話を入れて、
「ご近所に、いいちこを求めているお客様が
いらっしゃいます。
おたく様に、何々さんという問屋様から
うちの商品が届きますので、
どうぞ、よろしくお願いいたします」と。
──
お客さん的には、近くの酒屋で買えるから
便利でしょうけど、
今のって、三和酒類さんとしては、
わりとめんどくさい作業だと思うのですが。
西
でも、きちんと問屋様を通じて、
そのお客様のご近所の酒販店様にお届けする。
その酒販店様が、個人のお客様にお繋ぎする。

この方法を取ってきたところ、
どこからも、恨みを買わずにすんだんです。
──
なるほど。
西
どんな酒屋さんからも、
「あんな会社の商品なんか、扱うもんか」
と思われないように、
お届けの順番を守って、やってきました。

そのルートが、現在も生きているんです。
──
そこが、
三和酒類さんの強みということですね。

お客さんにつなげてくれる「みんな」を、
大切にしているんですね。
西
私たちは
「もっとほしい」と言っていただけるなら、
きちんとした数量のお酒を、
適正価格で届けられるようにしたいんです。

1本のお酒が1万円だとか2万円だとか、
プレミアムがつくことは、
メーカーにとっては、うれしいことです。
俺の酒は5万円もするんだ、ってね。
──
価値が高まったように感じますものね。
西
でも、私たち三和酒類の考えかたは
そうではなくて
「焼酎というお酒は、
それほど高値で売買する品物ではない。
大衆のお酒なんだ」と。

で、大衆のお酒であるならば、
適正な価格というものがあるはずだから、
千円のものは千円でお届けする、
そうでなければいけないと思っています。
──
なるほど。
西
逆に「安売り」ということについても、
できるなら
「千円で売ってほしい」とお伝えして、
メーカー側の願いを、
なんとかご理解いただいているんです。

「うちのお酒を、
 あまりに安値では売ってほしくない」
ということを、訴えています。
──
なるほど、わかりました。

今日は、デザインの話からはじまって、
三和酒類さんの経営のことを、
いろいろ知ることができて勉強になりました。
そして、楽しかったです。
西
いえいえ、こちらこそ。
──
ちなみに西さんて、
毎晩、お酒を飲まれるんですか?
西
まあ(笑)。
──
お好きなんですね(笑)。
西
好きですけど、でも、
ぐでんぐでんになった経験はないです。

私の親父が「反面教師」で、
いつも、酔っ払っていたんですよ。
──
そうなんですか。
西
だから、私は、
お酒で正体をなくした経験はないです。

一度くらいは
なくしてみたいと思うんですが(笑)。
──
一度くらい、いいんじゃないですか?
西
(笑)

<終わります>

◎取材を終えて
いいちこの広告ポスターをはじめとする
三和酒類さんの「デザイン」が、
会社のあり方、ひいては「経営」の仕方に、
深く関係していることがわかりました。
「飲むと酔っぱらう飲みもの」を意味する
「致酔(ちすい)飲料」とは、
はじめて聞く言葉でしたが、
そのような商品を扱っているんだという
慎み深い自覚から生まれた
「ただ売れればいい、ではない」の姿勢は、
宣伝の仕方や、広告のあり方などにも
如実に現れています。
そうした経営の姿勢が、
お酒の飲めない女性や未成年の方からも
ファンレターが届く理由なんだなと、
西さんのお話をうかがって、感じました。
なんとなく、三和酒類という会社自体が、
西さんみたいだなあ、と思いました。
いい会社、やさしい会社なんだろうな、
という事前の予想が当たり(笑)、
そのことも、なんだかうれしかったです。
(ほぼ日・奥野)

2015-11-19-THU