岸惠子さん+糸井重里 対談 かわいい人の、 ふたつの共通点。
岸さんのプロフィール

第6回 なぜ、かわいい人になれるのか。

たしかに、自分が50になったときも、
60になったときも、
「うわぁっ」と、ある種のショックはありました。
糸井 一旦は思いますよね。
一旦、思います。
けれどもいまは
「あぁ、60歳、70歳、
 あんなにすばらしい時代があった。
 もったいない。もっともっと
 いきいきと生きればよかった」
と思います。
だから、もしまかり間違って、
90まで生きちゃったとしますよね?
そうしたら、そのときに、
いまの年を後悔しないように、
ちゃんと生きようって、思います。
糸井 「ちょっともったいないことしたな」
というその思いは、
1年ごとに深くなりますね。
ねぇ(笑)?
考えてみても、私はおそらく50代が、
いちばんいい仕事してるんです。
それは、映画ではないんですけど。
糸井 それはわかる気がします。
30代、40代の元気なときって、
自分の力はついていても、
相手がそれを望んでくれないんですね。
あぁ、そうかもしれない。
糸井 50になると、
「あなたの望んでることをしますよ」
と言うこともできる。
そうね、自信がつくし、
人間としても満ち潮になってくるんですよね。

私はすごくコンプレックスの多い人間だったんです。
私が若い頃は、グラマラスな
マリリン・モンローやジーナ・ロロブリジーダに
人気があった時代です。だからみんなから
「惠子ちゃんの体、割り箸みたい」とか言われて。
糸井 比べたら、そうなっちゃいますよね。
池部良さんからは
「惠子ちゃんの手は、出汁にもならんよ」
と言われたものです(笑)。
彼は、そういうことを
非常に魅力的に言う方で、大好きな人でした。
まぁ、そういうコンプレックスがありましたけど、
50歳くらいになったら、
「私はこれでいいんだ」というような自信がついて
認識は変わっていきました。
私にとって50代、60代は、すばらしい時期でした。
糸井 「私の形」とか「私の文体」とか「私の声」とか‥‥
「私の」ということを、
いちいち肯定できるようになるんでしょうね。
「ほかにやりようがないんだし」と
笑っていられるというか。
ええ、そのとおり。
50も末のほう、60になったら
もっとよくなりました。
糸井 昨日の夕方、ぼくは会社で社員のみんなと
岸さんにお会いする話をしていました。
「女の人って、いつまでも
 『かわいい』と言われる人がいるよね」
という話になりました。
ぼくは何人か、年上のかわいい人を
知ってるんですけど
「何が共通点なんだろう?」
という話をしていたんです。
そうなんですか。
糸井 そのときにもちろん
岸さんのことを思い浮かべて
ぼくはみんなにこう言いました。
「ひとつは、喜ばせた分量。
 もうひとつは、愛された分量。
 かわいさというのは、その足し算なんじゃないかな」
というふうに言ったんですよ。
喜ばせた分量は‥‥、岸さんは、
おありになりますよね。
うん、きっと、
自分ではあると思っています。
糸井 ありますよね。
ヨレヨレに疲れるほど、あると思います(笑)。
糸井 たぶん、そうですよね。
スクリーンにいただけでも、喜ばせた分量が
そうとうあります。
いまお話ししてても、
そのことがよくわかるんですけど、
岸さんはぼくを喜ばせてくださってるんですよ。
いや、とんでもない、私も楽しんでいます。
糸井 いや、きっとそうして
岸さんが自然にやっていて、
相手を喜ばせている性分のようなところが
全部積まれてるんだと思うんです。

そして、もうひとつの
「愛されてる分量」については、
端からうかがいしれないですけど‥‥
ぼくは、岸さんは自信を持って、
「愛された」と言える方なんじゃないかなぁと
思っています。
いやぁ、あんまりたくさんの方には愛されません。
愛と恋とか、そういうことは、あんまり
なかったです。
糸井 でも、岸さんを好きで
ほんとうに大事だと思う人は
たくさんいらっしゃったんじゃ‥‥
ううん、少ないの。
外国のほうが、ちょっとモテるかもしれないけど‥‥
日本では少ないですよ。
糸井 いや、日本でも国外でも、足し算ですから(笑)。
そうやって、岸さんは「愛されてる」ということで
安心したことがあるという気がします。
あぁ、それはいい言葉ね。
安心して愛されるのは、すてきです。
愛されても、びくびくしたりするのは嫌ね。
糸井 そうそう、そうです。
いつ消えちゃうの? と思っていたり。
糸井 試してみようとか‥‥
そういうことの、ないことね。
うん、わかります。
糸井 そうです。そういった、
「委ねることのできる愛され方」をしたということは、
その人にとっての「徳を積む」ような
行為じゃないかとぼくは思うんですよ。

ですから、人を喜ばせることと
愛されることのふたつは、
まるで徳を積んだように、
80歳くらいになると、
かわいげになって出ると思います。
でも、その機会を両方持てる人って、
やっぱり、そんなにはいないんじゃないでしょうか。
うーん、そうねぇ‥‥。
糸井 「愛してるよ」という言葉は
いくらでも飛び交いますけど、
委ねることができるって、あまりないかもしれない。
それから、誰かを喜ばせようと思っても、
喜んでもらえる準備をしてないところでは‥‥
そうね、泡のように消えてしまいますよね。
糸井 そうなんです。
そういったかわいげを持つ年上の女性を
ぼくは何人か知っています。

(つづきます)

 

2013-11-12-TUE


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