[糸井]
先ほどからお話をしていて、黒柳さんが「比べない」ってことはよくわかったんですけど、黒柳さんは、ちゃんと
「お楽しみ」をしてますよね。

[黒柳]
そう!
忙しそうに見えるわりには、わりとね。



[糸井]
いちばん「お楽しみ」をしてる時間はどういうときですか?

[黒柳]
まずわたしは、自分の気に入った仕事しかしてない、ってことが、ひとつあるの。

[糸井]
ああ、なるほど。

[黒柳]
「日本ろう者劇団」のこともやってるし、ユニセフのこともやってるし時間的にはずいぶん忙しそうなんですけど、すすんでやるものしかやってないから大丈夫なんです。
嫌いなものなんて、ない。

[糸井]
最初からそういうスタイルで仕事をおやりになっていたんですか?

[黒柳]
仕事をはじめてすぐのとき、わたしは過労っていう病気になったんです。
ちょうどそのとき、テレビの番組で渥美清さんと夫婦役をやっていました。
当時の放送は、生放送でしたから、番組の中で、渥美清さんのところに人がきて
「奥さんどうしました?」って聞いてて、なんて言うかなぁと思ったら
「ああ、実家帰ってます」
と返していました。
実家ってあったかしら? って思うんだけど、わたしはそこにいなくて、病院にいる。
わたしがいないドラマがなんとか1か月、進行していました。
それを見たときに、テレビは休んだらダメなんだって、思いました。
心から「もう病気になりたくないなぁ」と思ったんです。



[糸井]
はい。

[黒柳]
退院するとき、先生に
「死ぬまで病気したくないんですけど、 どうやるんですか」
と、うかがいました。すると先生がね、
「ひとつだけあるけど、できないね」
っておっしゃったの。
「わたし、やります」
と食い下がりました。
「できないと思うけど、やるかい」
といって、先生がおっしゃったのがこのことだったんです。
「すすんでやる仕事だけ、やっていきなさい」

[糸井]
ああ。

[黒柳]
「でも、明日ピクニック行って、 あさってお買いもの行って その次芝居観に行くんだったら お金がないなぁ」
って言ったら
「誰が遊んでなさいって言いました?」
と、先生がまた、おっしゃいまして。

[一同]
(笑)

[黒柳]
そのとき、わたしは20代でした。
「自分ですすんでやる仕事をすれば、 寝る前に残っているのは 肉体の疲れだけだ」
と、先生に教えていただいたんです。
嫌だなぁと思っていると、それが積み重なって、ヤダなヤダなが残っちゃう。
50年前くらいの話ですから、当時はストレスという言葉はありませんでした。

[糸井]
じゃ、ご病気をされたのは仕事をはじめられて5年くらいのときだったんですね。

[黒柳]
そうです。
自分の好きなことだけやっていくのって、若いときは難しいことでしたから、マネージャーとよく相談しました。
「これをやると有名になるだろう」とか
「お金が入るだろう」とか、いろんなことがあっても、そういうのは、やらないで、自分の好きなことだけをやってきました。
だから、今日も糸井さんのところへ来るのが楽しいと思わなきゃ来なかったですよ。



[糸井]
ありがたいです。

[黒柳]
なんだか、インターネットがどうとかでよくわかんなかったんだけど、でも、おもしろそうだと思ってうちからここまで歩いて来ようとしました。
だけど、みんなが
「今日やめたほうがいいですよ、くそ暑いのに」
「熱中症にでもなったら困ります」
と言うので、やめました。
ま、そういうふうに楽しみにしてきたから、今日もぜんぜん疲れません。
だから、つまり、わたしはなにをしていても、おもしろくないときがないの。

[糸井]
逆に言うと、そうですね。

[黒柳]
今日もここまで歩こうと思ったくらい、わたしは歩くのが好きです。
毎年秋になると舞台に出るんですけど、
「ル・テアトル銀座」っていうところで外国のコメディーをやります。
さっそうと舞台で歩くには、かなり足がしっかりしてないといけません。
口だけ達者で、フッ(笑)、足がよろよろしてたらダメなんで、ヒンズースクワットをしてから寝てるんですよ。
それは、ジャイアント馬場さんに教えていただきました。
「あなたは100歳まで 芝居がしたいそうですけど、 だったら、これをやってください。
 ヒンズースクワットを30回、 お2階に行くのを2回。
 これを毎日やってれば、100まで大丈夫です」
そうおっしゃいました。

[糸井]
馬場さんが。

[黒柳]
馬場さんは、
「歳とってくると、昨日できたことが 今日はもうできなくなるんです」
って。
「毎日やってれば、昨日上がった階段は 今日もあがれます。
 そのかわり、毎日やらなきゃダメですよ」
って言われて、その日からやったんです。
そしたら、1ヶ月くらいで突然あの方が亡くなっちゃってそれがなんだか遺言のようになってしまいましてね。
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