『粘菌生活のススメ』の出版準備は、
順調に進んでいました。
本の内容には満足していたのですが、
実は、ひとつだけ、心残りがあったんです。
悪魔的美しさを誇るルリホコリ系の写真を、
載せていることは載せているものの、
それは、粘菌研究者・川上新一博士所有の、
標本を撮影した写真だったんです。
ルリホコリの仲間は、好雪性粘菌と言って、
雪国で多く見られる種類なんです。
変形体は、主に雪の下で活動していて、
春になって雪が解けると子実体をつくるという、
いわば、粘菌界の異端児(笑)。
できるなら、標本ではなく、
フィールドで撮影したルリホコリの写真を載せたい!
撮影のタイムリミットは、すでにギリギリ。
印刷会社に入稿したデータは標本の写真ですが、
数日後に出る色校正を戻すときに写真を差し替える!
という荒業を仕掛けるわけです。
つてをいろいろたどった結果、
筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所で、
毎年4月に発生が確認されているという情報を入手。
早速連絡してみると、なんと、その年に限って、
天候不順で発生が確認できてない、とのこと。
しかしながら、諦めきれず、
3人の大学院生が探索に協力してくださるとのことで、
雪が残る菅平高原へ向かったのでした。
4人で筑波大学の広大な敷地、
そして、近くのスキー場周辺を探すも、
やはり、見つからず……。
諦めて帰ろうとしたそのとき、
ふふふ、と、女神が微笑みました。
なんと、筑波大学の研究棟の真横、
ぼくが車を停めていた場所の真ん前の雑木林で、
ルリホコリの仲間が見つかったんです!
手伝っていただいた3人の大学院生には、
感謝の言葉しかありません。
いやあ、感激しましたねえ。
特に、マクロレンズを使ってアップで撮影したとき。
目に前にあるのは、まさに、瑠璃色の宝石です。
何枚シャッターを切ったことか。
粘った甲斐あって『粘菌生活のススメ』に、
フィールドで撮影したルリホコリの仲間の写真を、
載せることができました。
今回、『もりの ほうせき ねんきん』という、
子ども向けの粘菌の本を出すにあたり、
一番最初に考えたことは、ごく単純に、
粘菌という生きものがいることを知ってほしい、
ということでした。
粘菌という生きものを知れば、
粘菌が気になり、粘菌が生きている環境が気になり……、
という感じで、子どもたちが、少しでも、
自然に興味を持ってくれたらいいなあ、と思ったわけで。
そして、粘菌という生きものを紹介するなら、
美しい子実体の姿を見てもらうのがいちばん。
ぱっと思い浮かんだのがルリホコリの仲間でした。
まさに、宝石のように美しいですから。
もちろん、大人も同じこと。
粘菌という生きものを通して自然を見ることで、
今までと違った自然が見えること間違いなしです。
粘菌という生きものに少しでも興味を持ったら、
ぜひ、野外で、本物の粘菌を探してみてください。
探しやすいのは、粘菌の子実体です。
梅雨の晴れ間、あるいは、梅雨明けすぐくらいに、
木がたくさんあるような場所へ行き、
倒木、枯れた立木、生木のウロなどを探すといいかも。
木に顔を近づけて、じっくり見てみてください。
気づいてないだけで、
粘菌は、けっこう身近にいるんです。
その宝石のように美しい粘菌は、
筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所の、
駐車スペースの真ん前にいたのでした。
筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所の、
駐車スペースの真ん前にいたのでした。
一番最初の写真は、見つけた場所で撮影したもの。
この写真はルリホコリの仲間が発生している落枝を日影に移し、
フラッシュ3灯使って撮影しました。
この写真はルリホコリの仲間が発生している落枝を日影に移し、
フラッシュ3灯使って撮影しました。
これまた美しい、コンテリルリホコリ。
山形自然博物館で川上新一博士所有の標本を撮影。
山形自然博物館で川上新一博士所有の標本を撮影。
シロイトルリホコリ。
「球」の直径は2mmほど。
山形自然博物館で川上新一博士所有の標本を撮影。
「球」の直径は2mmほど。
山形自然博物館で川上新一博士所有の標本を撮影。
キンルリホコリ。
山形自然博物館で川上新一博士所有の標本を撮影。
山形自然博物館で川上新一博士所有の標本を撮影。