第6回 チロリン村も、 ケペル先生も、通じない。

石井 この卓球台は、
メディアラボ新館のシンボルみたいになって
キャンパスじゅうからみんなが卓球しに来ます。
海外からもよく来てくれます。
糸井 井戸みたいなもんを
作っちゃったわけですね。
石井 そうですね。井戸端です。
井戸端の会議。

糸井 それは、できたきっかけが
先生が自分のしゃべってることを
聞いてもらえる場所を
作ったということだからです。
それで、大学のお金使っちゃったから(笑)。
石井 学生の尊敬を獲得するために。
糸井 その構造はものすごく見事で、
木下藤吉郎の草履みたいなことだなぁ。
石井 いやいや、
フォッサマグナ(発作マグな)的な‥‥
ほとんど事故ですよ。
糸井 (笑)

石井 しかし、あらゆるトラブルを
次のオポチュニティに変えていこうという
マインドというのは、いつも持っています。

ミュージックボトルを作ったのも、
枕もとで天気予報を知らせる小瓶を
床に臥していた母親に
作ってあげたいということから
出発しているんです。
瓶を開けたときに
天気だったら鳥の声がする、
雨だったら雨音がする、
そういうものを作ろうと思っていました。
ですから、発想のもとは
音楽ではなかったのです。
そのうちに母は亡くなってしまいました。

母の死や、
学生の尊敬が得られないこと、
そういう問題を経験して
常に次の作品を生んでいると思います。
糸井 つまり、いつも「ネガティブ」から
スタートしてますね。
石井 はい。
しかも、ぼくは
バレーボールやバスケットボールをやる
体格ではないので、
できませんでした。
だから卓球を選んだのです。
「卓球と研究は
 負けない人生を!」
ということで、
青春時代を送ったことが
いまにつながっています。
でも、タッキューとケンキューって、
を踏んだのが、
今度はアメリカでは伝わらない。
一同 (爆笑)
糸井 (笑)しょうがないですよ。
石井 許せない。
それは戦争で負けたからですけども、
基本的に日本語は世界の言葉じゃない。
糸井 ははははは。

石井 そういう苦しみを超えながら、
卓球と研究という
ニュアンスを伝えたい
ということで、
こういう作品に至ったわけです。
糸井 卓球と研究、ぼくはわかりますよ(笑)。
石井 ええ(笑)、ありがとうございます。
しかし、そういうものを受け入れないのが
アメリカの厳しさだと思うんですよ。
シンプソン見て笑えないと生きていけない、
「チロリン村とくるみの木」
とか、誰も見てない、
ケペル先生のことも知らないし。
糸井 手だけリアルなケペル先生(笑)。
ローカリティの問題は
これから先、
ずーっと消えないですね。
石井 いっぱいネタはあるんけど、ネタが使えない。
この苦しさはありますよ。
糸井 それは、言語が無数の方言で
成立してるということで、
うれしいことでもありますよね。

石井 だからこそ、同時に、新しく、
共通の言語を作らなきゃならない。
ですから、この卓球が
共通の言語なわけです。
たとえケペル先生を知らなくても、
ピンポンはできます。
糸井 共通の言語の場所、
さっきの砂の、あの世の場所ですね。
石井 ええ、まさに。
みんな、子ども時代に
砂場で遊んでたわけです。
ですから、そういう経験を
みなさんが持っています。

ぼくらの仕事はそういった
共通体験、最大公約数を
いかにリデザインするかです。
糸井 西洋の人たちは、
目的があるかないか、
動機があるかないかということを
常に中心に考えているんじゃないかと
思うことがあって‥‥。
石井 そうだと思います。
糸井 しかし先生も、
そして実はぼくも、
ネガティブからスタートしてる。
石井 そうですね、劣等感です。
糸井 しかも明るく。
石井 劣等感を明るく。
糸井 「目的」と「劣等感」は
似てるけど、ずいぶん違います。

嘘の希望をしゃべって
リーダーに立候補して
それに合わせて
「みなさんいらっしゃい」と誘う形が、
どうも、ぼくにはそぐわないんですよ。
石井 あ、それってわかります。
やっぱり、
ストラグル・フォー・エグジステンス
というけど、
人間、そんなかっこいい目標を抱えて、
東大一直線って、ありえないわけです。
糸井 そうそう。

石井 いろいろ紆余曲折があるわけで、
それをいかに肥やしにするか、
たのしむかが重要だと思います。
糸井 そう。それは
個性でもあるわけだから。
石井 アメリカに来てやっていくことは
インフェリオリティー・コンプレックス
ばかりです。
劣等感の塊です。

aとtheも間違えて、
RとLの発音もそんなにできない。
どう考えても直らない。
それでも伝えるためには、やっぱり
中身がなきゃいけない。
ハートをつかむストーリーがなきゃいけない。
伝える「もの」がなきゃいけない。
だから、ぼくの場合は
講演のスライドもビジュアルにします。
糸井 ああ、まさに、そうですよねぇ。

(つづきます。動画もぜひ)


前へ

2011-05-18-WED

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN