世界の車窓からナレータの石丸謙二郎さんに聞く 世界の車窓からナレータの石丸謙二郎さんに聞く

週に5日、テレビ朝日で放映されている
2分ちょっとの長寿番組『世界の車窓から』が
あと「150回くらい」で
放映10000回(!)に到達するそうです。
「祝!」というには
ちょっと早いタイミングではありますが
ナレーターを務める俳優・石丸謙二郎さんに
お話をうかがう機会をいただきました。
放映開始から29年め、変わらぬペースで
番組と伴走してきた石丸さんが語る、
「車窓」のこと、そこから見える世界のこと、
ナレーションという仕事のこと、旅のこと。
鈍行列車で旅してるみたいな、
長閑な気分で、のんびりお付き合いください。
担当は「ほぼ日」奥野です。

PROFILE石丸謙二郎さんについてはこちらから
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石丸謙二郎

1953年11月1日、大分県生まれ。
俳優、ナレーター。
テレビドラマやCM、映画など
幅広いフィールドで活躍する。
なかでも
テレビ朝日『世界の車窓から』では
1987年の放映開始以来
29年にわたってナレーションを務めている。
また、スポーツ万能でも有名で
とくにウィンドサーフィンでは
2014年末に
台湾で開催されたスピードチャレンジで
「時速73.71km」という
猛スピードを記録し、日本人で2位に入賞。
オフィシャルホームページは、こちら
毎日欠かさず続けているブログ
「Off time」は、こちらからどうぞ。

第04回 列車ならではの旅。

──
列車というものには、
どこかロマンを感じると思うんですが、
それって、なぜだと思いますか?
石丸
単なる「移動」というよりは
「旅」って感じが、するからじゃない?
──
「列車」というものは。なるほど。
石丸
これが、仮に「バス」だった場合には、
何かと忙しいというか、
やらなきゃなんないことが多いでしょ。
写真
──
次の停留所を確認したり。
石丸
降りるボタンで「次、降りまーす」って
ピンポンしたり。
──
小銭を用意したり。
石丸
それに、バスってどこへ行くんだか、
乗り慣れてないと
よくわかんない場合ってあるんだよ。
──
ああ、たしかに。
路線番号だとかナントカ系統だとか。
石丸
その点、列車って、
比較的、わかりやすいと思うんです。
──
ええ、そうですね。
石丸
だから「寝てられる」んだよね。
──
なるほど、そうか。

「ロマン」にとっては
「寝てられる」のって、大きいですね。
石丸
バスだと寝てたら乗り過ごしそうだし、
ビールとかも飲めないし。

書きものなんかもできなそうだけど
「車窓」を見てると、
手紙とか書いてる人もいるからなあ。
──
車窓風景を写真に撮ったりするのも、
列車での旅ならではですよね。
石丸
列車って、こう‥‥なんていうかな、
自分の家にある
お気に入りのリクライニングチェアの
延長線上にある感じがするんだな。
──
飛行機とのちがいは、なんですかね?
石丸
飛行機は、途中で止まってくれない。
──
‥‥おっしゃるとおりです。
石丸
「あ、ちょっと綺麗な湖が見えるなあ。
 降りて寄ってくか」とか無理でしょ。
──
無理です。
石丸
乗ったが最後、最終の目的地まで
ノンストップで連れていかれる‥‥というか
ノンストップで連れていっちゃう
「まじめさ」があるよね。

「途中下車」ってのが、できない。
──
急にマサイ族の人が
ヤリ持って乗ってくることもないし。
石丸
ないね。まず「ヤリ」が難しいよね。
写真
──
機内持ち込み無理ですよね(笑)。

でも、そう聞くと、
たしかに「おもしろみ」を感じます。
列車というものには、何か。
石丸
俺、まだ大分にいた18くらいのころ、
日豊線に乗って
終点の鹿児島の西鹿児島駅まで行って
そこから、九州の山ん中を
大分まで歩いて帰ったりしたてたんだ。
──
さすが肉体派ですね。
石丸
10日以上かけて。
──
‥‥そんなに?
石丸
友だちとさ、テント持参でね。
──
すごいです。
石丸
そのときに
やっぱり「列車の思い出」ってのは
大きくてね。
──
列車という乗りものは
「少年時代の冒険譚」にピッタリの
サイズ感なのかもしれませんね。
石丸
そうそう、バスで行ける範囲だと
1日で帰ってこれちゃうし、
飛行機だと帰ってこれないからね。

だから、少年少女が「冒険旅行」する、
はじめの一歩じゃないかな、列車って。
写真
──
石丸さんご自身も、
列車は、お好きなほうだったんですか?
石丸
好きだよ。ふつうに。
マニア的な、すごい知識はないけどね。
──
乗るのがお好き?
石丸
そうだね‥‥ちいさいころの田舎ではさ、
「列車」といえば
「乗るもの」っていうよりもむしろ、
「手を振るもの」だったかな。

当時は「汽車」って言ってたけど、
夜汽車が来たら手を振ったりしてたんだ。
昔はね、
電車が来たら、みんな手を振ったんだよ。
──
そうなんですか。
石丸
で、列車に乗るのなんて、
ほんと「たまーに」だったんだけど、
あるとき、
日豊線のデッキで遊んでたらね‥‥。
──
ええ。
石丸
蒸気機関車のデッキって
トンネルに入ったら煙がすごいんだよ。

「ブワーッ!」って感じで。
──
そんなところで、
何をして遊んでらっしゃったんですか。
石丸
我慢大会。
当時は「煙ごっこ」って言ってたけど。
──
つまり、煙に我慢する遊び?(笑)
石丸
そう、全身ススだらけになってね。

当時の車両って
ドアも自分たちの手で開けられたから、
おもしろく遊んでたら
あるときに、落っこちちゃったんだ。
──
え?
石丸
走ってる列車から落っこちちゃってね。
──
それで‥‥生きてたんですか。
石丸
うん。
──
どんだけ丈夫なんですか(笑)。
石丸
まぁ、あそこは時速20キロちょっとで
ノロノロ走ってる場所だったから。
──
だとしても‥‥。
石丸
落ちた場所も、まぁ「土手」だったし。
草がわさわさ生えてるようなね。

で、ゴロンゴロンって、転がってって。
まだ子どもで身体が柔らかかったから
怪我はしなかったんだけど
遠ざかるデッキで
友だちが「あ」って顔をしてたな。
写真
──
そりゃ驚きますよね、
友だちが列車から落っこちたら(笑)。
石丸
家まで何時間もかけて歩いて帰ったら
遅い時間になっちゃって
親にこっぴどく怒られた覚えがある。

まさか
「列車から落ちた」とも言えなくてさ。
──
そのあたりの「のどかさ」みたいな感じも
列車にはつきものだし
「車窓」って番組にもにじみ出てますよね。
石丸
うん、でね、まあ、こう言っちゃ悪いけど、
ちょっと目‥‥どころか
手を離したらモノがなくなるような国にも
あの番組では、行くわけですよ。
──
ええ。
石丸
とくに「車窓」はカメラ機材が多いから
それを数メートル動かすのにも
スタッフ全員で
厳重にガードしながら‥‥みたいなことも
あったりするんです。
──
はい。
石丸
でも、そういうところでも、列車の中って
あるていど「安全」なんだよね。
──
そうなんですか。
石丸
ホテルなんかでも
荷物を開けられて何かを盗られたとか
よく聞くけど
列車の中って「まわりの目」もあるし
次の駅まで密室だし、
そんなには盗まれない気がする。

小説なんかではお決まりの舞台だけど、
殺人事件なんかも、まず起きない。
──
たしかに。
石丸
それが証拠に、どんな国でも、
列車では、みんな居眠りしてるもんね。

あれは、列車の中が
居眠りしてても平気な場所だからだと
思うんだよ。
──
なるほど、おもしろいです。
どんな国でも、たいがい寝てますか?
石丸
寝てるね。

ただ、大きな都市の地下鉄なんかでは
あんまり寝てないけどね。
──
あ、スリとかにやられちゃうから?
石丸
ニューヨークでも、パリでも。

ところが「車窓」に出てくるような、
長距離を移動する列車の中では、
たいがいみんな、
安心しきったような顔で寝てるんだ。
──
それって何のちがいなんでしょうか。
石丸
うーん、何だろう。

窓の外に美しい景色が広がってると
泥棒しにくのかなあ‥‥わかんないけど。
──
では、石丸さんの思い出の列車の旅って、
何かありますか?
石丸
えっとね、あるよ。
それは「どこへ行ったのかわからない旅」。
写真
──
と、言いますと?
石丸
いや、もう何年も前のことなんだけど、
いまだに
どこに行って帰ってきたのか、わからない。

そういう旅を、したことがあるんです。
──
すみません。にわかには、意味が。
石丸
ほら、『世界の車窓から』のスタッフって
列車の時刻はもちろんだけど、
飛行機からホテルから現地での予定から、
「手配」ばっかりしてるでしょ。
──
ええ、ええ。
石丸
つまり「手配のプロ」なんですよ。

だから、みんなで旅行に行こうとなったとき、
たったひとりのADに
目的地の選定から宿からチケットから何から、
すべてを「手配」してもらって
俺たちは
「上野駅の何番線に何時に集合してください」
とだけしか言われない‥‥。
──
おお。
石丸
で、そこから言われたとおりの列車に乗り、
導かれるがまま、
どこかの駅で、別の列車で乗り換えて‥‥
で、酒が入ってるからさ、
道中のことを、まったく覚えてないの。

最終的にはタクシーに乗って
なんだか、よさそうな宿に連れて行かれて、
そこでまた、ひと騒ぎして。
写真
──
ええ(笑)。
石丸
翌日、再び上野へ戻ってきたんだけど、
いまだに
自分たちがどこへ行ったか知らないの。
──
おもしろいです(笑)。
石丸
チケットとか乗り換えとかの心配もせず、
みんなリラックスして、
酒ばっか飲んで、
あれは、本当に夢みたいな旅だったなあ。
──
だいたいどのあたりというのも‥‥?
石丸
上野駅を出たから、東北方面だと思うよ。
──
あ、なるほど。
石丸
栃木を越えて福島、宮城‥‥
まぁ、山形までは行ってないと思うけど。
──
どこへ行ったのかわからない旅‥‥って、
すごくミステリアスです。
石丸
すべてを把握してたのは
当時の若手のADの子だったんだけど
そいつ、辞めちゃったからさ。
確かめようにも、確かめられないんだ。

一緒に行った人たちに聞いても
誰もどこって断定的に言えないんです。
写真は残ってたりするんだけど。
──
いまや永遠の謎になった、と(笑)。
石丸
でも、そんな旅をしようと思ったらさ、
バスじゃ無理だし、飛行機でも難しいよ。
写真
──
ええ。
石丸
だからね、あの、へんてこりんで
夢のような旅も、
列車ならではの旅‥‥だったんだよね。

<おわります>

番組開始から29年、あと150回くらいで祝・放映10000回!世界の車窓から

たらったったったたーららーらーらー。
チェリスト・溝口肇さん作曲による
印象的なテーマ音楽、
どんな異国情緒も包み込んでしまう
俳優・石丸謙二郎さんのナレーション。
「放映開始から29年め、
 訪れた国は104カ国
 総走行距離75万キロメートル!」
という数分間の長寿番組が
テレビ朝日の『世界の車窓から』です。
漫然とテレビをつけていても
はじまると「お。」って、つい見ちゃう。
そんな番組ですよね。
たらったったったたーららーらーらー。
「世界の車窓から。今日は‥‥」
溝口さんのテーマ音楽と
石丸さんナレーションの黄金コンビで
今夜も、世界のどこかの車窓風景を
テレビの前のぼくらに届けてくれます。
10000回まで、あと約150回。

世界の車窓から

月~金、夜11時10分から、
テレビ朝日(系列)にて放送中。
*地域によっては放送日時が異なります。