YOSHIMOTO
吉本隆明・まかないめし。
居間でしゃべった
まんまのインタビュー。
思想界の巨人とか言われていたって、世間話もするし、
「ただのおとうちゃん」として暮らしている時間がある。
ぼくはそっちの時間の吉本さんの話ばかり聞いているんで、
まかないめしで栄養をつけてきたようなものだ。

吉本隆明さんとは15年以上にもわたって、
しょっちゅうお会いしているのに、
ほとんど世間話しかしていないような気がする。
それでも、「世間」というものも大きいわけで、
詩やら文芸批評やら哲学、なんていうような話題が
どうしても混じり込んでしまうものだ。

たまに、じぶんより若い人と話をしているときに、
「そういえば、そういうことについて、
吉本さんがこんなこと言ってたっけなぁ」と、
思い出したことを話すと、
「思想家・吉本隆明」を知らない人たちが、妙に感心する。

ぼくは、いわゆる吉本信者でも隆明ファンでもないけれど、
(だいたいぼくには、<吉本本>は難しかったよ)、
近所の尊敬できる年長の先輩として、
吉本さんがくれた「考えというごはん」を、
ずいぶんいっぱいごちそうになって育ってきたと思う。

だから、吉本隆明という「思想界の巨人」を理解するとか、
ある著作についてもっと深化させるために取材するとかは、
ぜーんぜん無理だけれど、
ぼくの知っている「吉本さんちのおとうちゃん」と、
いつもしているような話をしてきて、
そいつを「ほぼ日」に掲載してみようと考えた。
ぼくだけごちそうになっているのは、
もったいなさ過ぎると思ったもんでね。



吉本隆明さんの試行社からのお知らせ。
「たずね人」は、いちおう終了したんですが、
新しい読者も増えたので、もっと発見できる可能性が
でてきたので、また、ここに掲載します。
初めての方、よろしくお願いしますね。

第1回は<目の手術のことなどなど>

第2回は<からだを治すということなど>

第3回は<科学的っていうこと>

第4回は<気効治療のことなど>

第5回は<1歳未満のときの苦労>

第6回は<無意識の荒れ>

第7回は<アメリカのことを話している>

第8回は<アメリカのことを話している・2>

第9回は<アメリカのことを話している・3>

第10回は<これからの経済的幸福像って?>

第11回は<ぽっくりと逝っちゃう時って>

第12回は<親鸞の影響と親の背中>

第13回は<じぶんへの修正>

第14回は<ロシア文学は退屈である>

第15回は<さんまと広告とインターネット>

98・10月のある土曜日。吉本隆明さんの家。
場所は、吉本さんの家。

長い長い話をしたものを、細切れに
ここに掲載しております。

「週刊プレイボーイ」でも、
『吉本隆明・悪人正機頁』という
変則的な人生相談の企画やってます。
合わせてお読みください。
で、この第16回は、
<そして、タモリ>です。

糸井 ですから、「さんま御殿」は、
システムとしてだけ言えば、
僕は、そろそろ危ないなと思っているんですよ。

つまり、芸能人たちの、
この人たちも一般の人と同じじゃないかという話を
順番にさせているんですよ。
ですから、今、ここで、話をしているような、
まかない飯の番組なんですよ。
従業員が食堂で、料亭で、
ひじきの煮つけのうまいのを食ってると、
味つけの腕はあるから、材料費は安いけれども、
おいしいでしょうっていう番組なんで。
あそこで気を使っているのは、
おそらく方法論的には、
必ず各ジャンルの人を
バランスよく入れるってだけことなんですよ。

だから、一応、キャスティングするときに、
ギャランティーを考えずに、
お金のかかる人を混ぜ込んでいるんです。
そこで、母数は獲得しているんですよ。
そこで、粗末な食べ物ですけども、
主人がこんなに機嫌よく、
こんなに普通の人として楽しみながら、
高いものを次々に出しますよっていう仕組みなんで、
しばらく、まだ持つとは思うんですよ。
実際には、今、あの「人間ちょぼちょぼやんけ」
っていうテーマだけで、順番に回しているんで、
これは、出演者としても、
そろそろアンケートに答えるのに、
ちょっと飽きてるんですよ。

つまり、「私が一番恥をかいた瞬間」っていうテーマで
全部絞れちゃうんですよ。
それだと、ちょっと、持ちが悪いんですよ。
同じになってきているんですよ。

ですから、システムとしては、今、
もう危なっかしいとこにいるんですけど、
キャスティングだとか、さんまの天才性で持ってんですよ。

さんまさんの、やっぱ、天才性って、
あの、絶対に芸のない子供を相手にしての、
「あっぱれさんま大先生」っていう番組ありますよね。
吉本 うん、ありますね。
糸井 あれ、できる芸人さん、僕、
ほかに絶対いないと思う。
世界中にいないと思いますね。
 
吉本 ああ、そうか、そうか。
糸井 あの多分、あそこに、さんま先生っていう番組で
集まっている子供たちは、
ある種飛び抜けて悪い子を集めているんですよ。
つまり、扱いにくい子を、
面接でえりすぐっているんですよ、おそらく。
それを、さんまさんに渡したら、ああなるんですね。

これはねえ、あの人は、もう、運命として、
その、何ていうんだろう、自分が……、おそらく、
さんまさんという人も、これはまあ、
有名な話じゃないけれども、
たしかけっこう複雑な家族関係ですよね。

そこで、コミュニケーションサービスのあり方が
肉体にしみ込んじゃっている人なんで、
その場が持たないと生きていけないんですよ。
そういう、いわばフリークスに近いような精神性を
持っている芸人さんを、ぼくらはたのしんでる。
あの人は、たぶん「4期目」ですよ。
人気のピークが4回目になっている。
何回も流行って、何回もほかの人に抜かれながら、
また、今、第4期めのピークつくってますよね。
あれはね、やっぱり奇形児に近いような、
すごい人なんです。
吉本 ああ、なるほどね。うーん。
糸井 「探偵ナイトスクープ」については、
僕は、ちょっと、まあ、基本的には、終わったんだけども、
さっきの温ったかいおでんを、うん、
どこでも手に入るあったかいおでんが、
青い鳥なんですね、やっぱり。
お笑いの種は隣にある。
その知的好奇心も、たどっていくと、
こんなにおもしろくなるというところで、
あのコンセプトは、結構、長持ち、
おばあちゃんの知恵みたいなところがあって、
長持ちするんですけど。
まあ、そろそろ飽きられてきたなあって。
僕の考えは、まあ、そんなところです。
吉本 いや、いや、おもしろいよ。
糸井 吉本さんが、今、感じていらっしゃるのは、
おそらく、無意識で、
さんまさんの天才性だとかのところで、
感じてるんでしょうね。
吉本 いや、そうなんでしょうね、きっと。
今、言われてると、ものすごくよくわかりますね、
さんまっていうの。
糸井 そうですかあ。
吉本 ええ、ああ、そうだよなあ。
ほかのやつにできるかなんていったら、なかなか……。
糸井 絶対できないです。
吉本 そうですよね。うん。
糸井 大人を扱うのは、
一番うまいのはタモリさんなんです。
つまり、社会人として、タモリさんの前に
みんな立つんですね。
ですから、基本的には、丁寧語を使いますし。
タモリさんのおもしろさっていうのは、
丸の内で通じるんですよ。

ですから、やっぱり、大きな母数を抱えている人で、
「笑っていいとも」という番組は基本ですけれども、
あれは実はサラリーマンの見る男の番組なんですよね。
男の息抜きなんですよ。

一方で、タモリさんは、さっきの最初にお話しした、
「十字式」の先生が説明する話じゃないですけど、
なぞのわけのわかんないおじさんとしての役割を、
「タモリ倶楽部」でやるんですよね。

要するに、熱いもの
ふうふう言って食ってるようなタモリを、
夜中にずっーとやめないでやって持っているわけですから。
たけしさんもそういうことはやってますけど。
あのバランスで、そのモチベーションを捨ててないという、
いつでも維持しているというのが、
あの人たちの、やっぱり、すごさですよね。
吉本 ああ、なるほどね。
糸井 どの人も全部、天才だと思いますけどね。
あと、吉本さんが松本人志をどう思うかというのは、
逆に聞いてみたかったんですけどね。


(つづく)

吉本隆明さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「吉本隆明さんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

1999-07-04-SUN

HOME
ホーム