「おいしそうに撮るコツはただひとつです」 | |
「ぼくが撮るとおいしそうってことは ぼくにはそれができてるってことですか。 わかってないんですけど‥‥」 |
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「それはぜひ習得したいところです」 |
あのう、基本的な質問なのですが、 レストランで勝手に 撮影してもいいものなんでしょうか。 |
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ひと言、お店の人に ことわったほうがいいでしょう。 一眼レフにかぎらず、携帯にしても コンパクトデジタルカメラにしても。 |
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はい。 | |
でも「どうぞどうぞ」というお店でも フラッシュを使うのはマナー違反ですよね。 |
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ほかのお客さんのめいわくになりますものね。 | |
あるお店で、カメラいいですかって訊いたら 「お写真はよろしゅうございますが どのようなカメラをお使いでしょうか。 シャッター音が大きくなりますと ほかのお客さまの 御迷惑になりますので」と 大きいカメラだったらダメですよということを やんわり言われたことがあります。 |
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そんななかで一眼レフを使うのは やっぱりだめでしょうか。 |
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一眼レフが絶対だめっていうことじゃ ないと思いますよ。 でもやっぱり、 場の雰囲気を壊すようなことは したくないですよね。 |
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静かなレストランで プロが使うような大きな一眼レフを出して 「よっしゃー!」 なんて撮りはじめたら‥‥ |
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そりゃ、マナー違反だよね。 それにフラッシュを使うなんて やっちゃいけないことだよね。 そう考えると、やっぱり、ちいさな コンパクトデジタルカメラや、 前に甲野さんに勧めた オリンパスのE-420にパンケーキレンズ、 みたいな組み合わせだったら、 大丈夫だと思うんです。 でもこれは明確な基準が あることではないので、 「自分がやっていることは、 この場の雰囲気をこわさないだろうか」 ということを、大人なのですから、 自分で考えるべきですよね。 はいっ! |
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はいっ! | |
ついつい、写真を撮りたくて、 夢中になっちゃうんですよね‥‥ 反省しました。 |
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さあ、そんななかで おいしそうな写真を撮るには? ということについての まとめに入りたいと思います。 |
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そんなに難しいことではないですよ。 答えを言いましょうか。 |
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はい! ぜひ! | |
おいしそうだなあと思って撮ることです。 | |
はっ? | |
へっ? | |
それがすべてだと言って いいくらいなんですよ。 一眼レフであろうと、 コンパクトカメラであろうと、 レンジファインダーであろうと、 「おいしそう」と思って撮ること。 |
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はい‥‥では、 取材にあたって用意した ふたつの写真がありますので それで検証してみましょうか。 おなじような茶色い弁当を ふたりの人が撮りました。 ▲撮影:シェフ「おいしいダイエットゴリラ弁当」 ▲撮影:モギ「まずそうなダイエットゴリラ弁当」 |
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どっちもぼくの弁当じゃないか。 どっちもちゃんとうまいんだぞ。 |
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そういうわけではなくてですね、 2枚目はモギちゃんが 「私が撮るとおいしくなさそうだ」って よく言っているので、 その代表作をお借りしてきました。 本人も「うわ、ぱっさぱさ!」と思って 撮ったと申しておりました。 |
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言うほどまずそうじゃないですよ(笑)。 | |
まあ、でもシェフの写真が、 よりおいしそうなのに比べて、 という意味です。 |
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「シズル」っていう言葉、わかりますか? | |
あ、聞いたことあります。 「よだれ」って意味? |
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ちがうちがう(笑)。 シズル感、というふうに使うんだけれど。 |
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「シズラー」という ステーキチェーンがあるから きっと食べものまわりのことばですね。 |
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調べてみました。 「肉が焼けるときのじゅうじゅう言う音」 を英語でsizzleというそうです。 |
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そう、もともとはそうなんだけれど 写真用語では、 食べもののおいしそうな感じから、 食べものに限らず そのものの臨場感っていうか、 魅力を伝えることができている いきいきした表現をあらわすんです。 わかりやすいのはこういう写真だね。 ▲撮影:シェフ「おいしいつけもの」 ▲撮影:シェフ「おいしい牡蠣」 お漬物のみずみずしい感じとか、 魚介類の新鮮そうな感じ、 オリーブオイルが光ってる感じ、 こういうことなんです。 |
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ラーメンの湯気も シズル感ですね。 |
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そうそう。 食べ物をおいしそうに感じる、感じないって、 シズル感で左右されるところがあるんですよ。 これがもし、水気や油っ気がなかったら、 新鮮じゃない感じに見えるんです。 で、モギさんの食べもの写真は、 そういうふうにちょっと見えちゃう。 |
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じゃあ、シズル感を どうやって出すのかというと‥‥ |
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それが、「おいしそう」って ちゃんと感じて撮ることなんです。 |
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ああ、ぼくはいつも そう思いながら撮ってます。 |
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でしょう。そして、シェフは、 食べものの写真を撮るのに ちょっと時間をかけてるんじゃないですか。 |
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はたから見ておりますと、 かなりじっくり撮っています。 いままさに食らいつかん! という感じです。 |
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モギさんは、素早いでしょう? | |
その通りです。 手を伸ばしてさっと撮っています。 瞬撮ですからね。 「はい、終わりっ」。 シェフは「ちょ、ちょっと待って、 いま撮るから。待っててね」って感じですね。 |
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「うわあ〜、これ、うま、そ、う〜っ!」 みたいにして撮っているでしょ。 |
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料理の写真は腹が減っているときの シェフに頼めと言われています(笑)。 |
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ああ、なるほどね。 | |
そう。ほんとうにそう。自分でもそう思う。 腹が減っているとき、 「食べていいの? 食べていいの?」 って思いながら撮っていると、 あとから見ても おいしそうな写真になってます(笑)。 |
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かぶりつき、みたいに 寄っていくといいんでしょうね。 |
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「おいしそう」と思いながら、 シェフはたぶん 「いちばんおいしそうに見えるには どうすればいいだろう」と考えて、 体が勝手に動いているんだと思うんです。 皿の向きを変えたり、 箸やナイフフォークを調えたり、 じぶんの影にならないように 食べものに当たる光を ちょっと探してあげたり、 画角を決めるのに体を前後したり、 そういうこと、してますよ。 こないだ見てたけど。 |
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ちょっと無自覚でした! | |
じゃあ、本能でこの方は。 | |
そうなんです。 シェフが「おいしそう」って言って カメラを構えているときは、 シズルをつかまえようとしているんですよ。 物を見るっていうことと 「おいしそう」と思うことが重なっているから、 「おいしそうな写真」になるわけですよ。 |
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ほお〜。 | |
で、モギさんは、物を見るっていうことと 「おいしそう」っていう思いが 重なってないから、食べ物を撮っても 「おいしそうじゃない写真」になるわけですよ。 |
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物を撮っているんですね。食べ物じゃなくて。 | |
そうなんですよ。物を撮っている。 | |
(つづきます!) |