石井 |
この卓球台は、
メディアラボ新館のシンボルみたいになって
キャンパスじゅうからみんなが卓球しに来ます。
海外からもよく来てくれます。
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糸井 |
井戸みたいなもんを
作っちゃったわけですね。
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石井 |
そうですね。井戸端です。
井戸端の会議。
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糸井 |
それは、できたきっかけが
先生が自分のしゃべってることを
聞いてもらえる場所を
作ったということだからです。
それで、大学のお金使っちゃったから(笑)。
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石井 |
学生の尊敬を獲得するために。
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糸井 |
その構造はものすごく見事で、
木下藤吉郎の草履みたいなことだなぁ。
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石井 |
いやいや、
フォッサマグナ(発作マグな)的な‥‥
ほとんど事故ですよ。
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糸井 |
(笑)
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石井 |
しかし、あらゆるトラブルを
次のオポチュニティに変えていこうという
マインドというのは、いつも持っています。
ミュージックボトルを作ったのも、
枕もとで天気予報を知らせる小瓶を
床に臥していた母親に
作ってあげたいということから
出発しているんです。
瓶を開けたときに
天気だったら鳥の声がする、
雨だったら雨音がする、
そういうものを作ろうと思っていました。
ですから、発想のもとは
音楽ではなかったのです。
そのうちに母は亡くなってしまいました。
母の死や、
学生の尊敬が得られないこと、
そういう問題を経験して
常に次の作品を生んでいると思います。
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糸井 |
つまり、いつも「ネガティブ」から
スタートしてますね。
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石井 |
はい。
しかも、ぼくは
バレーボールやバスケットボールをやる
体格ではないので、
できませんでした。
だから卓球を選んだのです。
「卓球と研究は
負けない人生を!」
ということで、
青春時代を送ったことが
いまにつながっています。
でも、タッキューとケンキューって、
韻を踏んだのが、
今度はアメリカでは伝わらない。
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一同 |
(爆笑)
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糸井 |
(笑)しょうがないですよ。
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石井 |
許せない。
それは戦争で負けたからですけども、
基本的に日本語は世界の言葉じゃない。
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糸井 |
ははははは。
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石井 |
そういう苦しみを超えながら、
卓球と研究という
ニュアンスを伝えたい
ということで、
こういう作品に至ったわけです。
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糸井 |
卓球と研究、ぼくはわかりますよ(笑)。
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石井 |
ええ(笑)、ありがとうございます。
しかし、そういうものを受け入れないのが
アメリカの厳しさだと思うんですよ。
シンプソン見て笑えないと生きていけない、
「チロリン村とくるみの木」
とか、誰も見てない、
ケペル先生のことも知らないし。
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糸井 |
手だけリアルなケペル先生(笑)。
ローカリティの問題は
これから先、
ずーっと消えないですね。
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石井 |
いっぱいネタはあるんけど、ネタが使えない。
この苦しさはありますよ。
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糸井 |
それは、言語が無数の方言で
成立してるということで、
うれしいことでもありますよね。
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石井 |
だからこそ、同時に、新しく、
共通の言語を作らなきゃならない。
ですから、この卓球が
共通の言語なわけです。
たとえケペル先生を知らなくても、
ピンポンはできます。
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糸井 |
共通の言語の場所、
さっきの砂の、あの世の場所ですね。
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石井 |
ええ、まさに。
みんな、子ども時代に
砂場で遊んでたわけです。
ですから、そういう経験を
みなさんが持っています。
ぼくらの仕事はそういった
共通体験、最大公約数を
いかにリデザインするかです。
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糸井 |
西洋の人たちは、
目的があるかないか、
動機があるかないかということを
常に中心に考えているんじゃないかと
思うことがあって‥‥。
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石井 |
そうだと思います。
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糸井 |
しかし先生も、
そして実はぼくも、
ネガティブからスタートしてる。
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石井 |
そうですね、劣等感です。
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糸井 |
しかも明るく。
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石井 |
劣等感を明るく。
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糸井 |
「目的」と「劣等感」は
似てるけど、ずいぶん違います。
嘘の希望をしゃべって
リーダーに立候補して
それに合わせて
「みなさんいらっしゃい」と誘う形が、
どうも、ぼくにはそぐわないんですよ。
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石井 |
あ、それってわかります。
やっぱり、
ストラグル・フォー・エグジステンス
というけど、
人間、そんなかっこいい目標を抱えて、
東大一直線って、ありえないわけです。
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糸井 |
そうそう。
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石井 |
いろいろ紆余曲折があるわけで、
それをいかに肥やしにするか、
たのしむかが重要だと思います。
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糸井 |
そう。それは
個性でもあるわけだから。
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石井 |
アメリカに来てやっていくことは
インフェリオリティー・コンプレックス
ばかりです。
劣等感の塊です。
aとtheも間違えて、
RとLの発音もそんなにできない。
どう考えても直らない。
それでも伝えるためには、やっぱり
中身がなきゃいけない。
ハートをつかむストーリーがなきゃいけない。
伝える「もの」がなきゃいけない。
だから、ぼくの場合は
講演のスライドもビジュアルにします。
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糸井 |
ああ、まさに、そうですよねぇ。
(つづきます。動画もぜひ)
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