野田琺瑯の 野田善子さん。 (工場見学もしてきました)




── お話をうかがいたかったことのひとつに、
「ぬか漬け美人」があるのですが。
野田 あ、「ぬか漬け美人」ですか。
そこに、ありますね。
── そうそうそう、これです。
野田 手前の丸いのではなくて、
その奥にある長方形のが
「ぬか漬け美人」になります。
(※画像のフタはサンプルで
  製品化はされていません)
── はい、わかります。
私事ですが、ほんとうに便利に
使わせていただいてますので。
野田 そうですか、ありがとうございます。
6年ほど前に発売した製品なのですが、
おかげさまで息の長い人気となっております。
── 手軽に冷蔵庫でぬか漬けができるのが、
ありがたくて。
野田 実はこれには、前身の製品があったんです。
最初はもっと大きな琺瑯容器で。
そこに、ありますよね。
── 「漬け物ファミリー」。
ほんとだ、大きいですね。
野田 昭和51年(1976年)に発売したものです。
当時の主力商品でした。
もう、作っても作っても間に合わないくらい
多くの方々に使っていただいて。
── そんなに。
野田 そのころは、どこのご家庭にも、
ぬか床というものがあったんです。
ところが、
急にこれが売れなくなるんです。
── そうだったんですか‥‥。
どうしてでしょう?
野田 どうしてでしょう? 
って、私も考えました。
いろいろ調べてみましたら、
おしんこの中でいちばんよく売れるのは、
ぬか漬けだということがわかったんです。
「あ、みなさん嫌いではないんだ」と。
── 食べる人は食べている、と。
野田 問題は家の構造でした。
── 家の構造‥‥。
生活が洋風になってきたということですか。
野田 そう。
団地ができ、マンションができて、
そういうスタイルが
理想の住まいになったんですね。
── なるほど、
高度成長期ですね。
野田 はい。それで、そういう住まいになりますと、
涼しい場所というのがなくなってくるんです。
昔はお台所の隅とか、縁の下とか
涼しい場所というのがあったんですよ。
それがなくなったがために、
みなさんぬか床を腐らせてしまうんです。
── ああー。
野田 相変わらずぬか漬けは食べるのですが、
みなさんスーパーで買われるようになって。
── 高くても手軽なほうを。
野田 そうして「漬け物ファミリー」は、
まったく売れなくなってしまいました。
── 涼しい場所がないから。
野田 はい。
それから、いろいろ考えたり、
試作を重ねているうちに‥‥
ある日、思いついたんです。
「そうだ、涼しい場所は冷蔵庫しかないぞ」と。
試しに冷蔵庫で漬けてみよう、と。
そうしましたら、
これがみごとにおいしくできるんですよ。
しかも、毎日かきまわさなくても平気なんです。
── はあー、なるほど。
野田 それからサンプル作りをはじめたのですが、
そこで問題になってくるのが大きさなんです。
── サイズ。
野田 そう、冷蔵庫にちょうどよい
サイズでなければいけませんので。
ちょっとでも背が高いと、
こう、棚板がペコンと持ち上がっちゃうんです。
棚板1枚はずされたら、
冷蔵庫の容量がとても少なくなってしまいます。
女性にとって冷蔵庫というのは
宝箱みたいなものでしょう?(笑)
その宝箱の大切な空間を
奪ってしまうのはたいへんなことです。
── なるほど、わかります。
それで、どうやって高さを決めたんですか?
野田 大きな電器屋さんに、
メジャーを持って測りにゆきました。
── すごい(笑)。
野田 どんどん測ってゆきまして、
比較的ちいさめで家庭用の冷蔵庫でも、
高さが12センチなら入る、
ということがわかったんです。
── 12センチ。
野田 「よし、この高さなら、
 うちの冷蔵庫にもぎりぎり入る」と。
── 最終的にはご自分の冷蔵庫で
決められるんですね(笑)。
野田 そう、そうなんです(笑)。
‥‥こう申し上げてしまうとあれですが、
私は自分が欲しいもののために必死なんです。
「売りたい」ということではなくて。
── 基本は、自分のために。
野田 そうですね、やっぱり好きなんです(笑)。
キッチンでいろいろな道具を使うのが好きで、
毎日お料理をしながら、
「ああ、こんなふうになったらいい」とか
「こういうものがほしい」とか、
ほんとに勝手な願いばっかりでして(笑)。
「売れるかもしれない」と思ったものは、
ひとつもないんです(笑)。
── 自分のために、という思いが、
そのまま多くの人々のよろこびに
つながっていったんですね。
野田 そんなに素敵に言ってくださって、
ありがとうございます(笑)。
要するに、単純な発想なんです。
毎日の家事の中で生まれた、
ほんのちょっとしたアイデアで。
── 人気の「ホワイトシリーズ」も、
そうしたアイデアから‥‥。
野田 そうですね、うちのキッチンから。
── 「ホワイトシリーズ」のお話、
ぜひ聞かせてください。

(つづきます)



2009-07-16-THU