糸井 |
(婦人公論で同席した)大後さんの話って
前から知り合いだった増島さんにとっても
おもしろいものだったんですよね。
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増島 |
糸井さんもおもしろかったですよ。
大後さんの話がつまらないというのではなくてです。
私は以前の取材のなかでも、
もう“おもしろい人”と分かってるから。
逆に話さなくて“見せてるだけ”でおもしろい選手も
いますしね。
“徹底的に自分がやったこと”についてしゃべる選手
というのは基本的には少ないですよね。
大後さんもそうなんですけどね。
自分はトップの選手じゃなかったわけですよ。
そういう人たちのなかには
“しゃべれる人たち”というのは多いですね。
大後さんは自分で意識して大学のほうから
そういうポジションへ行きましたから。
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糸井 |
おもしろいだろうね、そのへんから見ているのは。
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増島 |
おもしろいというか、
“この人は絶対いい指導者になる”と自分で思ったら
絶対にいい取材になってますよ。
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糸井 |
そういった増島さんが
「こいついいだろうな」とうすうす思っている逸材って
まだいっぱいいるんですか?
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増島 |
30代後半あたりにはいい(だろう)指導者が
いっぱいいますね。
たとえば女子で言ったら
自分で世界選手権の銀メダルを取っている
マラソン選手・山下佐知子ですね。
彼女はいい指導者になると思いますね。
サッカーのなかでも名前言っても知らないような
30代の若い選手(指導者)なんかがけっこういますよ。
全然ドイツ語もできないのに
ドイツに行っちゃったとかいう人です。
とりあえずA級とって帰ってきちゃったとかですね。
そういう連中はすごいです。
本当に平凡な人なんですがね。
やっぱりすごくいい選手だったっていう人は
“いい選手だった”という部分での経験で
何かをするんですね。
何にもキャリアがないっていう人は
“何もキャリアがない”というところで
何かを作ろうとするんですよね。
一番すごいのは
そのふたつが合わさった指導者だと思うんですよ。
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糸井 |
それって、ぼくの言うところの「古田監督」なんですよね。
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増島 |
彼なんかはすごく才能あります。楽しみですよ。
だから逆に変なほうに行かなきゃいいなと思います。
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糸井 |
言いにくいけど、いまの野球に
飽きてるような気がするんですよね、彼。
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増島 |
この間ヤクルト担当に聞いたら
「最近妙にさばけちゃって……」。
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糸井 |
モチベーションを失ってるらしいんですよ(笑)。
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増島 |
私はたまたま見てた今年の試合で
なんか知らないけれどすごくばかみたいなことを
やってましたよ、彼は。注意散漫というか。
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糸井 |
今年はバッターとしてチャンスになったときだけ
古田はおもしろかったですよ。
結局、野球へのモチベーションが落ちてる
という評ですよね。
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増島 |
ハングリーさがないのかな(笑)?
競技に対するハングリーさが失せちゃうのかなあ。
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糸井 |
敵がちっとも磨いてくれないせいだと思うんですよ。
それはもうバブルを考えるのと同じで
今、古田はお金も儲かってるし家もあるし
「そのなかで一番したいことは何なの?」
と言われたときに、それを今考えられない時期なんですね。
「お前ちょっと危ないぞ」ってことになってから
おもしろくなるんじゃないかと思うんですよ。
ぼく、こうなったら絶対的にかっこいいぞと思うのは、
選手のままのギャラのほうが絶対いいのに
あえて彼が監督をするんですよ。
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増島 |
でも野球はプレイングマネージャーとかありますでしょ。
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糸井 |
いや、そんなことしないの(笑)。
つまり自分を危機に追い込んで行くということです。
「もし古田監督になって誰がついてくるか?」と言ったら
まったく未知の世界ですよね。
でも、そのゼロレベルから作った野球というのが
もし強くなるものだったら、
日本の野球は全部変わると思います。
ただ、それはあまりにも自分を犠牲にしすぎだから(笑)。
サッカーではそのへんのところどうなんですか?
サッカー人口ってまだ増えると思います?
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増島 |
サッカー人口というのは
(巨人の)松井の世代が最後だと言われてるんですよ。
つまり松井が小学校のときの野球選手の数というのが
野球がサッカーに勝った最後の時期なんですよ。
松井が小学校のときというのは
周りを見渡してもあまりサッカーやってなかったですよね。
ところが、今の高校野球見てても完全に逆転しますよね。
それがよく分かりますよ。
肩弱いわ、足遅いわ、開会式で倒れたりするし(笑)。
高校野球の開会式で倒れる球児っていうのも
初めて見ましたよね。
高校野球当時の桑田や清原なんか
オフレコでしたがよく
「勉強しながら野球やってるやつらなんかには
負けられません!」なんて言ってたけれど
野球選手ってのはそれぐらいの大ものだと
私たちは思ってますよね。
「何が文武両道ですか」という感じでしたよね。
私たちなんかは、最近サッカー人口が多くなったな
と今思うじゃないですか。
実は違うんですよ。
松井のときにすでに逆転されてるんですよ。
そこが最後でこれからは減ることはないと思います。
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糸井 |
あとは、
本当にサッカーを好きな人がギャラが半分になっても
サッカーに賭けていられるかってことですね。
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増島 |
耐えるかですよ。
スポーツに関していうと、
あの“バブル時代”のなかにいた人たちは
「金を何に使おうか」と考えたわけですよね。
税金払うくらいなら余った金を何かにって。
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糸井 |
まったくそのとおりです。
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増島 |
当時の風潮として
「税金払うくらいなら海外に」というものが
いくつかあったわけです。
同時に
「税金払うならスポーツに」というのもあったんですね。
今なんか、私が少し前に調べたところによると
美術展の数なんて、バブル時代の半分ほどに
なってるらしいんです。
結局、彼らにとって絵画やスポーツというのは
余暇にしかすぎないんです。
ただ、私たちの考え方でいったら
それは余暇じゃないんですよ。生活そのものなんですよ。
政治とか経済と同じように考えてほしんですけれども、
それができないんですよね。
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糸井 |
もっと如実なのが格闘技なんです。
あれだけ団体が増えてしまって、
お客さんが全部埋まらないんですよ。
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増島 |
核分裂みたいにね。
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糸井 |
昔の全共闘の時代みたいにね。
どの団体も
「うち1番でほかはダメ」と言ってるから
えらいことになってるんです。
おそらく格闘技人口を考えると、やってる人の数は
そんなに多くないから、
今の人数からさらに増えるということはない
と思うんですよね。
そうなったとき、ふつうのサラリーマンと同じ給料なのに
あんなに痛いことをやりたいかどうかっていうことが
本当に問われると思うんですよ。
よく落合が、
「オレががんばってギャラを上げないと
あとのやつらに夢がなくなる」と言ったけど、
「夢って金額かよ」っていうことを
今あらためて問う時代だと思い始めてるんです。
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増島 |
Jリーグなんてまさにそうですよ。
1年で何億円プレイヤーっていうのが出ちゃうわけですよ。
もともとJリーグの団体の理念ていうのは
しっかりとあるわけですよね。
でも、一番注目しないといけないのは
10チームで始まったときでさえ
何の苦労もしてないという点なんですよ。
だからさっき糸井さんが言った“古田のチーム”ができたら
すごいおもしろいだろうと思いました。
結局Jリーグは、三菱自動車が浦和レッズを作って
日産がマリノスを作って、
そのなかで初めて「理念を大事にしましょうねっ」
と言っただけにすぎないんですよ。
本当の理念について考えて
チームを作ってきたわけではないんです。
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糸井 |
“青写真があって実行する”という
工業社会的な作り方してますよね。
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増島 |
だから今になってこういうことが起こったんですよ。
もし、企業が金を持っていて、
スポンサー料をガンガン出したとしても
私は結果として同じだったと思うんです。
だからバブルのせいでもないし、
金のせいではないとは思うんです。
何か人間がものをやるときに
そんなに簡単にはできあがらないという
教訓みたいなことだと思います。
それはブランドのカバンの話じゃないですけれども
「お前ら本当に持ちたいのか?」
と同じだと私は思います。
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糸井 |
選手は寿命が短いから
ほかの人より稼ぐべきだというのは分かるし
そうだとも思います。
なおかつ“いっぱい稼げる”いうのは
馬にとってはひとつの大きな人参になりますよね。
だけど「それが幸せか」って疑問を持つ人が増えて、
みんなが羨まないようになったら
「お金がいっぱいあること」だけでは
誰も尊敬しないわけですよ
林真須美でよく分かるじゃないですか。
そうなったときに
「果たして自分は何になりたかったんだろう?」というのを
客も選手も全部が考えたときに
ものすごく美しい、かっこいい人が生まれる可能性が
今あるんですよ。
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増島 |
だから“耐える”というのはそれぞれの性格があって
もちろん大変だと思うんですよ。
ですが、この横浜フリューゲルス合併の問題は
すごくいろんなことをはらんでたなあと思います。
“悪いのは企業だけか”ということなんです。
つまり、母体の企業が
お金がなくなったから業界から引くんだ
ということになりますよね。
そこの会社には労働組合がある。
その労働組合にしてみれば
年間10億もサッカーチームに出してるのは
おかしいと考えるでしょ。
「なんで我々にはボーナスを現物支給してるのに、
こっちには2億円、3億円入るんだ!」
てことになるわけですよ。それは当たり前ですよね。
“企業の倫理”というのは、
私はあっていいと思うんですよ。
企業の倫理は別に悪だけじゃないし、善でもない。
経済とか、そういう左右されるものではなくて、
不変の思想があるかということです。
たとえば、ホームタウンのために
何をしなきゃいけないのかということ。
じゃあ、選手は一度でもチャリティー活動をしました?
ノーギャラで、(サミー)ソーサみたいに
チャリティーで10億円集めてドミニカに送ったり
神戸の仮設を買ったり。
「そんなのパフォーマンスだよ」
って言うかもしれないけれど
私にしたら、
「パフォーマンスでもいいからやってくれよ!」
と言いたいですよ。
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糸井 |
見る側とやる側がいっしょに作っている実感
というのを作るためにどうしたらいいかっていうことを
背広組の人がちゃんとアイディアをださないとだめだし、
システムとして作っていかないと無理ですよ。
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増島 |
彼らを支援してるサポーターと言われてる人たちも
ユニフォーム組じゃないですか。
もう彼らには
アイディアを使う手段をサポートする人々が必要です。
だから背広組がちゃんと考えてあげないと。
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糸井 |
来月釣りのボランティア団体ができるんで
「手伝ってくれ」と言われてるんですが。
釣りってなくなっちゃうかもしれない遊びなんですよ。
特に内水面ていうのは魚がどんどん死んでいるんです。
「川がダメになる」、「湖がダメになる」
とよく言われるんですが、
もう根本的に生態系が壊れてるんですよ。
ある特殊の魚のせいにしているけれども
根本的に、水の問題が一番大きいわけですよ。
で、その水を“どう管理するか”という問題と
すべてがつながってまして
「釣りという遊びは島国のなかではもうできないよ」
という可能性だって子どもの子どもの時代には
あるかもしれない。
そこぐらいまである程度見通しながら
「昔はよかった」と言うんじゃなくて
「どういうふうに作っていこうか」というのを
考える団体なんてどこにもありゃあしないんです。
せいぜいが、
「釣り人が悪く言われないようにゴミ拾いましょう」
と言ってるだけなんですよ。
そういう“一日一善運動”ではない考え方を
しなければいけない時期が来るんですよ。
本当は始まってるんですけどね。
ぼくは
「なんかできることないかな」とずっと思ってて
“地球を大切に!”
のようなものには今まであまりのらなかったんです。
ですが、そのなかでひとつ考えたことがあって、
それは釣り具メーカーに考えてほしいんですが
お客さんを1500円の買い物をするときに
1510円で買ってくれる人と1500円で買ってくれる人と
2種類に分ける。
そこで10円よけいにあえて払う人っていうのが
自分が作ってるっていう実感を持つ人だと考えるんです。
シェアウェアの考え方ですよね。
ぼくはシェアウェアを見てて思ったんですけども
ほんとは誰も払わないはずですよ、
今までの経済原理でいったら。
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増島 |
よくチャリティーって言うじゃないですか。
100万円もらってぽんとやるのもチャリティーですよ。
でも自分の収入の1%を毎年渡すのも
チャリティーなんですよ。
そういう意味の考え方をスポーツにしてほしいんですよ。
つまりサポーターと言われる人が
今募金することも大事だけれども
もっと言ってしまえば
たとえばパンフレットを10円とか20円30円でも
売り出せばよかった。
それで集めていったほうがよかった。
たぶんバブルのときと比べると
金額が◯3つくらい違うと思いますよ。
それでもいいと思うんです。
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糸井 |
自分が作ってる側にいるということを
がなったり無駄に集まったりすることじゃなくて
きっと辛いとは思うんだけど
やはりそのエネルギーを
どうやってシステマチックに作り上げてくかがないと
あらゆるスポーツ団体ってつぶれますよ。
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増島 |
だから今回の横浜フリューゲルスの団交だって
けっこう笑っちゃうものがあったんです。
年末に1度、午前2時くらいまで続いたものが
あったのですが、現場で取材していたら
団交に答えてるフリューゲルスの人が
「ごちゃごちゃいってんだったら金出せ!」
て言っちゃって(笑)。
それけっこう爆笑だったんですけども
でも本当にそうなんですよね。
さっきの糸井 さんじゃないですけれども
「過去をもうちょっと振り返りませんか?」
ということもある。
それはなぜかというとね、
最終戦の横浜フリューゲルスの試合に
1万3000人も入ってるわけなんです。
でも、97年の最終戦のホームゲームは6000人なんですよ。
2分の1ですよ。
「君たちどこにいたんですか?」みたいな(笑)。
そう言われてもしょうがないじゃないですか。
今回は確かに1万3000だった。
けれども、ものを決断するのは
ポイントでするわけじゃないですからね、
長い線で判断しますよね。
だからきっと、
背広組はおととしの年末には決めてたんですよ。
来年はできないということを。
つまりもうできないんだっていう数字を
与えてたわけですよ
そこのところをもうちょっとこだわらないとね。
そこにこだわれば、今おっしゃったように
10円から始めようって覚えると思うんですよ。
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糸井 |
ベイスターズは市長まで巻き込まれてたじゃないですか。
あれはお得ですよね。
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増島 |
(スポーツライターの)
二宮清純さんとホームタウンの話をしまして、
横浜ってすごく特殊な地域なんですよね。
なぜかというと
中華街がバックに付かなかったら
あの町では生き抜いていけないからなんです。
横浜ベイスターズは『マルハ』で食品会社だから
大洋漁業というのをすごく全面に打ち出したら
市長も含めて総スカン食らうとこだったんですよ。
だから“ベイスターズ”とした。
二宮さんが言ってましたが
シーズン中には中華街のどの店にも
「がんばれ! ベイスターズ」という
看板なり、旗なりがあったんですよ。
横浜の中華街っていうのは日本で最大の食品街だから
食品メーカーの競合がものすごいらしいんですね。
そりゃあハム会社もいるわね、もうすべてがあるんです。
だからやっぱり市長をつかむためには
“横浜ベイスターズ”なんですよ
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糸井 |
あの横浜のメガネをかけた
責任者のような人がいるじゃないですか?
あの人がきっとこつこつと考えてたんですかね。
|
増島 |
ところが皮肉だったのが、
その考え方のベースになったのがサッカーだったんですよ。
横浜は横須賀に二軍を持ってるんですよ。
あそこも横須賀ベイスターズですもんね。
スタジアムも横須賀の市長に
ちゃんとなおさせたんです。
「サッカーだって
ホームタウンと言ってるじゃないですか」と。
ロッテだってそうですよね、
ロッテマリーンズじゃない。千葉マリーンズなんです。
そう言ったのがJリーグができたときですから。
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糸井 |
それもちゃんと過去を振り返ればよく分かりますね。
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増島 |
選手にとって、がらがらのスタンドでやることは
優勝につながらないですよ。
過去にもそういうデータっていうのはないですもんね。
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糸井 |
あの大堀さんて人かあ、やっぱり。
あの権藤さん入れるのを条件に大矢さんを押した人だよね。
ぼくあの人のドキュメントを見たんですよ夜中に。
彼はファンなんですね。
本当にファンなんでどうしたらいいいかをものすごく
考えてるんですね。
|
増島 |
讀賣の渡邊社長は“赤字ばっかりでもうダメ”
と引きましたけど、それは自業自得ですから。
プロ野球の考え方ともう変わらないと思います(笑)。
変えることもない。
だけど大堀さんのえらいところは
自分で考えないんですよね。人に聞くんです。
だから変わるんですね。
時代によって変わるし、状況によって変わるし。
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糸井 |
金とパワーでは動かないものということに関しては
渡邊さんは読めないですね。
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増島 |
私も原稿に書いたんですが、
確かに数字も読めて、赤字も読めたと。
だけど読めないものはたったひとつだった。
それは“人間の怒る感情”ですよね。
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糸井 |
生き物だっていうことを分かってますよね。
それすらも数字に現われるはずだという言い方も
できるにはできるんだけれども。
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増島 |
讀賣サッカークラブという
どういう形であっても続いただろうものが
いきなり“日本テレビフットボールクラブ”ですからね。
明らかに違う団体ですよ、社内愛好クラブみたいな(笑)。
そういうことに対する違和感みたいなものは
読まないんですよね。
株譲渡したんだから「自分でやれ」というね。
でも、分かりやすくていいですよ。ああいう人たちって。
すごく思います。
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糸井 |
要するに、まず提案して間違ってるかどうかを
とにかく問う。
逆にいうと中間管理職系の人たちが
全部問わない人たちばかりになってしまったから
“好き嫌い”なんていうのをともかくとして、
ナベツネさんという人は、
考えてみれば相対的に正しいんですよ(笑)。
|
増島 |
逆に渡邊さんなんかは巨人軍が続くと思ってるから
そこは私は分かりやすいなと思うんですよ。
もしかしたら巨人がロッテみたいに
全然お客さんが入らない日が
来るんではないかなということを思わないんですよ。
あの人たちにはそういう危機感というのがないんです。
そこがベイスターズと違う点かなと私は思いますね。
「食品業で横浜中華街を敵に回すとどうなるんだろう?」
「ここを敵に回したらお客さん入らないだろう」と。
そう考えたらやはり“横浜ベイスターズ”だというね。
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糸井 |
ほんとは、そうも言ってられないはずだけど、
新聞は刷っちゃったら宅配で
自動的みたいに配られるじゃないですか。
食品は買うか買わないかそのつど決めるものですもんね。
つまりお客さんとのインターフェースが違うんですよ。
|
増島 |
全然違いますよ。
だからその部分で皮肉な結果だなと思いますよね。
|
糸井 |
やはり、サッカーがきっかけか。
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増島 |
ロッテのオーナーは、ちゃんとJリーグへあいさつに来て
「千葉マリーンズに名前変えます」と言ったそうです。
川淵チェアマンのところへ来て
「こういう考え方でやりました」
ときちんと言ったらしいんですね。
まあロッテのすべてがえらいわけじゃないですが、
そういうことはやってきたんですよ。
Jリーグの発想から取ってるわけですからね。
私はJリーグはこれでいいと思いますよ。
むしろ、お金がないからとか、
不況だからと出てくところというのは
すごく分かりやすいわけですよ。
逆に言えば、またお金が儲かれば
戻ってくる人たちですからすごく分かりやすい。
そこに論評はいらないと思うんですよね。
「理念がこうで、それを理解されなかった」とか、
「地域に理念が密着してなかったからこうなった」とか、
そんな難しい問題じゃないんですよ。
もっと簡単だと思うんですよね。
だからあるべき姿が戻った現在に
選手たちがどこまでがんばるかってところですよね。
ホームタウンもここからが勝負です。
たとえば、
「え、陸上部?
そんなの今やってる場合じゃないだろう!」
とつぶしてしまうなんて、
どこの会社でも当たり前の時代ですよ。
横浜Fの選手は失職してませんよ。
でもアマ企業選手はスポーツも仕事も
奪われてしまう。
ところが、どこかの会社が
少し羽振りがよくなるとしますよね。
そうしたら、
「よしまた陸上だ」と言うわけですよ。
簡単、単純ですもの。
中田の取材でペルージャに行ったときに
思ったことがあるんです。
ペルージャの相手をしているアマチュアのクラブが
歴史が95年とか85年だと言うんです。
私はそれに驚きました。
創立が千九百十何年なんて書いてあるんですよ。
それがアマチュアクラブですもんね
かなわないなと思いました。
|
糸井 |
その部分でホームだ、アウェイだっていうのを
考えなきゃならないんでしょうね。
|
増島 |
だから中田はいい意味でこだわってないんですよ。
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糸井 |
そういう増島さんは何に99年突っ込んでいくんですか?
|
増島 |
ひとつはオリンピックの前の年になるので、
オリンピックの年じゃなくて
オリンピックの前の年の人々の動き
スポーツ選手の動きですかね。
だってオリンピックの年になったら
いやでも絶対注目されるということが分かってるから
その1個手前ですよ。
その前のプレーだとか、そういう発想でやっていきます。
|
糸井 |
要するにそれもサッカーですね?
|
増島 |
いえいえオリンピックです。
オリンピックにあんまりサッカーは関係ないですけど
関係ないと言ったら怒られるけど(笑)、
とにかくオリンピック選手ですよ。
それともうひとつは
少しシステマティックな問題にはなるけれど
薬物問題ですね。
“20世紀”というところで出てきたものですからね。
|
糸井 |
“マグガイア”という
すごい見本ができちゃいましたからねえ。
アメリカ人ってつまり
「ルールに觝触しなければ
全部やってもいい」という感覚なんですか?
|
増島 |
そうではなくて、「ルールに觝触しなくて
アメリカ人(白人)ならまあOKということです。
もしソーサが薬物を使ってたらどうだったでしょうか?
マグガイアが服用している薬は
もうオリンピックでは使えないものですからね。
でもアメリカという国は
「薬を飲んでいる」と公言しても
その一方ではメジャーで
70本もホームランを打っていると
みんな拍手してしまうんですよ。
あの国はそういうところに何か矛盾点がありますね。
嫌悪感を覚えたことがあるんです。
中国の選手からドーピングが出てきたら
彼らは試合をボイコットするんです。
「同じところでは泳げません」と。
ところが自分たちの国で17才、15才の少女から
ドーピングが検査で出てきたと聞いたら
なんて言ったと思います?
「未成年だから仕方がなかった」と言うんですよ。
そういう発想ですもの。
自分たちのことを何とかプロテクトするんですよ。
93年の陸上の世界選手権のときに
馬軍団ってありましたよね。
あれがどんどん世界記録出したじゃないですか。
すると記者会見アメリカの記者の最初の質問は、
「なんの薬を飲んでるんですか?」ですよ。
そんな質問ばっかりで
中国の子たちなんかはすごく泣いてたましたもんね。
|
糸井 |
じゃあ来年はそれを本にするつもりなんですね。
|
増島 |
また「はい」と言うと苦しいんですけれど。
でも薬物問題は、
本当は今年やらなければいけなかったんですけどね。
|
糸井 |
オリンピックの前の年というのが
ちょうどまたいいじゃないですか。
|
増島 |
両方とも面白いテーマではありますよね。
結果は大事ですよ。
でも結果見て判断するなら、取材を考えていくうえで
別に辛くないんではないかなと思うんです。
ところが、結果ではないところを考えてしまうと
辛くなりますからね(笑)。
「何でかな?」とか「どうしてかな?」とか、
「どうやって聞けば出てくるかな?」とか。
でも、それが私にとっての
スポーツライティングですから仕方ないですかね。
|
糸井 |
ではぼくもそのプレオリンピックを
うっすらと意識しながら。
|
増島 |
2年前の発想だと思いますよ。
たとえば誰かがシドニーオリンピックで
金メダルを取りますよね。
そのときに糸井さんが99年に見たものは
絶対につながってるはずですから。
つまり2位に驚くべきなんです。
ベイスターズでの2位や30年振りだかのAクラス入りに
驚くべきで、金メダルを取ったときには
「やっぱりな」と思えばいいわけですよ。
(了)1998/11鼠穴にて |