最終章 そして卒業か (6)
さぁ、これで、レッスン最終章の最後の回。
お名残惜しいのは山々ですが、
レッスンという「習い事」は、卒業です。
だって、いつまでも続けていったら、
なにか難しいことをしているみたいじゃないですか。
ではでは、南波先生、最後のレッスンを
「また映画の上映情報を一刻も早く得るためにも
このページ、『お気に入りに追加』しておきましょうか」
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よし、これで「お気に入り」関係の復習に移れそうだ。
「お気に入り」タブをクリック。
IEを最初に使った際に、説明上、私が勝手に追加して
おいたものがそのまま残っている。
その時以来、特別「お気に入り」なページに遭遇したと
いう形跡がない。
かなりコアな「ほぼ日」ファンであるとも言える。
ノリコさんはいろいろなサイトに行ってらっしゃると
いうことなので、
「お気に入り」エクスプローラーバー内の「整理」→
「新規フォルダ」をクリックし、「ノリコさん」という
フォルダを作ってみる。余計なお世話ではあるが。
「これ、ノリコさん専用のお気に入りフォルダです。
何か気に入ったページがあったら、『お気に入りに
追加』して、後で『お気に入りの整理』でそれをこの
フォルダにドラッグして入れておけば便利かもしれま
せんね。リストが増えていくとやっぱりフォルダで
整理しておいた方がわかりやすいので」
「なるほど。わかりました」とノリコさん。
「で、この『区切りの挿入』っていうのは何かしら」
ノリコさんがいいものを発見してくださった。
クリックしてみる。
「そう、こういうことなんです。必要に応じて、
『お気に入り』のリスト中の好きなところに区切り線が
入れられるわけです」
「あ〜、ホントだ」
「これ、ドラッグすると移動できますよ」
そのウィンドウ内の他の場所をクリックして区切り線の
選択をやめると、細く薄い線に変わる。
「あら〜、本来はさっきみたいな太い線っていうわけ
じゃないのね!」
「ええ、今、これを選択してるよ、っていう目印として
太くなっていたんですね」
ケースも棚も使わずにただ物が詰め込まれているような
押し入れ。本もゲームソフトも服も食料も工具も一緒。
使う人の勝手ではあるが、取り出す際の効率を考えると、
ケースや仕切りの一つや二つは必要であろう。
忙しいとどうしても「後でやるから」と何でも放置して
しまいがち。そして後になればなるほど負担が増大。
10分でできるようなことが一日仕事になってしまう。
「お気に入り」や「ブックマーク」も日頃からこまめに
整理しておきたいものだ。
「家事の才能に欠けている」と夫に皮肉られ素直に
納得している大雑把な私でも、なぜかiMacの中では
立派な主婦かもしれない。
フォルダの中にサブフォルダ、その中にもう一つ。
目的のものにたどり着くまでが面倒な時もある。
でも、いちいちケースの蓋を次から次へと開けるのとは
違って必要なのはクリックする才能くらいだ。
いや、そんな才能、自慢にもならない。
そもそもそんな才能自体、存在しないか。
人生、クリック一つでやってゆける時代が来たら
かなり怖いだろうな、などとバカなことを考えながら
洗うべき皿たちが大勢待っているキッチンを思い出し
ちょっとうんざりする。これが現実だ。
人生、やはり気力が大切だ。体力もつけよう。
才能のなさに甘んじている場合でもない。
暗転。
舞台は急遽うちの流し台から家事の才能にもあふれた
ミーちゃんのお宅に戻る。
「あと、この『ページホルダ』っていうものですが。
これは初めて紹介するものかもしれませんね」
「そうね。これ、何なの?」
実際にやってみながら説明。
「タブをクリック。エクスプローラー・バーが現れる。
右上の矢印マーク付きのボタンを押すと右ウィンドウに
表示中のページが左ウィンドウに表示されます。
それで、そこからリンクを指定すると右ウィンドウに
リンク先のページが表示されるんです。
つまり、二つのページを同時に表示できるということで、
元のページはそのままにリンクに行ったり来たり
できるので便利ですよね」
表示切り替えボタンを押すと、左ウィンドウ内はリンク
のみの表示になり、純粋にリンク専用ウィンドウと化す。
また、消しゴムマークのボタンで、そのウィンドウの
内容を消すことができる。
ブラウザもどんどん進化する。
次のバージョンではどういう機能が盛り込まれるのか。
他のブラウザについても同様である。
ライバル合戦を繰り返しながら、これでもか、これでもかと
ユーザーに親切設計なソフトが誕生してゆく。
クリックや文字入力も必要なし、頭に描いているご希望の
サイトにお連れいたします・・・そんなサイキックな
ブラウザの登場はちょっと遠慮したいが。
ミーちゃん邸に差し込む柔らかな日差しも傾いてきた。
そろそろ去らねばならない時間である。
「あ、そうそう。デジタルカメラ、新しいのを買ったん
ですよ」
そう言ってその実体をバッグから取り出す。
「あら、そうですか〜」
ミーちゃん、さささ〜っと部屋を横切る。
こんな私にもマンウォッチングの才能は存在している。
見逃さない。ミーちゃんがさささ〜っと口紅を塗るのを。
「一眼レフの、最初の予算をちょっとオーバーしてしまった
カメラなんです」
「あら〜」
「じゃあ、せっかく持ってきたので」
この言葉一つでもう窓際へさささ〜っと移動。
日当たりのいいスポットに立ってらっしゃる。
ミーちゃん、モデルの才能もあるようだ。
何一つとってみてもプロ顔負けのレスポンスのよさ。
そして恥じらうようなお顔がこれまた最高だ。
ポイントはもう一つ。
恥じらいながらも堂々としているのだ。
相反するような要素が混ざり合うところに生まれる魅力。
これは一種の上品なフェロモンだ。
80代にしてこういう魅力を放つ女性はそう見つからない。
そして、ミーちゃんとコンピュータ。なんの違和感もなし。
「80代」としてのサンプル的には少々例外的な素質を
お持ちの女性かもしれないが、言えることは、好奇心ある
ところに老いはなし。
まさにインターネット時代を代表する80代である。
すがすがしさ、ういういしさ、そして「エサ」を求めて
やまない前向きな欲。
その小柄な身体には納まりきれない大きな世界を持つ女性。
デジタルカメラの液晶画面には、まさにそんな新鮮度の
高い、凛としたミーちゃんの姿が鮮明に映し出されていた。
レッスンは、これでおしまいです。
乱暴に先生に選ばれてしまって、
翻訳の仕事や母親としての仕事や、奥様としての仕事や、
町内会での仕事でたいへんなのに、
たのしく親切なレッスンをしてくださった
南波あつこ先生、ほんとにありがとうございました。
たぶん、ですが、
ミーちゃんが疲れちゃってなければ、
届いた時に、日記を掲載すると思います。
タイトルはちょっとだけ変えて、
「80代からのインターネット生活」とでもしましょうか。
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